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セルロースとデンプン 地球で最も重要な二つの炭素同化産物 植物のカーボンサイクル(7)

大気中の二酸化炭素は、光のエネルギーを受け取った植物が、強引に水から引き抜いた電子を引き受け(還元され)、化学エネルギーを蓄えた有機炭素に昇格した。最も生物にとって利用しやすい形はグルコース(ブドウ糖)である。動物も植物も微生物もありとあらゆる地球上の生命は、グルコースを分解する(呼吸する)ことで取り出したエネルギーを使って、生きることができる。

ところで、植物はこのグルコースを使って、全く異なる2つの高分子を作ることは興味深い。デンプンとセルロースだ。全く同じ分子を違う向きに組み合わせるだけで、構造や機能が全く異なる。ご存知の方も多いだろうが、糖分子炭素の1位と4位をアルファ結合(例えば全分子が同じ向きに手を繋ぐイメージ)したのがデンプンで、ベータ結合(分子が交互に表裏に手を繋ぐイメージ)したのがセルロースである。

デンプンは、光が当たっている間、光合成産物をとりあえず貯蔵するのに便利で、昼間に葉肉細胞の液胞の中に蓄えられ、夜間にショ糖の形に変えられて身体全体に運ばれる。必要な時にいつでも取り出せるよう、イモやマメ、種子、樹の内樹皮の柔細胞(生きている細胞)の液胞に蓄えられ、細胞分裂、発芽や、火事の後の萌芽(苦難の先に備えてスタートダッシュ ユーカリの適応戦略に学ぶ(4)も併せてお読みください)などエネルギーが必要な時に使われる。人間などの動物は、これらを食用とし、日々の呼吸の原動力にしているし、筋肉中にグリコーゲンの形で蓄える。

植物は、細胞の外側を比較的固い細胞壁で包むが、セルロースはこの植物細胞壁の50%程度を構成する高分子だ。お互いの分子が水素結合によって結晶化し、セルロース分子の束(ミクロフィブリルと呼ばれる)を作ることにより、細胞壁に水を貯えたり、繊維方向に強くなったりして、身体を構成していく。さらには他の有機炭素高分子であるヘミセルロースやリグニンと結合して、強固な細胞壁を作り、樹のように何十メートルもの高さまで成長できるための基盤材料といえる。地球上に最も多く存在する有機炭素分子であり、脱水するとさらに結晶化が進んで腐りにくくなる(分解されにくく)なるため、二酸化炭素を長期にわたって固定するのに都合が良い。草食動物や微生物、シロアリはこのセルロースを分解するセルラーゼという酵素を使ってグルコースにまで分解し、エネルギーを得ている。セルロースからのバイオエタノールもこの原理で作ることができる。セルロースナノファイバーにデンプンを加えることで生分解性の透明シートを作ることもできるそうだ。

セルロースとデンプン、未来のエネルギーと食糧を考えるとき、この地球で最も重要な二つの同化産物を自然の力で作っている植物こそ、我々が最も仲良くしなければならないパートナーであることが見えてくる。

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