これも親ガチャ?(第14話)

 夏休みになると正と二人三脚でバイトをこなすことになった。
7月上旬の正の相談が始まりだった。
『相田君、何か、アルバイト紹介してくれないかな?
相田君、いろいろアルバイトしてるんだろう?
茜さんが言ってた。』
『いきなり言われてもな~、バイト先も、
期間限定ってのが一番困るもんなんだよ。
でも、いきなりどうしたんだ?
お前んち、今は、裕福だろう?』と俺は聞き返した。
『実は、塾に行きたいんだ。相田君、大変そうだから。
いつまでも相田君に甘えて教えてもらってばかりじゃあ、
悪いなって!』
『そうか、気を使わせちゃったな。
じゃあ、新聞配達を手伝えよ。
2人でさっさと終わらせて、
俺は半額を正に渡して睡眠時間を買うって計画さ。』
思い付きだった。だが、正は真面目に受け取った。
更にラブホのバイト時間をまとめてもらって、
休みの日を増やすことに成功した。
1か月半だが、俺の休憩時間としては、とても有難かった。
正のバイト代は5万円になった。
正がフォローしてくれた分の時間を俺は、
卒業後に何を始めるかのプランニングに当てた。
考えてるうちに熟睡してしまうことが多かったが、
それでも、考えた。
大学ノートに1冊分ぐらい書き込んだ。
この内容はまたの機会に話すが、
私生活の中での問題も見えてきた。
例えば、こんな感じだ。
茜と別居するのか?
いつまで暮らすのか?
資金を使って何をしたいのか?
新聞配達やラブホのバイトをいつまで続けるのか?
(こっちの解決の方が優先なんだよな~。)


そうそう、結局、先日の進路の話、
正と真奈にも話していなかったけど、
システムエンジニアを極めるのが一番良いのではないか
って考えているんだ。
だから、どこに習いに行くのが良いのか?
やはり大学まで行った方が良いのか?
俺的には、どんなやり方が向いてるのか?
茜への恩返しをどうやって返すのが、
茜にとって1番なのか?
いろいろと調べてから、考えることにした。


この年の10月、ハバロフスク社会主義共和国が独立宣言した。
慌てたロシアが攻め入ろうとしたが、田中首相が事前に作っていた
国境から幅10mに及ぶ磁力帯がロシア軍の進行を止めた。
理由が解らず、戦車、軍用車両、兵士が動けず、磁力で釘付けとなった。
これが壁となりミサイルしか飛ばせない。
ミサイルさえ磁力帯の餌食になり、味方に落ちたケースが発生。
にらみ合いが1か月以上続いた。
この間、田中首相はシベリアの石油、天然ガスを大量に輸出した。
石油は1バレル20ドル以下になり、天然ガスも格安になった。
ロシアは石油による収益が激減した。
さらに、アメリカが経済封鎖をしたことも手伝い、
ロシアは窮地に追い込まれた。
OPECには、2か月という期限だけ
という約束を内々に伝えていた。
田中首相の作戦が功を奏し、
ロシアは戦費を賄う計画が立たず、
田中首相が提案した和平案と
ハバロフスク社会主義共和国独立案にサインをした。
55日目のことだった。
この合意後、田中首相は、北海道までパイプラインを敷き、
北海道にブルー水素の生産工場と水素発電所を作った。
東北、北海道地域は、格安電力で人口と進出企業が激増した。
進出企業は、主に外資の半導体メーカーだった。
仙台市と札幌市を拠点にシリコンバレーと
電器産業地域が発展を始めた。
2都市間にリニアモーター線の計画まで浮上している。
東京証券取引の平均株価は3万円を超えた。
ある意味、バブルの再来に近かった。
ただ、今回は裏付けがあるところが違っていた。


