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【DAY 20】あなたの人生を変えた映画 「バスキア」

DAY 20
a film that changed your life.
あなたの人生を変えた映画

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「バスキア」(1996)
ジュリアン・シュナーベル監督
ジェフリー・ライト、クレア・フォーラニ、マイケル・ウィンコット、デヴィッド・ボウイ、ベニチオ・デル・トロ、ゲイリー・オールドマン

ニューヨーク。アーティストの卵であるジャン=ミシェル・バスキア(ジェフリー・ライト)は、「セイモ」と名乗ってグラフィティの活動をしていた。友人のベニー(ベニチオ・デル・トロ)とバンド活動をしたり、ウェイトレスのジーナ(クレア・フォーラニ)と仲良くなり家に転がり込んだり、偶然、超大物のアンディ・ウォーホル(デヴィッド・ボウイ)を発見してポストカードを売りつけたり、野心を持ちながらも気ままな生活をしていた。そんなとき彼には、空に大きな波を気持ちよさそうに乗るサーファーが見えていた。

ある日のパーティで美術評論家のルネ(マイケル・ウィンコット)にその才能を見出されてグループ展に出品、たちまち注目され、画廊のオーナーにアトリエを提供されて、次々に大作を描き、一躍大スターになって行く。アンディ・ウォーホルとはすっかり共同制作をするほどの仲に。しかしその一方で、ベニーやジーナとは疎遠になっていく。

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高校生の頃、すっかり「映画ファン」になった僕は、ある日近所のTSUTAYAでこの映画のVHSを借りた。

今回、YouTubeでこの映画の予告編を観たところ、何かしら琴線に触れるものがあった。
予告編って、「映画を観る前に観た」場合と、「映画を観た後に観た」場合では、全く意味が違う。そして、前者の映像には、「あ、この映画観たい」と思った感情が、呪いのようにその後もずっと染み付いているように思える。
なので、「バスキア」の予告編にはその呪いがあり、つまり「映画を観る前に観た予告編」だったことが分かった。ということは、「ジャケ借り」じゃなくて、「目的借り」だったようだ。おそらく、「レオン」(1994)を観てファンになったゲイリー・オールドマンを予告編で観たので、「おっこれも観よう」と思ったのであろう。

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そして、17歳の僕は、初見の観賞が終わったあと、なんだかわからないけれど、そのままぼうっと呆けてしまった。それはどういったことだったんだろうなあ、今となっては詳細を説明するのが難しい。でも、西日のあたるリビングで、テレビの前にべったりと座り込んでいた光景だけは、なんとなく記憶に残っている。

おそらく、僕はこの映画から「アートの潔さ」みたいなものを見出した、ということじゃないかなあ。その当時は、バスキアが新表現主義のアーティストだったということは知らなかったし、アンディ・ウォーホルも知らないし、ましてやデヴィッド・ボウイすら馴染みがない。でもとにかく、この映画から、何かしらの感銘を受けたのであろう、なにしろ、その直後、美大受験専門の予備校を訪ねて話を聞いてみる、ということをした。

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この話は、全くポジティブなところには行き着かない。予備校の講師からは、美術大学に合格するためには、血の滲むような努力と忍耐力が必要であり、それをすることによるリスクは甚大、そして何と言っても、「どれだけ努力をしてリスクを取っても、結局は才能がなければ合格は不可能である」ということを蕩々と説明された。そして僕は、まだ何も始まっていないその時点なのに、美大受験にチャレンジすることから、一目散に逃げた。そのときの深い沼に真っ逆さまに沈んでいく挫折感を今でも覚えている。そして、普通の大学を受け、普通にサラリーマンになった。

今思うと、いずれにしたって僕にはたいした美的な才能はないんだけれど、ここで問題とするべきは、その「才能の欠如」を補うための「強い意志」すらなかったということ。実は、ほんものの才人なんて、ものすごく一握りであり、そうではないほとんどの人たちは、モチベーションの力で、なんとかしてリングに上がっているのだ。でも、それすらできなかったなんて、なんて弱々しい青二才だったのだろうか。

しかし、この挫折による心の痛手は、その後の人生の中で、自分の未来が大きく変わる選択をするときに、時々顔を覗かせてきた。そしてそのおかげで、くよくよ悩んだり逃げたりせずに、「えいやっ」と何かに飛び込むことができるようには、なった気はする。

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これを書くために再鑑賞したけれど、20年前の僕に起きた特別な経験はもちろん現れなかったし、そもそも「映画として」優れた点をそこまで見つけることはできなかった。そしてそのことは、僕はそんな風に映画を観るようになっちゃったんだなあ、という、ちょっと寂しい気持ちにさせた。

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