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「壁打ち」という起業家伴走について

こんにちは、Impact HUB Tokyoでコミュニティ・ビルダーという仕事をしているKodyです。

私はここでコミュニティ・ビルダーとして、基本的なスペースの管理から事業モデルをブラッシュアップするための壁打ちやイベント企画まで、起業家コミュニティに集まる人々に伴走しています。2018年に入社以来、マーケティングやブランディングの担当者としてウェブマーケティングや人材採用、UX構築などにも関わってきました。

前回のVol.1に引き続き、今回もコミュニティ・ビルダーの役割について紐解いていきたいと思います。入社からの3年間、コミュニティ・ビルダーとして起業家のコミュニティに関わり、たくさんの失敗や挑戦、そしてチームとの議論を通して蓄積してきた暗黙知を言語化してみるプロセスとなります。

さて、前回は「起業したことがない自分が、どうやって起業家の伴走ができるのか?」という問いに答えつつ、では私たちはどのような役割を担っているのか?について整理してみました。結果、それはコミュニティに集合する知識や経験、スキルなどのリソースにメンバーたちがアクセスできるように、動き回るのがコミュニティ・ビルダーの一つ目の役割であるということが分かりました。さて、Vol.2ではよく耳にする「壁打ち」について綴っていきたいと思います。


起業家の抱えたニーズと壁打ち

コミュニティに集まるメンバーと日々話していると、「壁打ちをしてもらいたいのだけど、〇〇さん今時間ある?」や「もし思考を整理したいのであれば壁打ちしてみますか?」という言葉をしばしば耳にします。どうやら起業を考えている人や、事業モデルをブラッシュアップしたい人、または、あらたなプロモーションやマーケティングの方法を試行錯誤している人にとって、この壁打ちというものが求められているようです。

では、この壁打ちという行為が一体何を指していて、どういう効果があるのか深掘りしていきつつ、コミュニティ・ビルダーが「壁打ちに付き合ってくれる中立的な存在である」ことがどのような効果を出しているのか深掘りしていきたいと思います。

ビジネスモデルをブラッシュアップする段階にいる起業家は「なぜ自分はこの事業を起こそうとしているのか」「どんな価値を持っているのか」そして「誰にどのような形で価値を届けるのか」とモヤモヤと、ああでもないこうでもないと自問自答しています。

またすでに起業した人においても、新たな方向性を目指したり、転換を試みたりする時に似たようなプロセスを経て、ビジネスモデルのブラッシュアップを行なっていきます。起業家と一口にいっても、ビジネスピッチや事業説明が得意な人ばかりではありません。

たとえば、発明家タイプの人が事業を起こそうとする時もありますし、プログラミングは得意だけど人前で話すのは苦手という人も、アートやデザインなどで独特の世界観を持ちつつ起業を目指す人も、もちろんいます。

そんな人たちにとって、コミュニティ・ビルダーはとてもよい壁打ち相手になり得ます。起業家の話の聞き手役に回り、タイミングよく相槌を打ち、気持ち良く話ができる状況を作る。そんな環境を促進し、まずは起業家の脳内にある「まだ明確に言語化されていないストーリー」や「半熟状態のビジネスアイデア」を引き出そうとします。

ここで気をつけたいのが、壁打ちの過程で具体的な結論や解決策が出てくることは求められいないということ。Vol.1で述べられていた通り、その業界での専門知識や背景知識を私たちは持っていないのでその面でのアドバイスは逆に起業家にとってのノイズとなってしまいます。また、自分の持っている知識や経験を基準として話してしまうとせっかくの起業家のアイデアをハイジャックしてしまうことになりかねません。

代わりに、私たちの方からは起業家の話す内容が論理的に成り立っているか、本当にニーズがユーザー目線になっているか(起業家目線に偏っていないか)、そして起業家自身のWHY(なぜ?)に基づいたものであるかなどに着目して適切な問いを投げながら、絡まってしまった論理や説明のダブり、思考の詰りなどを解していきます。


