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【海外HR事情】パフォーマンスマネジメント再構築 - 上意下達から共創へ

Blockのパフォーマンスマネジメント改革案

Block(元Square)のCEO、ジャック・ドーシー氏が2023年11月に社内に向けて書いた、パフォーマンスマネジメントを改革する旨のメールがSNS上で公開された。業績管理、業績評価の手法についての試行錯誤が伺える。抄訳・超訳で紹介する。


私は、今のパフォーマンスマネジメントのやり方が、我々の足を引っ張っていると考えている。社員にとってのメリットに比べて、マネージャーの負担が大きすぎるからだ。このことを、「マネージャーに対するDoS攻撃」だと表現する人もいるほどだ。社内のあちこちに先送り主義がはびこる原因になっていると受け止めている人もいる。

そこで私は、今年の「年次パフォーマンスレビューサイクル」の開始に当たり、いくつかの制度変更を行うことした。

  1. 年次パフォーマンスレビューサイクルの廃止:まず、今回が最後の年次パフォーマンスレビューサイクルになる。パフォーマンスレビューは、関係者全員に非常に重荷となっているだけでなく、それで会社がよくなっているわけでもないからだ。パフォーマンスは継続的に評価されるべきであり、フィードバックもあえてこの時期まで待つべきではない。個人ごとに、チームごとに、製品リリースや完成などの自然な流れに乗ったマイルストーンがあるわけだから、リーダーはフィードバック、昇進(大幅な簡略化が必要!)、報酬、離職(長引かせるよりは即時の)などを、よりタイムリーに、より具体的に、そしてよりパーソナライズされた形で行う必要がある。実務的にどのような運びとするかは現在検討中で、年内に人事部から詳細をお知らせする。

  2. 評価結果の可視化:次に、パフォーマンスレビューの結果を社員本人がよく分かるように、可視化することにする。全員が自身の立ち位置や改善方法を知る資格があるからだ。これにより、社員とマネージャーの対話が進み、マネージャーが部下をどれだけよく指導できているかについての洞察も得られる。これまでの給与バンドに代わり、3段階の評価ランクを導入する。公平で最も分かりやすい考え方は、期待値に対する評価であろう。つまり、上司と一緒に設定した期待値を上回ったか、期待値に達したか、期待値を下回ったかの3段階だ。こうして、上司と部下はお互いに目標に対する責任を負いながら、公正な双方向の対話を持てるようになる。

  3. 業績改善計画の廃止:第3に、各人の現状が明確かつ継続的に把握できるようになる以上、業績改善計画(Performance Improvement Plan, PIP)は廃止することとする。PIPは必ずしもうまくいっていなかったし、マネージャーのフィードバックが遅くなってしまう原因になっていた。直接的で継続的なフィードバックがあれば必要のないプロセスであった。

  4. リーダーシップ評価の強化:最後に、そして最も重要なことだが、当社の仕事ぶりはリーダーの仕事ぶり以上にはならないわけであるから、リーダーのパフォーマンス評価にはより力を入れていくつもりである。リーダーシップは大きな責任を伴う特権だ。優れたリーダーが不在で、高い目標に挑戦できない状況では、すべてが停滞してしまう。私たちはリーダーの業績が低かったり、凡庸であることを容認しない。私は皆さんにお約束する。私たちはリーダー全員に非常に高い期待値を設定するし、うまくいかない場合には非常にすばやく対処する。

そして当然のことながら、これは私自身にも当てはまる。毎年恒例のことだが、今年の私のパフォーマンスレビュー結果を皆さんに共有する(添付)。

ありがとう。ジャック

組織文化の転換 - 社員主導のパフォーマンスマネジメントへ

これに対し、コンサルタントのMichele Zanini氏が「ジャック・ドーシー氏への公開書簡」と題した記事を発表した。パフォーマンスマネジメントは上意下達だけではないと指摘しており興味深い。抄訳・超訳する。


最近発表された改革案、例えば業績改善計画(PIP)の廃止、評価ランクの簡素化と対象者への透明性確保などにより、たしかに一部の課題は軽減されるだろう。しかし私の経験上、これらはパフォーマンスマネジメントの根本的な限界に対処できていないため、大きな変化をもたらすことは難しいと思われる。ポイントは業績に対する責任の定義だ。あなたが指摘するとおり、責任は相互的であるべきだが、ただあなたが考えている変更は、従来型の上意下達式で一方向型のアプローチの合理化に重点が置かれすぎているようだ。真に卓越した文化を育むためには、業績に対する責任を階層を超えて広げる必要がある

高機能素材のゴアテックスなど革新的な製品で知られるW.L.ゴア社のパフォーマンスマネジメントのアプローチを検討してみよう。

・全社員が毎年、自分の仕事を直接知っている5~20人の同僚を挙げるよう求められる。

・この指名リストを基に、ペアワイズ法による同僚評価が行われる。ペアワイズ法とは「この2人の社員のうち、前年度、会社の業績により貢献したのはどちらだと思いますか」という質問のことである。

・このような比較が全社で数万件集められ、集計されて、社員の貢献度ランキングが作成される。

・このランキングを手掛かりとして、各部門の貢献度委員会が報酬データをレビューし、個人の給与が同僚評価に基づくランクと整合していることを確認する。

ゴアの同僚評価による業績評価・報酬制度では、どうすれば付加価値をより高められるかを全員が考えることになる。コラボレーションも促されるだろう。ゴアでは、社員は上司ではなく同僚の方を向いて仕事をすべきであることを理解しているため、同僚に協力するようになるからだ。

社員同士で結果に対する相互責任を負うことに加え、マネージャーに自分のチームに対する責任を持たせるのもよい。あなたが自分の業績評価を公開したことは、すばらしい第1歩になる。Block社の全管理職にも、業績評価の公開を促すことをおすすめする。これを義務化する必要はない。公開しない管理職がいることも、大きな意味を持つからである。

さらに1歩進めて、15年前にHCLテクノロジーズが導入したやり方も検討してみてはどうだろうか。HCLのやり方は、組織上の指揮系統に関係なく、各社員が自分が影響を受けたと思うマネージャーに、パフォーマンスレビューを頼むことができるというものだ。

さらにHCLでは、全社員が以下の点について、マネージャーに対する評価を述べることができる。

  • このマネージャーは、私が顧客によりよい価値を提供することを支援してくれるか?

  • どうやら問題があるらしいことが分かってきた時に、このマネージャーは何が問題なのかを見定め、解決策を示してくれるか?

  • 私が相談にいった時、このマネージャーは解決策を示したり、解決に乗り出してくれるか?

  • 自力で解決策を見つけられない場合、このマネージャーは社内で課題を解決できる他の誰かにつないでくれるか?

結果はすばらしいもので、社員はこうした機会を真剣に受け止め、思慮深いフィードバックが集まったという。そして、自然にチームをエンパワーし支援できる「生まれもってのリーダー」のような人材が誰であるのかが明らかになった。一方で、こうした能力が不足しているマネージャーには、そのメッセージが明確に伝わり、改善に取り組むか、退職するかを選択することになった。

ジャック、あなたは新しいテクノロジーで、中央集権的なシステムを再構築するのに尽くしてきた。時代遅れのパフォーマンスマネジメントについても、大胆に再構築していただきたいと願っている。

(出所)
Jason氏のX Post

Michele Zanini, An Open Letter to Jack Dorsey on Block's Perfomance Reviews, Nov 23, 2023


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