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一酸化炭素(CO)中毒

火災シリーズです。急性期は速やかにCO-Hbは低下して改善したように見えますが、問題になるのは長期的な認知機能などなので、退院後のフォローアップも重要になります。
Am J Respir Critical Review 2017(PMID: 27753502)より

【Take home message】
・CO中毒に特徴的な症状、CO曝露の病歴、Hb-COの上昇(血液ガス分析)があればCO中毒と診断
・CO中毒に特徴的な症状は、頭痛、めまい、倦怠感、悪心・嘔吐、精神状態の変化、胸痛、息切れ、意識障害など
・短期的、長期的な合併症として脳(神経認知機能)、心臓(心筋梗塞、左室機能障害)に注意する
・特徴的な画像所見は、頭部MRIの半卵円中心、脳室周囲、淡蒼球などの白質病変(WMH)や海馬の萎縮
・治療は、常圧酸素療法(NBO)と高圧酸素療法(HBO)
・HBOは長期的な神経認知機能障害の改善の可能性があり、意識障害、虚血性心疾患の合併、神経障害、重篤な代謝性アシドーシス(pH < 7.25)、CO-Hb > 25%など重篤なCO中毒の所見があれば検討する
・意図的なCO中毒(練炭自殺など)では、他の薬剤内服がないか確認することが必要

<病態生理>

・COは無色、無臭の気体
・COは炭素化合物の不完全燃焼で生成される
・一般的な原因としては、火災、エンジンの排気、暖炉の故障などがある
・COは血中のHbと高い親和性で結合し、CO-Hbを形成する
・CO-Hbは、非喫煙者では≧2%、喫煙者では≧10%で異常と見なされ、症状を引き起こす可能性がある

○Hb特有の影響
・Hbは酸素よりもCOに対して250倍の高い親和性を持っている
・COはHbとの結合を巡って酸素と競合し、酸素の置換によって酸素運搬能を低下させる
・COがHbに結合すると高親和性四量体の状態で安定化し、酸素に対する親和性も上昇することで酸素の放出能と運搬能が低下する
・CO中毒患者の臨床的重症度も臨床的改善も、血中CO-HbやCO-Hbクリアランスとは直接相関はしない
・Hb以外にも、COは心臓や骨格筋のミオグロビン、ミトコンドリアのシトクロムCオキシダーゼ(COX)などを含む他のヘム含有タンパク質にも結合する

○ミトコンドリアの阻害とフリーラジカル生成
・COは、シアン化物や一酸化窒素と同様に、COXの活性部位にあるヘム第一鉄a3に結合してミトコンドリア呼吸を阻害し、酸化的リン酸化を効果的に停止させる
・電子伝達系の他の複合体は電子の往復を続けてスーパーオキシドを生成し、細胞や組織のさらなる損傷につながる

○血小板と炎症への影響
・過剰なCOは、血小板表面のヘムタンパクからNOを置換することで血小板を活性化する
・置換されたNOはスーパーオキシドと反応してペルオキシナイトライトを生成し、ミトコンドリアの機能をさらに障害し、血小板の活性化を増加させる可能性がある
・活性化した血小板は、好中球を刺激し脱顆粒させ、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)を放出させる
・MPOは、より多くの好中球の活性化、接着、脱顆粒を引き起こすことで炎症効果を増幅させる

<診断と臨床症状>

・CO中毒は、理想的には次の3つの特徴を持って診断される
①CO中毒と一致する症状
②CO曝露の病歴
③CO-Hbの上昇
ただし、厳密な診断基準ではない

血中CO-Hbと臨床症状の目安
CO-Hb 10-20%:頭痛、悪心
CO-Hb 20-30%:筋力低下、認知機能障害
CO-Hb 30-50%:心筋虚血、意識障害
CO-Hb > 50%:致死的

・最も一般的な症状は、頭痛、めまい、倦怠感、悪心・嘔吐、精神状態の変化、胸痛、息切れ、意識障害などが含まれる
・多くの患者が意識障害や重篤な状態で発見され、病歴を聴取することが困難
・救急医療の現場では、環境中のCOを測定して曝露の証拠を証明することができる
・血中CO-Hbの上昇は、CO曝露の疑い患者に対する診断として役立つ

・より診断は困難となるが、慢性的な低CO濃度の曝露は認知機能の低下や神経学的な問題と関連している
・慢性CO曝露の特徴的な症状としては、慢性疲労、めまい、感覚異常、赤血球増多、腹痛、下痢、再発性の感染症がある
・従来のパルスオキシメトリーでは、CO-Hbとoxy-Hbを区別できないので、重大なCO-Hbレベルや深刻な低酸素状態を見逃す可能性がある
・パルスCOオキシメトリーは、複数の種類のHb(CO-Hb、メトヘモグロビン)を測定できる

