見出し画像

壊死性軟部組織感染症(NSTI)

皮膚軟部組織感染症の最重症疾患です。特異的な臨床所見、検査所見がない上に進行が早いので時間制限もあるという厄介な疾患です。
NEJM  Review 2017(PMID: 29211672)、up to date、市中感染症診療の考え方と進め方 第2版より

【Take Home Message】
・NSTIは進行が早く、死亡率が高いため、早期のデブリードマンと抗菌薬治療が必要
・見た目に不釣り合いな激痛、全身状態不良、ショック・臓器障害がある場合は積極的に疑う
・明らかな侵入門戸がない場合にも発症する場合があるので注意(壊死性筋膜炎 Ⅱ型)
・診断は外科的に切開した皮下所見で行う(dish water、壊死した筋膜、finger test陽性)

<総論>

・壊死性軟部組織感染症は、壊死性筋膜炎やガス壊疽を含む、表皮から深部の筋組織におよぶ広範な組織破壊を伴う皮膚軟部組織感染症の総称
・これらの感染症は、劇症の組織破壊、毒素による全身性の徴候、高い死亡率に特徴づけられる
・正確な診断と治療には、早期の外科的介入と抗菌薬治療が必要
・壊死性筋膜炎は、筋膜表面の脆弱性、灰色の浸出液(dish water)、目立った膿がないことを特徴とする外科的な診断名

<分類>

○壊死性筋膜炎 Ⅰ 型
・好気性、嫌気性菌が関与する多菌感染症
・高齢者や基礎疾患のある患者に多く見られる
・リスク因子は、糖尿病性潰瘍、褥瘡性潰瘍、痔核、直腸裂傷、結腸・泌尿器科・婦人科の処置
・Ⅰ型は、組織内のガスに関連することが多く、ガス壊疽と区別が困難

・頭頸部の筋膜コンパートメントへの細菌の侵入は、Ludwig's angina(顎下筋膜腔の感染)またはLemierre症候群(頚静脈の血栓性静脈炎)を引き起こし、重度の敗血症を伴うこともある
・腸管または尿道の粘膜が破綻するとFournier壊疽が発生する場合がある
・激しい痛みで突然始まり、会陰部から前腹壁、臀筋、生殖器に急速に広がる可能性がある

○壊死性筋膜炎 Ⅱ 型
単一菌による感染
A群溶連菌が多く、次いでMRSAが多い
・Ⅰ 型とは異なり、Ⅱ型はあらゆる年齢層で基礎疾患のない人にも発症する

○その他の微生物
・水系感染として、Aeromonas hydrophila(淡水)Vibrio vulnificus(海水)がある
・これらの微生物とClostridium属による感染(ガス壊疽)を合わせて壊死性筋膜炎 Ⅲ 型とすることを提案する専門家もいる
・Bacteroidesや大腸菌などのGNRによる単一菌の壊死性筋膜炎も報告されている
・これは通常、免疫不全者、糖尿病患者、肥満患者、術後患者、既存の慢性臓器障害のある患者に見られ、通常はⅡ型には分類されない
・真菌によるものを壊死性筋膜炎 Ⅳ 型とする場合もある

<侵襲性A群連鎖球菌皮膚軟部感染症>

・先進国での年間発症率は3-5人/10万人で、平均死亡率は29%
・死亡率は連鎖球菌性毒素性ショック(STSS)や敗血症性ショックを合併した患者で増加する

2つの異なる発症様式
①明らかな侵入門戸からの細菌侵入
・化膿性連鎖球菌の皮膚病変(水疱瘡、虫刺され、裂傷など)、皮膚・粘膜の破綻(薬物注射、外科的切開、出産など)、穿通性の外傷後などに深部組織へ微生物が侵入する
・最初の病変は軽度の紅斑に見えることがあるが、24~72時間かけて炎症が拡大し、皮膚がくすんできた後に紫調の色に変化、水疱が出現する

②明らかな創部・病変を伴わずに深部組織で自然発生
・明らかな侵入門戸がないのにも関わらず、感染が軟部組織の深部で始まることがある
・多くの場合は、穿通を伴わない外傷(筋肉の打撲や挫傷)から始まる
・初めは、発熱と漸増する痛み(麻薬を必要とするほどの強い激痛)を来す
・倦怠感、筋肉痛、下痢、食欲不振などの全身症状も24時間以内に出現する可能性がある
・最初は皮膚症状がないため、感染症の誤診や正しい診断が遅れることが多く、その結果死亡率は70%を超える
・皮膚の斑状出血と水疱が出現するまでに、組織破壊が広範囲に及び、全身毒性と臓器不全が出現する

NEJM Review 2017

<ガス壊疽(クロストリジウム性筋壊死)>

血液供給を損なう深く穿通する外傷は、胞子の発芽と細菌の増殖に理想的な嫌気環境を作る
・このような外傷性ガス壊疽は症例の70%を占める
・他のリスク因子としては、腸管・胆道系の手術、アドレナリン筋注、胎盤の停滞、長期間の破水状態、子宮内胎児死亡がある
Clostridium perfringensが原因の80%を占める
・他には、C.septicum、C.novyi、C.histolyticumが原因となる