 3年の秋、文化祭も終わり、
みんな、卒業への追い込みに入ろうかという時期になった。
今日は正も塾に行くってことで、校門で別れた。
帰宅の途中のバス停で真奈を見つけた。
真奈も俺に気づくと、走って寄って来た。
『ごめん、相田君。
これを預かって、後で、取りに行くから!
今から、塾があるのよ!』
なんだか訳が解らないまま、
俺はボストンバックを押し付けられた。
‘で、塾は何時に終わるんだろうな?
何も聞いてないけど・・、まぁ、良いか!’
俺は、真奈の後姿を見ながら、そんな事を思っていた。
真奈が見えなくなって、
押し付けられたボストンバックを
肩にかけ直して俺は帰り始めた。
‘しまった。
今日は、俺の食事当番で買い物を
済ませてから帰る予定だった。’
スーパーの看板を見て
初めて余分な荷物を持ってることに気づいた。
邪魔だと感じ始めると、
やたらと邪魔に思えてくるのは
俺の性格の悪さかもしれない。
とりあえず、カレーの材料と朝飯用の食パンなど
思いつくものを買って帰宅した。
キッチンのテーブルに買い物袋ごとドサッと置くと
真奈のボストンバックと
俺の中学校のカバンを部屋に置いた。
この時は深く考えていなかったから、
真奈のボストンバックの中身も気にならなかった。
俺の頭の中は、
すでに夕飯の段取りで占領されていた。
とりあえず、冷蔵庫にジャガイモ、玉ねぎ、
にんじん以外の物を全て片付けて、
炊飯器に残ってたご飯をラップで包むと、
炊飯器の釜をシンクの中でぬるま湯に浸け置きした。
さっきまで買い物袋だったポリ袋を
ごみ袋としてセッテイング。
そして、ザルとボールもセットして、
後は黙々とジャガイモ、玉ねぎ、にんじんの皮をむく。
乱切りのにんじん、8等分のジャガイモ、
いちょう切り的にスライスした玉ねぎを
軽く水洗いして鍋に入れ、中火で煮始める。
アクを取ったら、
大きめの一口大にカットした鶏肉を鍋に入れ、
煮込む!そう、俺のカレーは、
1度も焼かずに作るんだ。
俺の中のおっさんの好みらしく、
茜に作った時に、茜が喜んだので
そのまま、俺の当番の時は、この作り方だった。
茜は料理の手間が省けるから、喜んだのだろうが、
初めて作ったのは確か小4だった気がする。
まあ、面倒を見てもらってるから
文句は言えないけどね!
当初は週1だった食事当番も、今では週4になった。
俺は、煮立った鍋の火を止めて、
炊飯器の釜を洗い炊飯のセットを始めた。
カレーのルーは、2社のルーを1つずつ使う為、
A社のルーを溶かし終えて、1度火を止める。
部屋から、パソコンを持ってきて、
株式市況を確認しながら
B社のルーを溶かすために、とろ火で煮始める。
カレーができ、ご飯も炊けて、
俺が飲むコーヒーを1杯作る頃には
夜の8時前になっていた。
茜が帰宅して、
『ム~君、ただいま!
マンションのエントランスでカレーの匂いがしてたよ!
もう、お腹ペコペコ。』と言ってた。
‘ここは3階だけど、そこまで匂いが流れるのだろうか?’
そんな事を思いながら、カレー皿に
ご飯、カレーの順に盛り付けた。
茜と俺の分を準備し、
茜にコーヒーも要るかどうかを聞いた。
返事はなく、部屋着に着替えた茜が
バタバタと子供の様にキッチンに小走りで来た。
カレーの1杯目を食べ終わりかける頃、
ピンポ~ンとインターホンが鳴った。
茜にはこのタイミングで良い思い出は無かったのだろう、
少し顔をゆがめた。
『そうだ、真奈が寄るって言ってたんだ。』
俺はそう言って、インターホンに出た。
そして、マンションの玄関のロックを解除すると、
俺は気を利かせて、
真奈のボストンバックを部屋から持って来て、
玄関に行った。
だが、真奈は部屋の扉を開けた途端、
『相田君、私、お腹ペコペコ!
カレーか、美味しそう!おじゃましま~す。』
とか言ながら、玄関でクンクンして、
部屋の中に上がってきちまった。

つづく
さあ、真奈ちゃんは何の爆弾を
落としていくのか?

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