<合併症>

○重症患者
・一部の患者は重篤な状態となり、専門的な集中治療と支持療法が必要になる
・重度のCO中毒では、進行性の脳損傷と浮腫を伴い、急速に進行する認知機能障害を引き起こす可能性がある
・短期間での高死亡率の特徴としては、pH<7.20、火災によるCO中毒、意識障害、高いCO-Hb濃度、高圧酸素療法時の気管挿管の必要性がある

○心血管系への影響
中等度〜重度のCO中毒患者の最大1/3に心筋損傷があり、これが長期死亡率の増加に関連している可能性がある
・CO-Hb濃度の上昇は、急性および長期の心筋梗塞の発症に関連している
・ある研究では、CO中毒により高圧酸素療法があるとみなされたCO中毒患者の半数以上に左室機能低下を認めた

○神経系への後遺症
・CO中毒の生存者は、脳損傷に関連した長期の神経認知機能障害に悩まされることがある
・症状としては、記憶障害、認知機能障害、うつ病、不安、前庭障害、運動障害などが含まれる
・これらの症状は、6週間後までに明らかとなり、過去の研究ではうつ病、不安、認知機能障害の発生率が40%以上であることが示されている
・6週後の認知機能障害のリスク因子としては、36歳以上の年齢と、長時間のCO曝露(≧24時間)が挙げられる
・初期症状の重症度は、長期的な神経学的問題の発症と必ずしも相関しない
・低濃度の慢性的なCO曝露は、神経症状や認知障害を来す可能性があり、低濃度であってもリスクはある

<CO中毒患者の画像所見>

・最も一般的なMRI所見は、白質高信号(WMH)海馬の萎縮
・代謝活性があり、虚血に敏感な淡蒼球に所見を認める場合もあるが、最も一般的な部位ではない
・73人のCO中毒患者を対象とした前向き研究では、患者の12%がWMHを認めた(特に脳室周囲)
・半卵円中心のWMHは認知障害と関連していた
・視床、被殻、尾状核も急性に障害を受けることがあり、T2やFLAIRで非対称性の高信号として現れる
・CTでは左右対称性低吸収が見られることもある
・CO中毒の非常に重篤な症例では、脳幹や小脳などの虚血耐性の高い後方循環にも影響が及ぶ場合がある

遅発性低酸素白質脳症(DPHL)は、長期の心停止または重度の出血性ショックから回復してから数日〜数週間後に発症する可能性がある
・CO中毒の状況においては、DPHLは細胞呼吸障害による直接的な髄鞘毒性により発生すると考えている
・DPHLのMRI所見は、T2で半卵円中心にびまん性のWMHとして現れる

半卵円中心の白質高信号
両側の淡蒼球の高信号

<治療>

・CO中毒に対する現在の治療法は、100%常圧酸素療法(NBO)もしくは2.5-3気圧の高圧酸素療法(HBO)がある
・NBOとHBOは酸素分圧を増加させることで血液からCOをより早い速度で除去し、HbからのCO解離速度を高める
・NBOはCO-HbのCO除去半減期を室内気と比較して320分→74分に短縮する
・HBOはCO-Hbの半減期を20分に短縮する
・ほぼすべての患者は、救助時または病院でNBOを受ける
・現場での診断、高圧酸素センターへの搬送、実際のHBOを受けるまでに大幅な時間を要することが多い

室内気 vs NBO vs HBOのHb-COの低下速度

・NBOの場合、どのくらいの時間投与すべきかは決まっていない
・NEJMではHb-CO高値の場合、長時間のCO曝露が疑われる場合はNBOを6時間を投与することを提案している

・HBOとNBOのRCTはいくつか行われている
・計1361人を対象とした7件のRCTのメタアナリシスによると、HBOによる全体的なメリットは証明されなかった(神経障害のオッズ比は0.78 95%CI 0.54-1.12)
・これらの研究には様々なリミテーションがあった
・3件の研究では、HBOとして2気圧が使用されており、これは適切ではないと考えられている
・神経学的後遺症はCO中毒後の数ヶ月〜1年で改善する可能性が観察されているのにも関わらず、中毒後1ヶ月以上の神経認知検査を施行されたのは1件のみだった
・すべての統合報告基準・試験基準を満たし、1年間の結果を測定した唯一の研究は、Weaverらの研究であった
・この研究では、HBOにより長期的な神経認知機能障害の大幅な改善を示しており、HBOの有効性を判断する際に最も重視されるものである

・HBOは、意識障害、虚血性心疾患、神経障害、重篤なアシドーシス、CO-Hb > 25%などの重篤なCO中毒患者に対して考慮されるべき

<予後>

・急性CO中毒患者の生存者は、標準的な人口と比較した場合、長期死亡率がほぼ2倍になる
・生存者の生活の質は深刻な影響を受ける
・CO中毒から51日後の患者を調べた研究では、認知機能が低下、うつ病が増加、PTSDが増加していることが判明した
・神経認知機能、うつ病、不安の発症を評価するために、中毒の1-2ヶ以内のフォローアップが推奨されており、存在する場合は神経認知評価のための紹介が必要となる
心筋梗塞のリスクも高まるため、標準的な医学的問題にも注意が必要

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