見出し画像

色褪せない名作『四畳半神話大系』の魅力

超高速の語りがクセになる! バラ色のキャンパスライフを夢見る主人公と歩む、各話ごとのループ的な展開のとりこに。色褪せない名作「四畳半神話大系」の魅力に迫ります。

森見登美彦の原作を、湯浅政明がアニメ作品へと昇華させた傑作!

©四畳半主義者の会

アニメ制作当時、原作の小説に目を付けたフジテレビ『ノイタミナ』枠のプロデューサーは、長編アニメ映画で高い評価を得ていた湯浅政明監督にこの作品の映像化を持ちかけた。 映像クリエイターとしての、あまりにも突出した個性が原作つきのテレビアニメーションを地上波で手掛けるというのは当時としても画期的な試みだった。

強い原作には、強い個性で。
シンプルな線で構成された中村祐介のキャラクターデザインを見事に動かした手腕、あえて奥行きを描かないような色彩設計、極度に高速でしゃべる主人公の「私」。
いったいなにがはじまったのかと一瞬にして心をつかまれるや、一話ごとに「私」が大学に入学するところからやり直しするような「ループもの」のような構成。一度観たら忘れない映像体験をぜひ堪能してほしい!

強い映像に負けない声優陣の味わい

©四畳半主義者の会

一度観た方は二度目の衝撃体験を。
結果的にテレビアニメ作品としては初の文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞した本作は、その強い映像の力に負けない声優陣の演技にも注目してほしい。
まるで漱石作品における主人公のような心のつぶやきが多いインテリの「私」を、演劇畑から声優の道に入った浅沼晋太郎が好演!抑揚をつけすぎない抑え目な演技でありながら棒読みではないという難しい役どころが印象深い。
「私」の宿敵であり盟友である小津という不気味なキャラクターは、吉野裕行のもつコミカルでありながら小動物的な演技でこちらもインパクト大。
マドンナ的な立ち位置の「明石さん」は透明感がありながら超然とした役どころ。これを坂本真綾、大学8回生の「師匠」を藤原啓治が演じた。

男子大学生が主人公 大人向けアニメ枠の象徴的作品

©四畳半主義者の会

「大人の鑑賞に耐えるアニメ枠」が登場した00年代。
たとえば高校生が主人公でかわいい女の子や男の子が出てくるような既存のものとはちがい、大人が主人公で、実在する場所を舞台とし、自意識や甘酸っぱいだけではない青春をテーマとした作品を数多く生んだ。
コミック原作ではなく、小説原作や完全オリジナルの野心作も生んだ。
OPやEDでは実写映像も交え、ミュージックシーンの震源地にいるようなアーティストの楽曲で構成された。
本作は歴史的にみても、そんなアニメーションの新しいムーブメントの象徴的作品として位置付けることができる。

傑出した演出力

©四畳半主義者の会

現実世界を舞台とした作品は写実的に描かれることが多いなか、本作は湯浅政明監督のその後のキャリアを決定づけるほどアニメ的ケレン味と傑出した演出力が光る。
ときに浮世絵的でもあり、ときに印象派の絵画的な絵作り。デフォルメされる人物たち。
カメラの位置ひとつとっても、「四畳半神話大系」といったらこの絵!という印象的なカットを量産するものだった。
また、時間を戻す演出や、モノローグを軸に構成されていく映像は、単調になりがちなところを飽きのこないように
会話を織り交ぜ、「一人称」と「会話シーン」を自然に交差させる。
テレビアニメでもこんなこともできるのかという発見の連続だ。
名作は色褪せないことを証明する作品。2022年には世界観を踏襲した映画「四畳半タイムマシンブルース」が公開されるほど根強い人気となったのも理解していただけるだろう。

Text/サンキュータツオ

サンキュータツオ プロフィール

1976年東京生まれ。漫才コンビ「米粒写経」として都内の寄席などで活動。
早稲田大学大学院文学研究科日本語日本文化専攻博士後期課程修了。
アニメ、マンガなどを愛好しており、二次元愛好ポッドキャスト「熱量と文字数」を毎週水曜日配信。「このBLがやばい!」選者、広辞苑第七版サブカルチャー項目執筆担当者。一橋大学などで非常勤講師も務め、留学生に日本語や日本文化も教えている。Twitter:@39tatsuo


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!