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人事領域に「KPI設計」が必要な理由

こんにちは、WorkTech研究所の友部です。
前回は「ハイパフォーマー分析をどこから始めるか」について書かせていただきました。パフォーマンスについての定義が決まれば、それをベースにKGIやKPIを設計できるので分析にとってHappyだよね、というお話でした。

人事に限らず事業やサービスにおいて、分析やデータ活用において切り離せないのがKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)です。私のような分析屋の最大の仕事はKPIのデザインである、と言ってもいいくらいです。しかし、ただの数字や指標のこともKPIといいがち。世界はKPIであふれています。一方で人事領域は、定量化することが難しいからかKPIがないがしろにされてしまうことも多いです。そこで今回は、KPIがあるとなぜ嬉しいのか、そしてなぜ人事のKPIの設計が難しいのかを中心に、KPIの話をさせていただきます。

KPIとは何か

「データ活用しなければ」という空気があると、なんとなく数字にして集計してみてKPIとはなんぞやについて、悩むことが多いわけですが、「そもそもKPIがあるとなぜ嬉しいのか」について十分に理解されていません。

人事でいろいろな施策を実施していると思いますが、それぞれの施策が「うまく行ったか」をどのように判断して、それを経営や従業員の方々へどのように説明してますでしょうか。そもそも、人事施策の成果は見えづらいものが多いため、人事施策の意義を複雑なロジックを組んで経営に説明したり、施策がうまく行っていることを感覚的な表現で従業員の方々に伝えたりと、大変な苦労をしているかと思います。

そこで、活躍するのがKPIです。

KPIとは何か、の定義についてはKGIやKSFとの関係性など含めいろいろなところで解説されているので、ここではもうちょっと感覚的な話をします。私は、KPIとは「端的にプロセスがうまく行っているか判断するためのツール」として位置づけています。

KPIは前述したとおり「重要業績評価指標」です。ただ、この「重要」というのが曲者です。決まった観点がないと何が重要なのかよくわからないため、どの指標も重要に思えてしまいます。結果、いろんな指標をKPIと呼んでしまい、世界はKPIであふれてしまう。ですので、良いKPIを作るにはある基準を持って設計する必要があります。どの指標を重要としてKPIに選ぶのか、基準となるのが「端的にうまく行っているかを判断できるか」というものです。

身近なKPIの例として、「体重」があります。主にスタイル改善や健康維持などの目的でそのプロセスの進捗確認のために体重を利用することがありますが、この場合は体重がKPIとなります。もちろんダイエットなどでは体重以外にも体脂肪率やウエストサイズなど別の指標も使えますが、推移を追うことで行動改善に繋げやすい(体重が増えたら食べるのを控える)ことや、アクションの結果として観測しやすい(運動頑張ったら体重減った)ことなど、スピーディーな判断・意思決定をしやすいKPIです。そもそも体重を減らすこと自体が目的なら体重はKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)となりますが、あまりダイエットとしてはおすすめできません。

余談ですが、前々職のとき同僚と2ヶ月に減量した重さで競う「ダイエット大会」をやりました。最終的には血を抜いたり(献血)、無理な断食したり、下剤飲んだりと健康とはかけ離れた行為に走りがちだったので、振り返ると体重をKGIとすることの悪い例だったなぁと思います。

なぜKPIがあると嬉しいのか

では、なぜKPIがあると嬉しいのでしょうか。一番の理由は、定量指標によって客観的に事象の良し悪しが判断できるから、です。定量指標がないと、事象の良し悪しは観測する人の感覚で判断することになるため、透明性や公平性が失われてしまいます。

もう一つKPIが必要となる大きな理由は、意思決定をスピーディーに行うことができるから、です。ある事象が繰り返し起こるとき、都度分析のために思考するとエネルギーと時間を使ってしまいます。KPIが用意してあれば、同様の事象が起こった時にKPIによってスピーディーに判断・意思決定することができます。KPIで「端的にうまく行っているかを判断できる」ので、思考のためのエネルギーや時間は課題解決や施策に使うことができるようになります。このような観点からKPIとは何かをもうちょっと詳しく書くと、「あるべき姿に対してのギャップがすぐに判断でき、スピーディーに意思決定できるもの」になります。

何度も繰り返し行うような施策を設計する際には、施策がうまく行っているかを判断するKPIを時間をかけて最初に設計しておけば、施策が良かった/悪かったの議論ではなく、なぜ良かった/悪かったのか、具体的なアクションは何をするのかの議論に時間をかけることができます。

一度設計してしまえば便利なKPIですが、注意が必要です。様々な状況の変化により、せっかく設計したKPIが「端的にうまくいっているか判断できる」ものではなくなってしまうことがあります。にもかかわらず、形骸化して同じKPIを利用し続けるケースもあるので、KPIは定期的に見直される必要があります。

こういったKPIの設計こそ、我々のような分析屋の仕事の醍醐味だと思います。KPIの設計によって分析の再現性を高め、施策が安定的に運用される体制ができることが望ましいです。

とはいえ人事のKPI設計は難易度が高い

KPIとは何か、KPIがあると何故嬉しいのか、は伝わったかと思います。しかし、人事においてはKPIに基づく施策運用の難易度は事業やサービス運営に比べ高いと思っています。それにはいくつか理由があります。

1. あるべき姿が曖昧である

先日のnote「データ活用を阻む3つ壁」でも書きましたが、あるべき姿が曖昧である、ということが人事におけるKPI設計を難しくしていると思います。うまく行っている状態とは「あるべき姿」なのですが、そのあるべき姿自体があいまいなので、KPIを設計してもうまくいっているかどうかがわからなくなってしまいます。ここでもやはり、あるべき姿の定義がKPI設計でも重要になります。

2. KGIが不明、もしくはKGIとの接続が難しいことが多い

そもそも、人事におけるKGIが何かが不明なケースが多いのではないでしょうか。目標達成の最終状態が生産性向上/人的資本の向上等になるかと思いますが、それを数値化する手段がありません。また、経営に資する・事業に資するということを考えるとKGIを売上や利益にすることも可能ですが、人事で行っている施策との接続を説明することは難しいです。また、KGI/KPIをベースとした課題解決の事例として公開されているものが少ないため、というのもあります(事例に関してはこちらのnoteで今後発信できれば幸いです)。

3. データの収集手段が限定的

人事領域はデータの収集手段が少なく限定的です。各人事セクションの業務で利用しているデータか、サーベイなどアンケートで取得したデータがメイ
ンで、限られたデータを基にKPIを設計する必要があります。

…と、それぞれ非常にハードルが高いです。KPIをベースとした人事におけるデータ活用が中々進まないのはこれらの課題があるからだと思います。

従業員の方々の働き方のあるべき姿や、各人事課題やそれに対するアプローチは会社や組織によって異なるので、自分たちで考えなければならない、というのはありますが、KPIやKGIについて共通の概念や事例があれば、もっとスムーズに分析が行えるのではないかと思っています。次回は、人事のKPIとしてどのようなものが考えられるか、それをベースに「人事におけるデータ活用のあるべき姿」はどういったものか、について書かせて頂く予定です。

というわけで、今回はKPIについてのお話をさせていただきました。人事データの活用や、人事関連の指標の開発、分析の考え方などWorkTech研究所へのご相談やnoteへのリクエスト等ございましたら、引き続きお気軽にお申し付けください!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。