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不忍界隈(vol.3)谷中「越後屋本店」(酒屋)

 台風の日、谷中銀座を歩く。東京を直撃すると騒がれていたこともあり、シャッターを下ろした店も少なくなかったが、そんな日でも観光客の姿があった。「越後屋本店」の前を通りかかると、ひっくり返した清酒専用通箱がいつも通りに並んでいる。この酒屋さんは店頭で生ビールを販売しており、箱に腰かけて酒が飲めるのだ。

 吸い込まれるように軒先に入り、ビールを注文する。何の用事があって谷中銀座までやってきたのかすっかり忘れて、カップを傾ける。この酒屋は——そもそも谷中銀座商店街は——一体いつからここにあるのだろう?

「会社の登記簿を見ると、創業は明治37年にまで遡るみたいです」。そう教えてくれたのは副店主の本間俊裕さん。明治37年というと1904年、日露戦争が始まった年だ。創業者の本間吉蔵さんは曽祖父で、俊裕さんは世代的に4代目にあたる。

「吉蔵さんは新潟の弥彦出身で、お酒が好きな方だったみたいです。本当にベタな話なんですけど、酒屋をやれば普通の人より安く飲めるんじゃないかってことで酒屋を始めたそうです。ただ、当時は物がない時代だったと聞いておりまして、最初のうちはお酒だけじゃなくて、味噌を売ったり魚を売ったり、いろんなものを扱っていたみたいですね」

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