中立であることの意義

ではなぜ中立的であることが重要なのか?それは多くの起業家が置かれやすい状況を想像すると分かりやすいかもしれません。

他の起業家にはできれば話したくないし、まだメンターに相談できる状態でもない。とくにスタートアップや起業家界隈ではアイデアを盗まれる可能性もあるし、色々とジャッジされてしまうかもしれない。まだ昇華しきれていない状態のアイデアに対して、上から目線で「アドバイス」をもらうというのもノイズになりかねない・・・。こんな状況に陥り、人に相談しづらくなってしまう起業家もいると思います。

純粋に論理的な齟齬がないかに着目しつつ、中立的な立場で起業家の思考の壁打ちを行えることの価値は、上記の様なしがらみが関係しているのです。

さて、この壁打ちは特別にヘルプデスクを設けたり、大々的にサービスとして打ち出しているわけではありませんが、コミュニティ・ビルダーとメンバーとのふとした日常会話で「そういえば今こういうことを考えていて・・・」という調子で始まることがしばしばです。

そこでは、ビジネスモデルの話だけではなくつまずきや悩みが混ざっていることもあります。若干話がズレるかもしれませんが、重要なことなのでこれだけは書いておきたいと思います。それは起業家のメンタルヘルスの問題についてです。


起業家のメンタルヘルスの苦悩について

近年、少しずつですが起業家の孤独やメンタルヘルスに関する言説が出てきています。

孤独に陥ってしまう原因は多様ですが、たとえば、共同創業者やチームとの確執が生まれてしまったこと、家族からの理解やサポートが得られない、起業家界隈内でのしがらみや過度な競争に巻き込まれてしまう、投資家からのプレッシャー、そして経営状態と自分がやりたいことの間で常に決断を迫られる、など様々に、そして複雑に絡み合っています。


各人により大小の違いはあるかと思いますが、多くの起業家は上記のような悩みや重圧、しがらみなどに苛まれていることがあります。


社会的資本との断絶によるつまづき

前述の通り、私たちのコミュニティには事業のアイディアの種を温めている段階、俗にアイディアフェーズと呼ばれる起業家の卵のような方々も多く集まります。前職で高めた専門スキルや独自の観点や提供価値、そして社会課題への問題意識などを胸に独立する人たちは今までに蓄積してきたネットワークや繋がり、セーフティネットなどの社会的資本から断絶してしまっていることもしばしばです。

異なる業界で起業を試みたり、そもそも新しい業界を作り出そうとしている彼らは孤独になりやすいと私たちは考えています。

社会的資本からの断絶というと、日本で起業を試みる在日外国人の起業家たちも当てはまります。言語の問題に加えて、母国で蓄積されていたネットワーク、信用、情報のループとの繋がりなどが失われてしまっていることで適切な支援に繋がれなかったり、仲間探しに苦労したり、肩の力を抜いて気軽に対話のできる場所がなかったりする状況を何度も目にしてきました。

このように常に孤独やプレッシャーと隣り合わせの起業家たちが信頼できるコミュニティや仲間たち、そして情報や知識と繋がれるように私たちはコミュニティのことを常に注意深く観察しています。

そんなことを意識しつつ、中立的にビジネスの話ができる。そこがImpact HUB Tokyoのコミュニティの良さであり、コミュニティ・ビルダーが必要とされている大きな要素だと考えています。


私たちはきっとお節介なんだと思う

こう書いていると私たちはとてもお節介な集団なんだなと改めて思いました笑。メンバーの様子が気になったら話し掛けに行くし、なんなら入会のプロセスが始まる前からたくさんの問いを投げ、相手を知ろうとする。特に、一人一人の起業家が持っているWHY(なぜ?)についてはとても大事にしています(詳しくはVol.3にて触れたいと思います!)。

その分、私たち自身のWHYや何者なのか、どんなストーリーを持っているのか、ということを内省し、開示することも忘れない。こんなお節介なアプローチが事業の壁打ちや言語化のサポートにつながっているし、それが強いてはビジネスモデルのブラッシュアップ、そして事業の加速に繋がっていると思います。

さて、今回はこの辺で。次回も引き続き、コミュニティ・ビルダーの役割について書いていきたいと思います。

Vol.3では「なぜこのコミュニティではWHATでもなく、HOWでもない、WHYに重きを置いているのか?」ということについて考えていこうと思います。


今後もシリーズ連載していきますので、お付き合いいただけると幸いです。
お楽しみに〜!

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