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なぜ"あの件"は報道されないか②通信社編

トレースするときに使う透け透けの紙"トレーシングペーパー"のことを略して「トレペ」って呼ぶんですけど、新人スタッフに「トレペ持ってきて」と頼むとトイレットペーパーを持ってくることがあります。

本当に?

メディアが決して報じないこうした話題こそ、われわれのリテラシーが試されます。

まあ冗談はさておき、リテラシーが低くてデマによく釣られる人ほど「メディアは報道しない!おかしい!」と陰謀論に陥るのは当然のこと。掲示板やSNSではデマを真に受けた人がそれを再生産できてしまうので同類をどんどん引き寄せ合って膨張していきますから、なおさら「こんなに話題になっているのにメディアは報じない!」と言い始めます。そりゃあ、ただネットで雑談しているだけでそれが報道されるわけないでしょう。

でも、そんな彼らにもやさしく。

という話の2回目です。でしたっけ。

ネットで拾える断片的な情報+αを寄せ集めて"真実"を見い出そうと安楽椅子探偵ごっこを続けていても"答え合わせ"はできないので、「誰か答えを教えてほしい(正解だと言ってほしい)」ということになっていきます。そこでメディアを頼るのはどうなの? と思いますが、使えるものはなんでも使おうという姿勢はそう悪いものではありません。使えるものなら、ですけど。

安楽椅子からは見えない景色

この手の安楽椅子探偵ごっこや陰謀論の厄介なところは、たまに当たりを引くことがあるのと、不正解を不正解だとメディアは言ってくれないので、彼らのなかでは「報じられなかっただけで、以前の話題もすべて正解だった」と認知されることです。

ただ、彼ら安楽椅子探偵諸氏にも気の毒な部分があります。それは、たまに真実にたどりついたとしても、報道されない場合や扱いが小さくて気付けない場合があることです。

前回お話ししたように「いまさら」だからということもありますが、メディア側のキャパシティーの限界もその一因です。新聞にしてもTVにしても、限られた枠のなかで自媒体の読者・視聴者向けの情報を優先しなければいけませんからね。エッチ(気味)なマンガの広告を批判されても日経新聞が平気で無視できるのと、若者やネットの関心事がいまや老人向けとなったTVや新聞に掲載されないのは同じことです。前回の繰り返しになりますが、メディアは「社会の公器」ではありませんからね。

そういえば少し前に名前の知られた新聞記者の方と(偶然)お話しする機会があったのですが、有名記者だけに社の"エース"的な仕事をしているかと思いきや、その日の次の仕事は"スポンサーの取材"とのこと。詳しくは聞きませんでしたが、広告主の会社の画期的なサービスを紹介するとか、そこの社長に話を聞くとかではないでしょうか。名前の知られた記者が来れば喜んでもらえますから広告主をつなぎとめる策としては有効でしょうけど、"接待"ですよね、それ。

見過ごされがちな"通信社"の存在

さて、そんな有名記者に読者のためになるのかわからない仕事をさせている一方で、TV・新聞などのメディアに人的余裕があるわけではありませんから、世間で起きている"様々な事実"を満遍なく取材したりはできませんし、しません。国民生活に直接関わる重要なことや急遽起きた大事件などには人員を割いて取材し、記事に独自性を出そうとしますが、あとの小さい話題については"通信社"が頼りです。

通信社とは、主にTVや新聞に向けてニュースを提供する企業で、具体的に言えば共同通信と時事通信です。大都市以外の地方も含む日本中に支部などを持ち、幅広く取材してその成果を契約している新聞社等に提供しています。新聞等は、そのなかからニュースを自社媒体に掲載できますが、ニュースは無数にあるのでもちろん取捨選択をします。

ただし通信社が提供するニュースは他の媒体も掲載するので、独自性を出すためには使えません。そのため扱いはとても小さくなりがちですし、見過ごされがちです。

なお、もともと通信社は裏方ですから自社媒体を持っていませんでした。だからメディア(媒体)とは呼ばれるなかに含まれないことが多かったのですが、ネット時代になって自社サイトもSNSアカウントも持つようになったので間違いなく「メディア」と呼んで差し支えない存在になっています。

安楽椅子探偵諸氏が言う「メディアが報じない!」はたいていTVと新聞を指していますが、幅広いニュースの源流にある通信社のことは見過ごされがちです。通信社のサイトとSNSアカウントくらいはチェックしたうえで「メディアが報じない!」と言ってほしいものです。実は報じられていると気付ければ"答え合わせ"にもなりますからね。

ま、実際には「またメディアが報じなかった!」と言いたい気持ちが先を行っているのは明白ですから、そんなことしないでしょうけどね。

報じても、報じなくても、どちらに転んでもいいように振舞うのはマンガで良く見かけるようなわかりやすい戦略です。注目している相手と接点のある人々の名前を見つけては「つながった!」「背後に大きな影が!」と喜びつつ、負けたときに「相手が巨大すぎる、仕方なかった」との言い訳を整えていくのも、魔女狩りを始めとした陰謀論の定番です。もちろん本当につながっていることもありますし、さらなる黒幕は人ですらないもっと恐ろしいものということもありますから、決して油断せず用心してほしいなと思います。大手メディアは報じていないかもしれませんが、「いのちだいじに」と昔の偉い人も言っています。

さて、次回は「メディアが報じない!」という嘘の最大の被害者であるTVについて触れて、この話を終わりにしたいと思います。

(つづく)


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