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システマ随想 第七回 ミカエル・リャブコインタビュー in ロシア 01

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ロシアン武術「システマ」の公認インストラクターである、北川貴英氏が書き下ろしで語る、私的なシステマについての備忘録。第七回目の今回は、システマの最新情報を入手するため、8月中旬にロシアに行った北川さんによる、創始者ミカエルの「現地直送」インタビューです。いま、なぜシャシュカなのか。コサックの伝統的な武器が現代のシステマ愛好家に必要な理由に迫ります。


システマ随想

第七回 「シャシュカとニュースクール」
インタビュアー・文●北川貴英
通訳●松本陽子


武器に秘められた力

─9月に毎年恒例の大規模なセミナーが行われますが、今年は『インターナルワークの鍵としてのシャシュカ』というテーマです。これに決めた理由について教えてください。

ミカエル いまインターナルワークを用いるニュースクール(新しい潮流)を作りつつあります。シャシュカを使うことによって、それを簡単に教えることもできますし、学ぶ側が試すのも簡単なためです

─インターナルワークを教えやすい、ということですか?

ミカエル そうとも言えますが、完全な答えではありません。シャシュカは身体を整え、正しい姿勢を学ぶためにも必要です。またシャシュカは手に力を与えてくれます。今回のセミナー(2015年8月15日、16日にモスクワ本部で行われた週末セミナー)に参加した人はそれを感じたことでしょう。シャシュカは身体とメンタルを整えてくれます。それによってインターナルワークを理解することができるのです。

 日本の武術もインターナルワークと関連のあるものが多いです。ですから日本の皆さんにとっては分かりやすいのではないでしょうか。日本古来の武道もそうですし、現代の合気道なども内面のワークに関連するものです。
 武器を使わないとインターナルワークとは教えにくく、分かりにくいものなのです。それをある程度習得したら、ものを使わなくてもインターナルワークを行うことができます。ウィップにも同様のことが言えます。ウィップでトレーニングすることによって内面を整えることができます。

ロシアでの稽古シーン

─インターナルワークが上達したらどうなるのでしょう?

ミカエル 感じることができるかと思います。正しく動けているかどうか、最低限の力で動けているかどうか。そういうことが感じられるでしょう。あなた方は漢字を使いますが、最初はゆっくりと練習して、次第にすらすら書けるようになりますね? それも意識することなく勝手に手が覚えていくでしょう? それと同じことですね。

 今回のセミナーでも最初の頃と今とでは身体の動きが違って来たでしょう? これを言葉で表現するのはとても難しいことです。でも練習をすればその分、上達します。

─毎年、ミカエルにシャシュカの稽古をつけてもらっていますが、だんだん負けたのが分かるタイミングが早くなってきました。前は斬られて初めて負けたことが分かりましたが、今では向き合った瞬間に位置取りで負けているのが分かります。これは何が起きているのでしょう?

ミカエル 立ち位置で負けていることが分かるかどうかは、とても大事なことです。最初は立ち位置を見て、立ち位置を変えていくようにします。自分が負ける位置に立っていることがわかる、ということが最初のステップなのです。すでに負けていることが分かれば、逆転するわずかな希望を見出すことができるようになってきます。それが分からずに無闇に突っ込むのはただの自殺行為ですから。
 自分が不利な立ち位置に立っていることが分かれば、より良い位置に移動したり、戦略を練ったりすることができます。自分にチャンスがないと分かっていたら突入する必要はないでしょう? 蛇でいっぱいの部屋に踏み込むようなものです。入らないのが賢明ですね。

この続きは、書籍『システマ・フットワーク』(日貿出版社)にも掲載されています。

ロシアでの稽古シーン2

─「良い立ち位置」とはどのような位置ですか?

ミカエル 敵がシャシュカを持っているとしたら、その位置と剣の軌道を踏まえてそこから外れる位置に立たなくてはいけません。身体の向きやシャシュカの刃の向き、手の位置などから、シャシュカが描く平面が決まります。その平面から逃れるのです。攻撃の軌跡から逃れるのです。

─シャシュカの構え方についてアドバイスはありますか?

ミカエル 特に決まった構えはありません。ただ一つ言えることは、自分がその後で攻撃しやすいようにシャシュカを持つのが良いのではないでしょうか。その場合、もちろん相手に向けておいた方が良いでしょう。例えば狩りに出かければ銃口を獲物に向けますよね? それと一緒です。

知識と技術の違い

─ミカエルはシャシュカの使い方をどのように身につけたのでしょう?

ミカエル セミナーやクラスで教えたり、自分なりに練習したりして少しずつ身につけていきました。ですからあなた方も私の先生なのですよ。

─昔のコサックの人たちは子供の頃にウィップを与えられ、その扱いを通じてシャシュカの使い方を学んだと何かで読みました。ミカエルもそのようなことがあったのでしょうか?

