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ポジティブに生きると人生激変!?

コンプレックスを抱き、いつもタラレバ話を考えてしまう人は少なくないはず。本作の主人公はまさにその典型。そんな彼女が手にしたのが、超ポジティブさだったらどうなる?

ルックスが変わった姿が出てこない演出

主人公はちょっと太めの体型を気にして、前向きになれないレネー。それはファッションや恋に関してだけでなく、キャリアも人生も。いつも悶々と「スリムだっタラ」とか「あの子のようにモテてレバ」とか、タラレバ妄想の連続。そんなレネーが、ある日ワークアウト中にコケて頭を強打したことで、見える世界が変わってしまう。それは、周囲の世界は変わらず、自分の容姿だけファッションモデルのようなルックスに見える、というご都合主義な大変化。そこからレネーは持ち前の明るさと、理想のルックスを手にした勘違いで自信満々に。この作品の素晴らしいところは、レネーが見えている「美しい自分」を全く出さないこと。この演出によって、周囲はそれまでと何も変わらないのに、レネー自身の中身が変わっていく様子が見事に浮き彫りにされていく。

主人公だけじゃない、コンプレックスはみんなのもの

ルックスが変わった(と思い込んでいる)レネーが、調子に乗って過剰ともいえるほどの自信家になっていくが、そこで描かれるのは、一見成功しているようなレネー以外の人々も何かしらのコンプレックスに悩んでいるということ。レネーの勤務先の社長エイヴリーは、祖母から受け継いだ化粧品会社で辣腕を奮っているが、少女のように高い声を気にしている。また、レネーがクリーニング店で誘いをかけたイーサンは、テレビ業界で働くクリエイター。彼は、マッチョな男性っぽさを持ち合わせておらず、奥手で女性との付き合いは下手。そんな彼らは、自信をつけたことによって潜在的に持っていた高すぎるコミュ力を発揮するレネーに影響され、彼らなりの一歩を踏み出していく。コンプレックスを気にしなくなることで、あらゆる人の人生が変わっていくのだ。

ボディ・ポジティブは20年代のテーマ

2010年代後半くらいからファッション界などでムーブメントとなり、20年代のテーマになっているのがボディ・ポジティブ。これは、今まで考えられていた理想的な体型や外見は、社会が決めてきたものであり、それには左右されない見た目の価値観を指す。本作はまさにそのど真ん中を貫くテーマ設定。しかも、変化したレネーが最初のうちは前向きで明るいキャラクターとして受け入れられているものの、次第に行き過ぎたプライドが他者を傷つけてしまうという側面をも捉える。これには、ボディ・ポジティブが全てを肯定するわけではなく、過剰な自信がもたらすマウンティングに対するアンチのメッセージも込められているのだ。ちなみに主演のエイミー・シューマーは、ボディ・ポジティブを体現するコメディエンヌ/プロデューサーとしても知られている。

レネーの世界観を作りだす共演者たち

レネーの理想は、ファッションモデルのようなルックス。それさえあれば、バラ色の人生を歩めるはず、と信じて疑わない。普通なら、そもそもそんな人が周囲にいるはずがない……のだが、本作においては身近な設定。そのため、レネーの周りはファッションウィークのランウェイのように華やかなキャストが。レネーの会社の社長エイヴリーはオスカー候補になった実力派ミシェル・ウィリアムズ、エイヴリーの母親リリーは70代にしてモード誌の表紙を飾ったローレン・ハットン、エイヴリーの右腕となるCFOヘレンはスーパーモデルの代名詞ともいわれるナオミ・キャンベル、レネーがジムで出会う女性に人気ファッションモデルのエミリー・ラタコウスキーなどなど。コメディ色の薄い彼女らが、レネーが引っ掻き回すはちゃめちゃな本作の世界観を彩っている。

Text/よしひろまさみち

よしひろまさみち プロフィール

映画ライター。音楽誌、情報誌、女性誌の編集部を経てフリーに。『sweet』『otona MUSE』のカルチャーページ編集・執筆のほか、雑誌、Webでのインタビュー&レビュー連載多数。日本テレビ系『スッキリ』での月一映画紹介のほか、テレビ、ラジオ、イベントにも出演。Twitter:@hannysroom

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