見出し画像

温泉の楽しみ

御用納めにまだ仕事のある同僚をしり目に
「よいお年を」と声をかけてでる。
今日は今年一年の疲れを癒やすと
家をでる時から温泉にいくと決めてた。
どこでも良かったが、
風が冷たいので展望露天風呂のある
あの温泉ではなく、
その先の温泉へ向かう。

年末の温泉は地元民も少なく、
まったりしたい私には好都合。

すこし熱めの掛け湯で身を清め、
源泉湯40.8℃に入ってみる。
足には温泉らしいすこし滑る岩の感触。
こんこんと湧き出るお湯の側まで
そろそろと進み、胡座をかいて座る。
耳元でお湯の流れる
音だけに集中して目を閉じる

ザザザザァ~

自然と両手は
阿弥陀如来様のように
定印をむすんでいる。
そうすることでより集中できる。

お湯が別の方から
身体に当たってくる
誰かが源泉湯に入ってきたらしい。
その人の存在を受け止めながら
瞑想は続いていく。

露天風呂も楽しみにあふれている。
夕方まで強く吹いていた北風は
この時間には収まってくれている。
先客は1人。

目を上に向けると、星がみえる。
どうやら東の空らしい。
一等星が2つ、その間に三つ星。
ちようどオリオン座が上がってくる。
その斜め右上に目を細めて
昴の星の集まりを探す。

冬の星座をつなぎ合わせていると、
点滅する星を従えた赤い星が
ゆっくりとふたご座を横切っていく。
私が子どもの頃には、
それほどたくさんの飛行機が
盆地を通過することは無かったが
最近は見上げるといつも
機影を見つけることができる。

星降る露天風呂を後にして
38.5℃の寝湯に身を横たえる。
寝湯のある温泉は好きである。
ジャグジーのように泡があると最高。
しかしここには無かった。

温泉に身をまかせる時
いつもすることがある。
両腕の力を抜いてゆらゆらと浮かべる。
寝湯などでは
両足も浮かべてみる。

普段私は身体の力を抜くのができず
常に緊張状態を身体に強いている。
お湯に浸かる時だけは
意識しなくても遊ぶように
身体の力を抜くことができる。不思議。

もう一つ、水は私に圧力をかけてくる。
自然と水圧でお腹がひっこめられる。
抵抗したり、身をまかせたり、この感覚も実は好きである。

そして、おもむろに
息をふぅ~と吐いてみる。
空気を抜かれた浮き袋は萎み、
私の身体は寝湯の床に押し付けられる。
そのまんま息を止めていて
苦しくなったら鼻から空気を吸う。
そうすると床から身体は離れて
お湯の空間に解き放たれる。
何とも愉快、愉快。

ひとしきり身体の感覚で遊んだら
スチーム風呂に行ってみる。
私はサウナが苦手である。
しかし蒸気のあふれるサウナは好き。
もっと好きなのは、
生暖かい霧に包まれるミストサウナ。
この設備のある温泉が少ない。
ここも熱めの蒸気が
吹き付けてくるのが惜しい。
そこそこに退散である。

サウナを出て大きな湯船を独り占め。
波の立たない湯船は
私とお湯の境目がわからなくなる。
人が入ってくるまで
目を閉じて不思議な一体感を味わう。

押し付けてくるお湯。
浮かぶ両腕。
うたた寝でもしてしまうくらい。

ふいに波立ち、身体にあたる。

楽しい時間は長くは続かないもの。

(南アルプス市やまなみの湯)