内部告発の「道」無きときはどうする

先日、JAの自爆営業について内部告発した際の映像が、加工が甘かったために誰か丸わかりで結局退職せざるを得なかった、ということがニュースになっていました。

当のテレビ局はTBSであり、オウム真理教の坂本弁護士一家殺害事件のことを思うと、さもありなんとしか感じられませんが、昔のTBSは「報道のTBS」とか自慢していたんですよ、ということを今の若い人たちに言ったらどういう反応が返ってくるでしょうね。

内部告発者というのは報道機関が守らなかったらそりゃバレます。告発された組織は必死になって裏切り者を探すのですから。

報道機関として取材源の秘匿は重要なはずで、その点を警察や検察が侵そうとしたら最大限に重大視して、憲法の重大判例になっているケースはこれまでいくつもあったのですが、自ら取材源を明らかにするのは本末転倒というか意識が足りないと言われても仕方ないでしょう。

ただ、こういったことは日本だけに限ったことでもないようで、内部告発した人が守られないケースは世界的にもよくあります。

アメリカの巨大IT企業なんかのほうが、こういった場合の裏切り者扱いは酷い印象があります。解雇権は向こうの方が濫用しやすいですし。

自分が勤めている会社が問題があるといって告発するのは非常に勇気がいることであり、そのハードルを乗り越えて行えるのは大変立派なことなのですが、問題は、告発を持っていった先(マスメディア、官公庁、世間)が誠実に対応してくれるかどうかというところです。

例えば、密告を受けるマスコミ、官公庁自体が、告発された組織と密接な関係を持っていて、内部告発を明らかにするよりも裏で連絡して「無かったこと」にすることで不正に利益を得ることだってあり得ます。

あるいは、内部告発者の身元を教えろと言われて、積極的あるいは消極的に教えることがあれば、冒頭の話と同じようになってしまいます。

自分が勤めている企業・組織が人の道に外れたことを行っている時に、訴え出る先があってしかるべきなのに、その告発を受け入れる側も道を外れている行いがあるのであれば、一体、小さな存在である一人の人間はどうすればいいのでしょうか。

古代中国春秋時代において、孔子から君子中の君子と表された衛の蘧伯玉は、

「邦に道有れば則仕え、邦に道無ければ則巻きて之を懐にす可し。」

と言われる人物でした。

「国家が正しい行いをしていれば出仕し、そうでなければ才能を隠して世に出ない」

という意味ですが、内部告発者に置き換えると、

「その企業が正しければそこで働き、そうでなければさっさと辞める」

ということになります。もちろん、その場合は元の企業の不正は告発されず残ったままになり、公益に反することになるのですが、内部告発者の身元が保護されないという「邦に道無ければ」状態である以上はしょうがありません。それは内部告発しなかった人の責任ではなく、身元を保護すべきなのにしない、告発先(マスメディア、官公庁、世間)の責任あることは、言うまでもありません。

内部告発が少なく、企業の不正が明らかにならないのは、告発者の勇気の問題ではなく、告発を受ける社会の問題なのですよね。

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