『話すための英語力』/鳥飼玖美子

著者、鳥飼玖美子氏は、コロンビア大学院修士課程、サウサンプトン大学院博士課程、そして現在は「ニュースで英会話」を監修する、まさに英語教育のプロフェッショナルと言える人物である。

「国際共通語としての英語」

これが本書の大きなテーマである。これはどういうことを指すのか、そして、日本人が英語を習得し使いこなすことがなかなか困難な理由と解決法が語られている。

まず日本人が英語を習得することが困難な理由はいくつかある。個々の努力とは別に環境面、言語構成上に理由がある。本書をお読みになれば、現在英語が苦手な方や上達に悩んでいる方も幾分かは自責せずに済むであろう。

英語の習得が難しい理由の一つ目は「時間」である。

母語をきちんとした文法で話せるようになるのは5~6歳と言われている。それまでの間で言語に触れる時間は約3万時間。一方、日本において中高大学で週に4時間、英語の授業を受けた場合の学習時間は約2000時間。これだけの差があるわけだから、何も学校の授業でやったけど全然ダメだと卑下することはないのである。

二つ目は「日本の中での英語の位置」

日本では英語をあくまでも「外国語」として捉え勉強する。英語が母語ではない多くの国では、「第2言語」として学習しているのだ。この差は何かと言うと、外国語は所詮使えなくても何も支障はないのである。しかし第2言語となればそれを使ってコミュニケーションする必要性があるのである。よって別に話せなくても生きてく上で必要のない外国語は必死になって身につけようともしないのである。

三つ目は「距離」

米国務省の外交官訓練機関(FSI)で定めている指標によれば、英語と日本語は学習する上でとても距離が遠い。どういうことかと言うと、英語のネイティブスピーカーが、日本語を仕事を遂行できるレベルに達するまでの時間が他の言語に比べて圧倒的に長いのである。日本語や韓国語などの言語は、英語圏の人たちからは極めて困難な言語に該当しているのである。

四つ目は「不安」

日本人は外国語を使うこと、特に話す、聞くことに際しての不安が大きいという。読む、書くならば準備時間があるが、そうではない状況であることもあるであろう。

英語を使いこなす上で、英語で何かを伝える、主張することがはじめにくる。その際、「母語」がとても重要になってくる。

日本語で自分の意見を主張できなければ英語を使って話せるわけがないのである。特にディスカッションなどの場面においては、まず日本語での訓練が必要。

自分の意見を主張することもなかなか日本人はしないと言われているが、反論となるとなおさらである。

日本では批判を、個人攻撃と捉えられがちである。しかし英語圏においては決してそうではないのである。反論はむしろ自分の意見を主張することであり、攻撃ではないのである。

次に、困ったときの対処法である。

英語をうまく聞き取れない、分からない、こういったことは往々にして起こるのだが、中には一語一句聞き取れないと自分はダメだと考えてしまう人もいるようだ。

そんな人はまず、完璧などありえないこと、そして前日。すべてを聞き取れなくても構わないと考えることである。

なぜなら、話す人によって発音や使う語彙、地域の差、話し方も千差万別なのだ。これは同じ日本人同士でも起こると考えれば府に落ちるだろう。

そして、聞き取れなかったら聞き返せば良いだけのことである。

これからの英語学習は、異文化コミュニケーションのための英語、すなわち国際共通語としての英語を身につけることである。

異文化と、すべて英語を学べばコミュニケーションできるわけではないのだが、非母語話者同士の共通語が英語、という状況が増えている現在である。

よって、「国際共通語としての英語」という捉え方が最も時代に則しているのである。

これは、ネイティブスピーカーのような発音で正確にかつ流暢に英語を話せることを目指すのではなく、相手に「伝わる」「分かりやすい」英語、である。

かといって文法や発音がめちゃくちゃでも良い、ということではない。基本的な文法ルールの学習は必要である。

これからはネイティブスピーカーにこだわらず自分らしい英語を話せるようになることが大事である。


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