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長寿を約束されたCO2、樹木のセルロースの合成と木化 植物のカーボンサイクル(8)

陸上植物は、太陽光を求めて上方に伸長しなければならなかった。他の植物との競合、強風、冠雪、斜面での重力にも耐えて、常に上を目指さなければならない宿命にある。特に樹木はなおさらそうである。

樹木の細胞壁は、強固な構造と柔軟さを同居させねばならなかった。なおかつ、成長の過程で分裂を繰り返し、水を含んでしなやかに拡大・伸長する必要があった。このように堅牢かつ柔軟な形質を発揮するために、グルコースが直鎖状に繋がったセルロース分子は非常に好都合だったのである。

セルロースは、細胞膜の脂質ニ重層を泳ぎ回るロゼット状のセルロース合成顆粒体に集積する酵素群で合成される。合成の方向を線路のように決めているのは、チューブリンというタンパク質からなる微小管と呼ばれる構造体だ。

さて、樹木の細胞分裂は芽の部分(頂端分裂組織)で行われた後、順次下方へ送られる。伸長成長と呼ばれる。この段階では細胞壁は木化しておらず、セルロースを主な構成成分としてリグニンが無い細胞壁である(一次壁と呼ばれる)。下方に送られると断面の円周が大きくなるために、垂直方向だけでなく水平方向にも分裂するし、断面積を増やすために樹皮と芯に向かっても分裂する必要がある。これを肥大成長と呼び、形成層という分裂組織が担当する。

分裂した樹木の細胞は、細胞が拡大しながら、次第に細胞壁を肥厚させ、より強固にしなければならない。ここで登場するのがリグニンだ。細胞の内側からセルロースだけでなく、ヘミセルロースやリグニンを細胞壁に送り込み、壁をより分厚く塗り固めていく。日本建築の壁に漆喰を塗っていくが、中に植物繊維を入れて塗り固めていくと、セルロースが水を水素結合で引き止めてくれるので乾燥してもひび割れしないイメージだ。今の場合リグニンは漆喰の役割と考えると理解しやすいかもしれない。これを木化と呼び、肥大成長で形成される細胞壁を二次壁と呼ぶ。

このようにして、大気中の二酸化炭素はセルロース、ヘミセルロース、リグニンという巨大な有機炭素からなる高分子に姿を変えて、がんじがらめに固められ、樹木の細胞壁を形作る。デンプンとは異なり、容易に分解されて大気中に循環しないことから、地球上に少しは長く存在し続けられることになった。この後人間の手を借りて世紀を越える長寿を獲得することになろうとは、この時点で未だ気づいていない


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