見出し画像

洗脳された友人から聞いた話「人格改造⁉恐怖の自己啓発セミナー」

今回、書くのはかなり前に、かつての友人から聞いた話である。現在、四十路の僕が20代の頃に耳にしたエピソードだ。

そのときよく遊んでいた同級生は、傍からみると文武両道でなんでもできるヤツだった。

謙虚で心優しく人望があり、生徒会長に選ばれるのも納得の人柄。

しかし内心はいつもビクビクしており、実は「メッキがはがれるんじゃないか⁉」といった恐れを抱いていると打ち明けてくれたこともあった。

僕の方から見ると「はがれるメッキなんかない」と映るのだが、彼にとっては絶えず理想の自分を演じているような感覚があり「俺は自分を偽ってるんや」とよく口にしていた。

そんな彼が短期間、ある自己啓発セミナーに参加したことがあった。

興味があったのでセミナー受講後、どんな内容だったか教えてもらった。

ある島へ10人ほどで一週間ほど、泊まり込みの合宿に行ったという。参加費用を聞くと、なかなかの額だった。

島の施設で講師の指示に従うのだが、初日にこんなことたあったという。

講師から「君、みんなの前へ出なさい」と指示された友人は言われたとおり、前に進み出る。

そこで講師は「今からみんな彼のことを、可能な限りの攻撃亭な表現で罵倒しなさい」と命令を下す。

最初はみんな「そんな失礼なことできない」と躊躇していたのだが、誰かが口火を切りそこから罵詈雑言のオンパレードとなる。そんな経験は日常ではまずしない。友人は、そこで泣きそうになったらしい。

5分ほど悪口にさらされる時間が続いた。そして次に講師は「今度は彼の良いところを、伝えてあげなさい」と命ずる。

今度は一転して「あなたのここが素晴らしい」といったことを口々に伝える。ほめられ続けた友人の脳内では快楽物質が分泌されて「言葉でいえないほど気持ち良かった」とのことだ。気づけば涙が流れ出てたらしい。

そのときはわからなかったのだが、友人が受けた「飴と鞭」「罵倒と称賛」の手法は、洗脳やマインドコントロールでよく用いられる。

僕も同じような経験をしたことがあるのでわかるのだ。

「飴と鞭」のテクニックを使われた自己肯定感の低い人間は、いとも簡単に自我を壊される。そして講師に対して「この人から嫌われたら自分は生きていけない」と信じ込んでしまうのだ。

これはDV加害者がよく使う手で、相手を意図的に傷つけたあとに優しくする。

態度の急変に、被害者はころっとやられてしまう。

本来、心根が優しい人はそもそも相手を意図的に傷つけたりしないのだが、暴力を受けたあとに優しくされるとギャップで「この人は本当にいい人だ」と錯覚してしまう心理が人間にはある。

これは理性ではなく「生き残るためにそう思わなければ」という本能に根差したものだ。

友人が参加したセミナーは、ある島に短期間泊まり込むという形式だったが、これも世間からの切り離しというマインドコントロールである。

世俗から離れて同じ価値観を持つ人間とだけ暮らすのは、カルト宗教あるあるだ。

短期的なセミナーで一瞬「自分は生まれ変わった」と実感できた彼だが「セミナーが終わって日常生活に戻った途端、高揚した気分がなくなり、すぐ元の自分に戻った」と残念そうに語っていた。

結局、人間は長い時間、身を置く環境に順応する生き物なのだろう。

そのあと、この友人とは疎遠になったが、僕からすると「そんな怪しいセミナーを受けなくても、彼には十分魅力があるのに」というのが本音だった。

人が羨むような数々の能力を持っていた彼だが、実はその魅力を最も受け取っていなかったのは、他ならぬ彼自身だったのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?