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音響機材の接続とインピーダンス(ロー出しハイ受けなど)

「音響機材はロー出しハイ受けで接続する」という話を聞いたことがある方は少なくないと思うが、今日は何故その方が良いのか、自身の勉強も踏まえ、記載したい。

※なお、この記事は先日書いた記事「マイクに入力した音ってどうやってヘッドフォンに出力されるの?」を読んだことを前提に記述を進める。

■ケース① ロー出しハイ受け

ダイナミックマイクSHURE SM58(以下「SM58」と書く)に入力した音が1.85mVの電圧を持つ電気信号に変換され、この電気信号をオーディオインターフェースに出力しようとしたところから考える。

オーディオインターフェースの入力インピーダンスが3kΩの場合、SM58の出力インピーダンスが150Ωであることから、オーディオインターフェースに入力される電気信号の電圧は

3kΩ/(150Ω+3kΩ)×1.85mV≒1.76mVとなる。

この場合、出力インピーダンスの方が入力インピーダンスより小さいので、いわゆる「ロー出しハイ受け」の状況である。

■ケース② ハイ出しロー受け

では、仮にオーディオインターフェースの入力インピーダンスが60Ωで、SM58出力インピーダンスより小さかったらどうなるだろう。

60Ω/(150Ω+60Ω)×1.85mV≒0.53mVとなる。

同じ音をSM58経由でオーディオインターフェースに入力しているにも関わらず、ハイ出しロー受けの方が電気信号の電圧が低くなることが分かる。

■まとめ?

音響における電気信号においては、電圧の大きさは信号の強さである。先ほど算出した電圧を比較すると

20log(1.76mV/0.53mV)≒10dBのため、

今回のケースではロー出しハイ受けに対し、ハイ出しロー受けでは10dBほど電気信号が弱くなることが分かった。

ロー出しハイ受けが推奨される理由として、電圧低下が少ない=効率が良いという点を、この記事で理解いただけたら幸いである。


というところで終わるように見せかけて、話はまだ続く。


ロー出しハイ受けで効率が良いのは、あくまで「電圧」に焦点を置いたときの話である。


先日の記事でヘッドフォンの感度について触れたが、ヘッドフォンは電力が大きければ大きいほど大きな音が出せる仕組みをしている。

それでは「電力」に焦点を置いた際に、一番効率が良いのはどのようなケースだろうか。

■ケース2① ロー出しハイ受け

オーディオインターフェースの内の電気信号の電圧が1V、オーディオインターフェースの出力インピーダンスが120Ω、ヘッドフォンの負荷インピーダンスが200Ωの場合を想定する。

この場合における、ヘッドフォンにかかる電圧は

200Ω÷(120Ω+200Ω)×1V=0.625Vであるため、
ヘッドフォンにおける消費電力は

0.625V^2÷200Ω≒1.95mWである。

■ケース2② ハイ出しロー受け

一方、オーディオインターフェースの内の電気信号の電圧は1Vのまま、オーディオインターフェースの出力インピーダンスも120Ωのまま、ヘッドフォンの負荷インピーダンスが80Ωと、オーディオインターフェースの出力インピーダンスより小さい場合はどうだろうか。

この場合における、ヘッドフォンにかかる電圧は

80Ω÷(120Ω+80Ω)×1V=0.4Vであるため、
ヘッドフォンにおける消費電力は

0.4V^2÷80Ω≒2mWである。


ご覧いただくと分かるとおり、この想定であれば、ハイ出しロー受けの方が消費電力が大きい=音量が大きいことが分かる。
(次項をご覧いただくと分かると思うが、ロー出しハイ受けに対し、ハイ出しロー受けが必ずしも消費電力を大きくするわけではない)


■ケース2③ インピーダンスマッチング

実は「電力」に焦点を置いてみると、一番効率が良い状況は出力インピーダンスと入力インピーダンスが同値である場合である。

オーディオインターフェースの内の電気信号の電圧が1V、オーディオインターフェースの出力インピーダンスが120Ω、ヘッドフォンの負荷インピーダンスが120Ωの場合を想定して計算してみよう。


この場合、ヘッドフォンにかかる電圧は120Ω÷(120Ω+120Ω)×1V=0.5Vであるため、
ヘッドフォンにおける消費電力は

0.5V^2÷120Ω≒2.08mWである。

■まとめ

以上のことから、電圧に焦点を置く場合(電圧伝送の場合)は、ロー出しハイ受けの方が効率が良く、電力に焦点を置く場合(電力伝送の場合)は、インピーダンスがマッチングした状態の方が効率が良い、ということを覚えていただけたら幸いである。

※なお、最近の製品は概ねそのあたりを考慮されているので、あまり購入の際、気にする必要はないようだ。

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