ミカエル 振り回すだけでは意味がないですね。師匠が必要です。お父さんやおじいさん達が師匠として、家伝の武術やコサック伝来の武術を教えていました。それぞれの家にそれぞれの秘伝が伝わっていたのです。人はそれぞれですから。

─ミカエルのお父さんやお祖父さんのシャシュカに関するエピソードはありますか?

ミカエル もちろんありますが、簡単には思い出せません。思い出したら言いますね(笑)

─テレビやインターネットではシャシュカをくるくる振り回す技法がしばしば紹介されていますが、ミカエルのはこれとは大きく異なる印象を受けます。なんらかの関連などはあるのでしょうか?

ミカエル 知恵が必要です。子供がくるくる回すのも大人がくるくる回すのも、知識がないのは同じです。振り回すだけでは体操にしかなりません。シャシュカの使い方はとても奥が深いものです。ですから、くるくる回すのはそのごく一部でしかありません。セミナーを1日やるとしたら、そのうちの25分程度でしょう。そのわずかな時間でシェアできる情報に、大きな意味を持たせる必要はありませんね。日本刀も剣を出したり、入れたりしますね。これはとても重要な動きですからセミナー全体の中で30分くらい練習するかも知れません。でもそれは知恵ではなくて技術にすぎません。私たちはしばしば、知識と技術を取り違えてしまうのです。

─知識と技術はどのように違うのですか?

ミカエル 知識は分厚い本です。技術はとても大事ですが、その一部です。それだけでは不十分です。私もインターネットでとても美しく武器を振り回す人を見たことがあります。気に入ったので思わず「いいね!」を押してしまいました(笑)。でもそれでおしまいです。どれだけきれいに武器を振り回しても、ライオンが襲ってきたら逃げるでしょう? それだけのことなのです(笑)

─ミカエルの家族に限らず、シャシュカの達人についてのエピソードで知っているものがあれば教えてください。

ミカエル ロシア革命の時、コサックは子供も含めて殺戮されてしまいました。タタールのくびきの時にも、車輪の直径よりも背の高い人が全員殺されてしまったといったこともありました。ですから伝承は断片的にしか残されていません。私はその断片をあちらこちらから集めているのです。ですから残念ながら、ちゃんとした知識を持っている人はごくわずかです。だからあなた方はラッキーですね。このお店にはなんでも揃っていますよ(笑)


オールドスクールとニュースクール

─ニュースクールの登場など、システマの練習は変化し続けていますが、今後はどのようになるのでしょう?

ミカエル いわゆるオールドスクールのトレーニング、つまり呼吸やマーシャルアーツのテクニックは重要です。身体と心理を整えるのに大切な練習です。これに対してニュースクールは、感じる力を養成するものです。独身生活がオールドスクールなら、結婚生活がニュースクールです。結婚すれば愛情が芽生えるでしょう? それと同じで内面が伴うようになるのです。

今回はシステマ東京からも多数、モスクワセミナーに参加。インタビューはセミナー終了後、参加者全員が聞いている中で行われた。


─ではさらにその次の、子供が生まれた段階とは?

ミカエル テクニックとインターナルワークがともにあるのが次の段階です。各々の段階に到達する時に必要なのは、各人の「覚悟」です。「気づき」と言いますか。でも二つのものをくっつければ良いというわけではありません。男性と女性が一つになって子供が生まれて来るように、オールドスクールとニュースクールが一つになり、そこから生まれてくるものが次の段階なのです。私はいつだって出し惜しみをしません。全ての情報をさらけ出しています。知識を与えることが私の役割だからです。日本の皆さんには、部分的なシステマで満足するのではなく、全体としてのシステマの学んでいってもらいたいと思っています。

─ありがとうございました。


(第七回 了)


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-- Profile --


著者●北川貴英(Takahide Kitagawa)

08年、モスクワにて創始者ミカエル・リャブコより日本人2人目の公式システマインストラクターとして認可。システマ東京クラスや各地のカルチャーセンターなどを中心に年間400コマ以上を担当している。クラスには幼児から高齢者まで幅広く参加。防衛大学課外授業、公立小学校など公的機関での指導実績も有るほか、テレビや雑誌などを通じて広くシステマを紹介している。


著書

「システマ入門(BABジャパン)」、「最強の呼吸法(マガジンハウス)」
「最強のリラックス(マガジンハウス)」
「逆境に強い心のつくり方ーシステマ超入門ー(PHP文庫)」
「人はなぜ突然怒りだすのか?(イースト新書)」
「システマ・ストライク(日貿出版社)」
「システマ・ボディーワーク(BABジャパン)」
「ストレスに負けない最高の呼吸術(エムオンエンタテイメント)」

監修

「Dr.クロワッサン 呼吸を変えるとカラダの不調が治る(マガジンハウス)」

DVD

「システマ入門Vol.1,2(BABジャパン)」
「システマブリージング超入門(BABジャパン)」

web site 「システマ東京公式サイト」

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