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陰謀論か妄想か。謎が暴走するスリラー

世界中でファンを急増させた傑作スリラードラマ『ミスター・ロボット』。現実に起こりそうと錯覚させる物語性だけではない、その魅力をわかりやすく分析する。

世界情勢を背景に圧倒的スピードで展開するスリラー

全米で放映開始されるや否や好評を集め、ゴールデングローブ賞やエミー賞といったテレビ業界の賞を総なめ。謎が謎呼ぶストーリーに圧倒的スピードの展開で、最終シーズンまで大絶賛を浴びたのがドラマ『ミスター・ロボット』だ。世界は巨大な力によって支配されている、という陰謀論は、テクノロジーと格差と分断が進んだ21世紀の世界で急速に広まった。その背景を見事に使いこなし、一人の天才ハッカーを中心にしたスリラーに落とし込んでいるのが特徴。物語序盤で描かれる巨大企業の金融システムへのハッキングからして、専門的な用語が飛び交うため、その手の知識に明るくない人は一瞬ひるむ。だが、実在の事件や人物名などがニュース映像などで飛び交うことで、一気に物語世界に引き込まれ、細かな疑問よりも物語を覆う巨大な疑念に夢中になる。

ラミ・マレック出世作

主人公のエリオットは、サイバーセキュリティーサービスを提供する「オールセーフ」という会社のエンジニアで、ハッカーとしての顔も持つ。オールセーフが請け負う世界最大のコングロマリット「Eコープ」のハッキング危機を、エリオットの手腕で救うところから物語は始まる。対人関係が苦手で、それでいて話すとなると弾丸のように言葉が溢れ出すエリオット役は超難役だ。そんな彼を演じているのは、『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリーを演じ、見事アカデミー賞主演男優賞に輝いたラミ・マレック。『ミスター・ロボット』の人気をきっかけに一気に知名度を上げ、活躍の幅を広げていった。いわば本作は、オスカーへの道を作ったともいえる、彼の数ある出世作の中でも代表的なタイトルといえるだろう。

脇を固める俳優陣も個性的かつ超有名

エリオットの前に突如として現れ、彼の人生を大きく揺るがす謎の男「ミスター・ロボット」。特にシーズン1での彼は、エリオットにべったりしているくせに、謎が多すぎていったい何者か分からなくされていて気になる存在。そんな彼を演じるのは、クリスチャン・スレーター。80年代に『薔薇の名前』や『トゥルー・ロマンス』で一世を風靡したかつての美青年俳優が、陰をまとい、巧みな芝居でエリオットばかりか観ている者を煙に巻く。彼が演じるミスター・ロボットが何者かが分かったとき、アッと声をあげてしまうはずだ。また、シーズン2から登場するFBI捜査官ドミニクを演じているのは、グレイス・ガマー。名優メリル・ストリープの次女で演技に定評がある彼女、私生活では世界的音楽プロデューサーのマーク・ロンソンの妻としても知られる。

観ている人を増やしたくなるネタバレ厳禁モノ

製作はヒットメーカー、主演はのちのオスカー俳優、助演も個性派ぞろい。これだけ濃いメンバーに支えられて、現代の闇「陰謀か妄想か」をサイバーセキュリティ業界を舞台に語る本作。巨大企業によって世界が支配されているというネタや、その中でも政争が絶えないこと、一方で権力に立ち向かおうとするハッカー集団の存在などなど。現実世界でも起こりそうなことばかりが各エピソードに盛り込まれている。だが、なにせ困るのは、ネタバレ厳禁ということ。じつはシーズン1の終盤以降は、鑑賞済みの人同士でしかシェアできないほどの大きな転換があるのだ。そのため、一度観てハマった人は、自分の口コミでなんとかシェアできる相手を増やそうと躍起になってしまう。これこそが本作最大の大仕掛けといえるだろう。

Text/よしひろまさみち

よしひろまさみち プロフィール

映画ライター。音楽誌、情報誌、女性誌の編集部を経てフリーに。『sweet』『otona MUSE』のカルチャーページ編集・執筆のほか、雑誌、Webでのインタビュー&レビュー連載多数。日本テレビ系『スッキリ』での月一映画紹介のほか、テレビ、ラジオ、イベントにも出演。Twitter:@hannysroom


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