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ナポリタンと父


ナポリタン


ナポリタンを食べるたび思い出す。

私がまだ小学校に上る前。今はもう無いデパートの地下。そこに八〇年代のネオン輝く軽食屋があった。その時の光景を未だに覚えている。

父が珍しく外食に誘ってくれた。

ギラギラとした軽食屋の、自分の身長より高い椅子によっこら腰掛け何を食べようか考えていると、

「ナポリタンにするべ」

と、これまた珍しく注文する品を指定してきた。

まあ別に嫌いではないし、それに従った。

運ばれてきたナポリタンを食べようとすると、それに父は躊躇なく粉チーズをふりかけた。ナポが見えなくなるまで、真っ白になるまでふりかけた。

さらにその上から、タバスコを何度もふりかけた。

…これでは、甘いケチャップ味のナポリタンではないではないか。

少し不満げな娘の顔をみて、「まぁ、食ってみろ」と。

一口食べてみる。粉チーズがガツンと来た後、さざなみのようなタバスコの辛味。咀嚼すると仄かなナポリタンの懐かしい味。

「うまいべ。」

父の満足そうな声。美味しい。何度も無言で食べた。


ナポリタンを食べると、いつもこの思い出が過る。

今日もまた、ナポリタンを店で頼み、当時とは違うナポリタンだが粉チーズとタバスコ塗れにして食べる。

刺激的な味の向こうに、仄かな懐かしさを思い出す。

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