見出し画像

ドット絵メイキング『ファミコンのカセット』(後編)

今回は、前編で作成したテンプレ的「名無し」ファミコンカセットをベースにして、いくつかのゲームのカセットを描いた過程を紹介します!

なお、各ドット絵は主に「ドット絵まちがいさがし」で使用したものです。

スーパーマリオブラザーズ

もともと「名無し」カセットの元はスーパーマリオですから、やることはラベルのなかのイラスト枠を描くだけです。

とはいえ、だいぶ簡略化しています。もともとのスーパーマリオのイラストはクッパ、キノピオ、ピーチ姫ら"オールスターキャスト"が描かれたものなのですが、さすがにこのドット数で表現するのは無理ですから、キャラはマリオひとりに集中せざるをえません。

背景も、左に崖、右に島とクッパの城があることが辛うじてわかる程度に。

んー。ところでこのイラスト、マリオがピーチ姫を見捨てて逃げているようにも見えますね。背景はゲームの進行方向にあわせて目的地である城を右に持ってきたのに、マリオは上手(かみて)下手(しもて)の関係に準じて左向き(上手である右から登場する)にしてしまったのでしょうか?

なお、背面も作りました。

斜面が奥にくるので、奥に暗色を細くいれることで前面が狭くなっていく様子を表現しています。ラベルは注意事項の文字だけなので、ミミズの群れを描くだけです。

あ、署名を忘れてましたね。

ドラゴンクエストI~IV

お次はファミコンで発売されたドラクエシリーズ4作です。

4作ともカセットの色は黒なのですが、本当に真っ黒にするろ明暗差を出せないうえにフチドリ線をより暗くすることもできなくなるので厄介です。

というわけで、どうにか「ドラクエのカセットってグレーだったんだ?」と言われない範囲でできるだけ明るめの色に調整します。ドラクエ1はラベルも黒いので、その点も考慮に入れておきます。

あとは、それぞれのラベル部分を描き込んでいきます。ドラクエシリーズのラベルはスーパーマリオと同様にイラストが小窓のなかに入っているデザインですが、ロゴは"例のヤツ"が重ねて描かれています。

というわけで、まずはロゴを先に描いてバランスを確定し、そのあとでイラスト部分を描く、という手順としました。

ドラクエ1のイラストは、左にドラゴン(竜王ではない?)と右に勇者、という配置。このイラストを知っている人なら「ああ、こんなだったね」と思えるでしょうけど、知らない人には「なにがなんだか」でしょう。左のドラゴンにはロゴが被っていますし、勇者は背中向きですからね。

ところでこのイラストは、メインビジュアルとしてはかなり特徴的なものになっています。普通のイラストレーターは、あまり主人公を背中向きに描かないものなのです。

これもスーパーマリオと同じくゲームの仕様(モンスターと正面から対峙する)を踏襲したのかもしれませんが、普通のイラストレーターは嫌がりますし、ディック・ブルーナ(ミッフィーとして知られる正面向きウサギでおなじみの絵本作家)には説教されかねません。当時はおそらく自身のマンガ以外を手掛けていなかった"マンガ家・鳥山明"だからこそのイラストと言えるかもしれません。

さて、次はドラクエ2。

左に敵役ハーゴンが配置される構図は同じですが、一転、主人公のひとりであるローレシアの王子が中央で前向きにジャンプしている"普通のイラスト"になっています。なにか方針転換があったのか、興味深いところです。

ドット絵的にはロゴを大きく強調しているのでハーゴンは"おでこ"だけになっていたり、右端にいる残り2人の主人公・サマルトリアの王子とムーンブルグの王女に残されたドット数はわずか2ドットずつしかなかったりと、なかなか苦戦を強いられました。

そしてドラクエ3では……

なんと、ついに主人公が真正面向きに! ディック・ブルーナもきっと笑顔です。

ドット絵的には斜めに見ているので、中央の勇者の顔をどこかで1ドットずらしたいところなのですが、顔が歪んでいるように見えてしまうので厳しく、そのまま真正面向きに描くことに。あとは、「まちがいさがし」のネタにもしましたが、ドラクエ3のロゴは最後の"T"の字が剣になっていないので、そこを忘れずに描き換えています。

さて、あとはドラクエ4ですが……

これまでの3作とは異なりイラストが左、ロゴが右という配置になっています。おそらくロゴの右側に"デカイ城"が描かれているせいで、左に持ってくるとイラストを広く隠してしまうためと思われます。

イラストは右寄りの女勇者が前向きジャンプし、左側には背景として振り返る男勇者が大きく描かれています。

ドット絵的には、大きくしたロゴのせいで、女勇者が隠れてしまったのはプランニング上の失敗です。あとはロゴが大きく情報量も多いため収めるのがたいへんだったのですが、そういえばこのロゴもその後の移植時には少しスッキリしたものに変わっていますね。

なんだかドット絵メイキングというより、イラストやロゴの意味するところを深堀りする感じになってしまいましたが、描く対象をよくよく見つめ、比較することで、その一部を自分の経験にできることは良いことですね。歴史を知ることの大切さを思い知ります。

ドンキーコング

さて、最後に没ネタとして『ドンキーコング』のカセットも掲載しておきます。

ファミコンの初期タイトル(今でいうローンチタイトル)のひとつ『ドンキーコング』からしばらく、任天堂作品のラベルはこのような心電図的な共通のデザインでした。左中央上部にカナで「ドンキーコング」と書かれているのですが、ドット絵では区別できませんので、あえなくボツ! ということになりました。

「なんでこんなデザイン?」と思うかもしれませんが、おそらく"1色刷り"でコストが安かったのだと思います。ファミコン発売当初には、やがて人類の歴史に名を遺すほどの大ヒット商品になるなんて、さすがに想像できなかったでしょうからね。なお、ドンキーコングはその後パッケージデザインが変更され、ラベルもスーパーマリオと同じタイプのイラスト付きのものに変わっています。

「じゃあそっちを描けばいいのに」と思うかもしれませんが、それはドット絵を描いたあとに知ったのです。当時を生きていたからこそ知ることもあれば、知らないこともあるのです。

この記事が参加している募集

つくってみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?