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電磁気の考え方をコンパクトに ~静電誘導~

前回は電位の概念を導入したが、ここではいったん電場についてさらに考えてみようと思う。前回、ポイントとして電場は電位の勾配であると説明した。力学において、重力による位置エネルギーは当然重力によって生じ、その勾配なるものは重力加速度と言えるのではないだろうか。
クーロン力による位置エネルギーを考えるときに自身のパラメータ(電荷q)を除いた部分を電位として言い表したが、重力による位置エネルギーの場合は自身のパラメータは質量であるから、それを除いた部分(重力加速度×基準点からの高さ)を仮に重力位とでも呼んでみる。重力位は基準点からの高さに比例し、その比例係数は重力加速度である。つまり、縦軸に重力位、横軸に基準点からの高さをとると、勾配として重力加速度が現れるはずだ。(電場は距離によって違ったので電位の勾配は一定ではなかったが、重力加速度は地表付近でほぼ一定とみなせるので重力位は直線のグラフで表せることが想像できるだろう。)

さて、ここまでは少しわかりにくいところだと思う。私も冒頭で重力加速度が勾配とは言ってみたものの、わかりにくかったので丁寧に説明しながら考えてみた次第だ。
重力の存在下で質量のある物体が加速することはご存じだろう。勾配のある斜面でボールが加速していくのと同じイメージだ。実は、電磁気における勾配によっても加速が生じるというのだ。

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電場(勾配)が生じていると、その方向に正電荷が加速する。逆に、電場の向きと逆の向きに負電荷(電子)は加速する。ここまでの内容をよく理解できたら次に進もう。

一枚の導体板に対して、下の図のように外部電場を印加(いんか;加えること)することを考える。

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すると、導体板内部の負電荷(電子)は電場の向きと逆の向きに加速し動く。この移動を静電誘導という。電子が動くと導体板内で電荷の偏りが生じ、クーロンの法則の通り引力がはたらく。つまり、正負どちらかの電荷の立場(どちらでも良い)からその引力を眺めてみると、電場が生じていることになる。もちろん正電荷側から負電荷側に向かって生じることになる。上図では印加した外部電場を赤、負電荷の移動によって誘起された電場を桃色で表している。察しの良い方はわかるかもしれないが、この負電荷の移動は外部電場を打ち消すまでおこる。逆に言えば、外部電場と同じ大きさの電場が誘起された時点で負電荷の移動は終了する。(それ以上移動する理由がないのだから当然だろう。)つまり、導体の内部には電場がないと見ることができるわけである。これを静電遮蔽という。

(参考)
ここで注意すべきなのは、外部電場による電荷の移動は導体でしか起こらないわけではないということだ。後に紹介するが、不導体でもある程度の電荷移動は起こり、内部の電場は弱められる。(:誘電分極)しかし、導体には自由電子があるのに対して不導体には自由電子がないので電荷の移動はあまり起こらず、誘起される電場が小さくなり、外部電場を完全に打ち消すだけの力はないということだ。化学でも登場するアボガドロ定数を考えてみて欲しい。1molにあの桁数の原子があるということは、それと同数またはそれ以上の自由電子が導体内にはあるということになる。したがって、電荷の移動距離が小さくても(導体板が薄くても)誘起される電場は非常に大きくなることができ、強い外部電場も打ち消すことができる。

ここまででのポイントは、導体内部の電場は0であるということだ。これを押さえて最後に一つ例を見てみよう。

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+Qの電荷が蓄えられた一枚の薄い導体板を考える。全体を見ると、湧き出しはQ/εであり、極板面積をSとすれば生じる電場はQ/2εSとなる。ここで、上面と下面に存在する電荷をそれぞれ+q,+q'とする。
電荷は何もないところから生じたり、理由なく消えたりはしないので、上面と下面の電荷の和は+Qになる。また、先ほど確認した通り導体内部に電場はできないことから式を立てると、q=q'=Q/2となる。つまり、導体に蓄えられた電荷は上下で半分ずつにわかれて存在していることがわかった。もちろんこれくらいのことは直感的にわかることなのだが、今回確認した導体内部の電場は0であるという考え方を用いることで確認できることを知ることができた。

さて、今回は電場により電荷が加速することから静電誘導を考えてみた。電場が電位の勾配であるというイメージをしっかりともっていれば今回の話題はさほど難しく感じなかったのではないだろうか。
余談になるが、ガリレオというTVドラマシリーズの劇場版である真夏の方程式という作品で、電車内で通話していて大人に叱られた少年の携帯電話を湯川先生がアルミホイルでくるむ場面がある。携帯電話は電波すなわち電磁波を受信することで通話することができるのだが、その電磁波の正体は電場と磁場(後ほど紹介することになる)である。アルミホイル(導体)で携帯電話をくるむとアルミホイルで囲まれた領域内部の電場は打ち消され、電波を受信できなくなる。そのため、携帯電話の電源を入れたまま着信を受けないことができるようになったというわけだ。ここに静電遮蔽が現れている。高校で学んだ物理をドラマや映画のなかで垣間見ることができるのはとても楽しいことだ。ぜひ多くのことを学んで楽しんでほしい。

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