低層のバベル

タイ語のBL(エロ)小説を読みたくて取り寄せたはいいものの、いくら眺めてもタイ語を文字として認識できない。とっかかりがなさすぎる。

タイ駐在員の義弟(つまりタイ語ぺらぺら)が言うには「タイ語は音と文字」らしいんですけど、どの言葉でもそれはそうなんでは……。しかしとにかく文字を覚えないと先に進めないんだろうなと思って、タイ語を解説しているサイトなどを見ています。

どうしても自分好みの文章で読みたくてGoogle魔翻訳や有志の解説や英訳を見たり、それでも自分のニュアンスだと文章に仕切れないところがたくさん出てきて結局漫画のネームにしたり(地の文を完全に端折れる)とか、色々やっていて、当たり前なのですが原作(原文)から人の手を経由するにつれて、原作にあったニュアンスが潰れてしまったり、あるいは足されてしまったりということが出てきて……。

デザインをするときも料理をするときも、「ここまで崩しても『それ』と言えるか」「最低限残さなければならない情報は何か」をよく考えます。(わたしはなにを作るにしても情報を削ぎ落として相手に解釈を委ねるのが好きなので、なくてもいい情報は極力無くしたいほうです)

小説ならキャラクターが何を言っているかが非常に大事だと思うんですけど、言語によって語彙の量が違うので、英語ならこのようなことを言っている、日本語ならこういう感じになる……という感じで……単語ひとつ取っても……。
たとえばとあるシーンのタイ語。「ถ้าคุณเป็นคนดี」と書かれている言葉、直訳すれば「あなたが良い人なら」英語だと「if you stay good」になるんですけど……。
直訳したら「あなたがいい人なら私はもう暴力をふるいません」

絶対におかしいじゃないですか???

それまで受けに対して拷問を繰り返していた攻めが受けと初めてちゃんと(愛情を持って)行為に及ぼうとしているシーンなんですけど、ベッドでそんなこと言わないですよ。つい最近まで拷問してた相手に言うことじゃなさすぎる。受けはもともとかなりいい人なので、そんな受けに拷問を繰り返していた攻めがどの口でそんなことを言うねんと思います。

では、これをどう訳したら「そう」なるのか。

この文章で大事なのは、受けのなんらかの対応によって攻めがもう暴力を振るったりしないと言うことなのですが、前後の文章から考えるに「このまま」というニュアンスが大切なように思える。タイ語には「このまま」が入っている。

「このまま私を受け入れてくれるなら」が近い気もするが、「受け入れる」という言葉はどこにも書かれていません。というか、タイ語、そんなに長くない。では「このままでいてくれるなら」ならどうか。しかし受けちゃんはこのシーンではまだ度重なる拷問の記憶に苛まれている状態で、「このまま」を強くすると今度はセックスのニュアンスが和姦から強姦になってしまう!!!!!違うんだよな!!!!!!!そういうんじゃないんだよな〜。

では「きみが笑っていてくれるなら」ではどうだろうか……と思ったけど、本当にそんなことはひとことも言っていない。

近いんですよ。空気としては。

自分に笑顔を向けてくれて受け入れてくれるなら、もう暴力をふるったりしないと誓う。約束する。もういまから止めろって言われても無理、抱きたい。抱かせてほしい。大筋ではそんなようなことを言ってるけど、マジで全然言ってない。

意訳と割り切るにしたって、言ってないことを付け足してしまうのは良くないじゃないですか。だってここではまだ愛情そのものについては口に出していなくて、でも切り札のように使っていた暴力はもうやめると言うとるんですわ。言外に愛情を滲ませて。

なんか……なんかすごくエロいことが書いてあるけど何も書いてない!!!!!

情感、いちばん言葉にならない部分です。

原文に「彼の目は言い表せない感情に満ちていた」とあって、言い表せへんのんか、そか……と一瞬思ったりもしましたが、いや、言うとる。なにかは言うとる。なにを言うとるかがはっきりわからん。

これはどうやら日本語の語彙が非常に多いところから来る問題のようです。

人称にしても口調にしても、あまりにも多すぎる。わたしは攻め様を冷たい丁寧語の悪者として翻訳していますが、訳によってはそうならない人だって当然いるでしょうし……。

もう全員日本語で喋ってほしい。

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