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オーディブル本レビュー:猫を抱いて象と泳ぐ (小川洋子)

週末に見に出かけたアンティークオークション会場で小さな小さなチェス版が売られているのを見て、この本を思い出して写真に撮ってきた。この本のレビュー書こう。大好きな一冊。小川洋子さんの本は他にも「妊娠カレンダー」と「やさしい訴え」を続けて聞いたけれども、ずば抜けて「猫を抱いて象と泳ぐ」が一番良かったです。(オーディブルでアクセスできるものに限られる)

朗読も良かった。オーディブルの場合、原作が良くても声で気が合わないということは結構ある。

そしてこの本のテーマであるチェスゲームに魅了され(た、気がして)一度もしたことがなかったパソコンのゲーム、チェスまでやってみたのですが

フリーゲームのChess:全く興味がなかった

一コマ動かしただけでチェックとなって、高らかに負けたので驚愕したのですが、ルール知らないんだから当たり前ですよね、それとも一手で負けるってどういう動かし方したらそんな結果に?(2度とやってない)。

同じく作者の小川洋子さんも特にチェスをプレイされる方というわけではなかったようで

―それまで、チェスのご経験は?


やったことはもちろん、ルールさえ知りませんでした。駒の動かし方や棋譜の見方などは専門の先生に教えていただいたのですが、極端な話、私自身がチェスを出来るようになるかどうかは、小説を書く上ではあまり問題ではないんです。自分が出来ないことでも、まるで出来るかのようにごまかし抜く、というのが作家のズルいところですから(笑)。


実際にチェスを指す人々の姿を見たくて、大阪にあるチェス喫茶や麻布学園のチェス部などにも取材に訪れました。もう、「チェス喫茶」というだけですでに小説的だと思いませんか?いかにも大阪らしいディープでガヤガヤした通りを抜け、扉を開けた途端、静寂の世界。作家が想像で生み出す以上のものが実世界に存在するんです。


麻布学園のチェス部では、サッカー部や野球部の男子に比べるときっとあまりモテないんだろうなぁ…(笑)という少年たちが、薄暗い部屋でボロボロのチェス盤を前に、手垢にまみれた駒を持って一生懸命指していました。10代の少年が、ただじいーっと考えている横顔を見た瞬間、ああ描写したい、これは小説になる!と確信しました。このとき、少年とチェスという組み合わせが浮かんだのです。

小川洋子インタビュー

そこから始まるって . . . 小説家ってすごい技を持っていると感心するばかり。

お話は”盤上の詩人と呼ばれた”リトルアリョーヒンというロシアのチェスの名人の伝記のようでありながら、現実味がなく、ピノキオとか、アリスワンダーランドとか、絶対に日本ではないどこか外国のどこかで起きている、という想像ができて頭の中がファンタジーでいっぱいになります。主役脇役たちだけでなく細かい小物や、例えば、バターの香りのする甘い(*甘すぎる)おやつまで、隅から隅まで、それはアジアで起きていることではないのです。(*よく外国でケーキを食べた普通の日本人は甘すぎて大きすぎて食べきれない、と言いますよね!)かといって、それがピンポイントでロシア?というわけでもなく、白いハトやミイラという名前の美しい少女はこの世には存在しなさそうなTMK(透明感)があります。確かにミイラって名前、音だけだとキレイで、ドキュンネームでも通用しそう。

胸キュンポイントはたくさんあって、特に猫とか象とか、動物がうまく哀愁を誘います。マスターいう最初は見知らぬ大きな太ったおじさんが、「家から出られない、もう死ぬしかない、体重444キロの男、ドキュメンタリー」ばりに迫ってきます。でもこのおじさんがとにかくいい人で、「慌てるな、坊や」とチェスを教えてくれるのですが、個人的に、こういう風に辛抱強くものを教えてくれる人が誰にでも必要で、何よりも尊いと思うのです。

タイトルからは全く想像できない、いや、私のレビューを読んだところで全く想像をすることは不可能な思いもよらないストーリー展開ですので、ぜひ、イギリスのグラニーのレシピのようなたっぷりバターに分量きっかりのお砂糖パウンドケーキ(私はつい砂糖の量を減らしてしまう)を焼いて、オレンジペコーの香り高い紅茶を入れて読み始めていただきたい本です。おすすめ*****(5つ星)。


いつもありがとうございます。このnoteまだまだ続けていきますので、どうぞよろしくお願いします。