<臨床症状>

・典型的な症状には、軟部組織の浮腫(75%)、紅斑(72%)、激痛(72%)、圧痛(68%)、発熱(60%)、水疱、壊死(38%)がある
・症例対照研究では、壊死性筋膜炎と蜂窩織炎を区別する所見として、最近の手術歴、臨床所見に不釣り合いな疼痛、低血圧、皮膚壊死、出血性水疱であった
・侵入門戸のはっきりしないA群連鎖球菌によるNSTIでは感染は深部組織から始まる
・漸増する疼痛(Crescendo pain)は、ショックや臓器障害が出現するかなり前から生じるため、重要な臨床的手がかりとなる
・意識障害がある場合や糖尿病による神経障害がある場合は疼痛がないこともある
・明らかな細菌侵入門戸や発熱の有無に関わらず、四肢に激しい疼痛が突然発症した患者は、緊急に重度の軟部感染症について評価する必要がある

<画像検査>

・ガス壊疽や壊死性筋膜炎 Ⅰ 型ではガス像を認めることもあるが、その他は軟部組織の浮腫を認めるのみで非特異的な所見
・過去の研究では、造影CTにおいて他の筋骨格系の感染症に比較して、筋膜の増強効果が乏しいことが特異的であった
・MRIのT2強調画像で筋肉間筋膜の肥厚と高信号を認める場合があるが感度は高いが特異度は高くない

<LRINECスコア>

・6点以上(≧5.8点)であればNSTIを示唆する(点数が高いほど可能性も上がる)
・3つの研究では陽性適中率 57~92%、2つの研究では陰性適中率が86~96%だった
・小児を対象とした研究では、LRINECスコアの中央値はわずか3.7であった

<診断のPitfall>

○発熱の欠如
・自身で使用したり、救急外来で処方されるなどNSAIDsを使用していることがよくある

○皮膚所見の欠如
・深部組織で自然発生するNSTIは病初期には皮膚所見がない

○重度の疼痛が外傷や処置の影響と考えてしまう
・外傷、手術、分娩後に合併することがあり、疼痛がそれらの影響と思い込んでしまう場合がある
・疼痛が外傷、処置に比して強い場合や疼痛コントロールに麻薬が必要になる場合はNSTI合併を疑う

○画像検査が非特異的
・NSTIでは、浮腫の所見を認めるのみで深部組織にガス形成がないこともある
・浮腫の所見は非感染性(外傷後、術後など)でも見られるため非特異的

○全身症状を他の原因と考えてしまう
・A群連鎖球菌による毒素により、悪心・嘔吐、下痢が早期の症状として見られるが、食中毒やウイルス感染症と誤診することがある

<診断>

外科的に切開した皮下の所見でのみ診断可能
➔本疾患を疑ったら速やかに小切開(試験切開)を行い、筋膜を直視することが重要!

以下のような所見が見られる
淡血性のさらさらした浸出液(dish water)※膿は出てこない、出血は少ない
黄白色の光沢のない筋膜(正常:白くピカピカとしている)
finger test 陽性:指を入れると組織が簡単に剥がれる

※dish waterや筋膜の組織培養から起因菌を同定できるため、必ず培養に提出

NEJM Review 2017 診断アルゴリズム

<治療>

○外科治療
可能な限り早期に外科的デブリードマンを行う
・入院後24時間以内に手術を受けた患者の生存率は、入院後24時間以降に手術を受けた患者よりも有意に改善した
・手術管理の目標は、生存可能な組織(出血を伴う組織)に到達するまで、すべての壊死組織の除去を行う
・デブリードマンは、壊死組織がなくなるまで1-2日ごとに継続する
・四肢を含む重度の壊死性感染症の場合、感染制御のために切断が必要になることもある

○抗菌薬治療
経験的治療(up to dateより)
カルバペネム系 or ピペラシリン/タゾバクタム

抗MRSA薬(バンコマイシン、ダプトマイシンなど)

クリンダマイシン

特異的治療(IDSA 2014より)

IDSA guidelines 2014

<合併症>

○毛細血管漏出症候群
・循環する細菌毒素と宿主のメディエーターにより、びまん性内皮障害を来す
・非常に多くの輸液を必要とする場合がある(ex 10~12L/日の生食)
・重度の低Alb血症(0.5~1.0 g/dL)もよく見られるため、膠質浸透圧の維持のためにアルブミン投与が必要になることもある

○血管内溶血
・細菌性溶血素は、DICがない状況で著しく急激なヘマトクリットの低下をもたらす
・Hbよりもヘマトクリットの方が輸血の必要性を評価する指標になりうる

○心筋症
・一部の連鎖球菌性毒素性ショック症候群(STSS)で、びまん性の左壁運動低下、心拍出量低下が見られることがある
・通常は可逆性であり、感染後3~24ヶ月以内に改善する

<予後>

観察研究では、死亡率は以下の通り報告されている
○壊死性筋膜炎 Ⅰ 型(21%)
フルニエ壊疽(22~40%)、頸部壊死性筋膜炎(22%)、新生児壊死性筋膜炎(59%)
○壊死性筋膜炎 Ⅱ 型(14~34%)

死亡率の増加に関連する要因
・白血球 > 30000/μL、桿状球 > 10%
・Cre > 2.0mg/dL
・年齢 > 60歳
・STSSの合併
・クロストリジウム感染症
・入院後24時間以上の手術が遅延
・頭頸部、胸部、腹部の感染

<コメント>
・感度高く疑いを持って経過をみることが重要ですね
・特に既往のない人が外傷後に壊死性筋膜炎 Ⅱ型に進展する症例は気づきにくく、要注意ですね

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?