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不忍界隈(vol.4)千駄木「平澤剛生花店」

 花を買うようになったきっかけは、誕生日プレゼントに花瓶をもらったことだった。それまで花を飾る習慣のなかった僕に、どうして花瓶を選んでくれたのかはわからないけれど、プレゼントしてもらったのだからと花を買うようになった。

 前に住んでいたアパートは、大通りを渡ってすぐの場所に花屋さんがあり、気まぐれに花を買ってきては花瓶に活けた。数日のうちに花は萎れ、枯れてゆく。毎日のように水を換えても同じで、切り花はそういう運命なのだと思っていた。その考えを覆してくれたのが「平澤剛生花店」だ。散歩帰りにぶらりと立ち寄った「平澤剛生花店」で買ったガーベラは、一週間どころか何週間も咲き続けた。

 どうしてこんなに咲き続けるのだろう?——そんな疑問を抱きつつ、定期的に花を買いに出かけるようになった。店主は同世代くらいに見えたけれど、馴れ馴れしく話しかけるのも憚られて、ただ花を買って帰るだけの日々が続いた。

 ある日、谷中銀座にある「越後屋本店」に出かけると、軒先で花屋さんが生ビールを飲んでいた。ここで出会えたなら、言葉を交わせる気がする。その日をきっかけに、少しずつ花屋さんと話すようになった。

 店主の平澤剛さんは、1983年、埼玉県は秩父市に生まれた。当時の秩父は国際色豊かな街だったと平澤さんは振り返る。

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