売掛金回収プロの極意

売掛金回収プロの極意(与信管理は重要な業務)

(1)与信管理とは何か

与信とは、取引先に対し信用を与えることを言います。

たとえば、金融機関やクレジット会社が顧客に対して 決定する融資限度額やショッピング限度額がこれにあたります。


また、一般の企業においても売掛金や手形の限度額を 決定することが与信にあたります。


企業間における取引は、頻繁かつ継続的に発生するた め、通常そのつど現金を受け取るのは非効率である場合 が多いものです。


このため、取引先に「信用を供与する」ことで商品や 製品を納品した後に代金を受領する「与信取引」が行わ れることになります。


そして、「与信取引」を安心して行うためには、取引 先の情報を収集・分析し、信用状態について現状やその 動向を予測・管理するという作業が必要となります。


この作業にもとづき、与信を適正に管理しコントロールすることを与信管理と言います。

(2)危ない会社の見分け方


①商業登記簿のチェックポイント
新規取引先の与信額を決定する為に商業登記簿を取得 します(所定の手数料を払えば誰でも取得することがで きます)。


取得した商業登記簿の各項目をチェックします。
・商号 : 会社名
・本店 : 本社の住所
・資本金の額 : 資本金の金額
・役員に関する事項 : 役員の情報

チェックをしていく中で特に注意すべき内容は、次の とおりです。


イ)最近商号が変更されている
新規取引をする少し前に商号(会社名)が変更されて いたら要注意です。
取り込み詐欺や悪質な会社は、犯罪の摘発や風評が悪 化すると社名を変えてごまかそうとします。
正当な理由もなく社名を変更している場合は疑義があ ります。

ロ)役員が頻繁に変更されている
役員が頻繁に変更されていたら要注意です。
たとえば、ワンマン社長が自分の友人や知人を役員と して就任させて、気に入らなくなると退任させるような ケースがあります。
また、社内の派閥抗争が激しく経営陣が安定していな いことが考えられます。
いずれにしても、役員が頻繁に入れ替わるということ は経営陣の安定していない会社であり、信用力は低いと 判断されます。


ハ)役員の変更がなされていない
通常、役員には任期があります。
たとえば、2 年の任期が満了になると、退任するか、 更新するかのどちらかになります。
そして、この更新の登記を重任登記と言います。
本来であれば、任期が満了になると退任か重任かの登 記をしなければならないはずなのですが、まったく何の 登記もされていないケースがあります。
この場合、考えられるのは、商業登記簿を放置してい る事務処理のずさんな会社の可能性が高いということで す。


商業登記は、取引の安全と円滑化をはかるために会社 の一定事項を公示する制度です。


登記された事項に変更が生じた場合には、原則として 2 週間以内に変更の登記を申請する必要があります。


もし、この期間を経過して申請した場合は、後日「過 料」という制裁金が課される可能性もあります。


このため、非常に重要な事務処理になります。


②不動産登記簿のチェックポイント
商業登記簿の他に不動産登記簿を取得します(※不動 産登記簿は、所定の手数料を払えば誰でも取得すること ができます)。


チェックをしていく中で特に注意すべき内容は、次の とおりです。


イ)強力な担保(抵当権)の新規設定
取引の少し前に強力な担保(抵当権)が新規設定され ていたら要注意です。
これは、新たな資金調達か追加で担保を差し出してい るケースが考えられます。
抵当権の新規設定理由を質問して、どういう回答をす るかによって判断をする必要があります。
もし、資金繰りに窮している場合には、与信に対する 貸し倒れリスクに大きな影響を及ぼします。


ロ)仮登記(街金からの借金の可能性)
仮登記がされている場合も要注意です。
たとえば、街金から借金をする場合に仮登記担保融資 が実行されるケースがあります。本登記に比べて登録免 許税が安いために仮登記をします。
これは、債務者が所有する不動産を担保に融資を受け るときに「所有権移転条件付仮登記」を設定するもので、 もし、債務者が融資したお金を返済しない場合に所有権 を移転して債権回収を図ります。

(3)危ない人物の見分け方


①本人確認書類(身分証明書)のチェックポイント
新規取引を始める前に相手が信用できる人物かどうかを判断する必要があります。このときに、運転免許証や保険証などの本人確認書類(身分証明書)の提示を要請します。ノンバンクの貸し倒れ顧客の特徴では、本人確認書類の保管状態に問題があります。そして、チェックをしていく中で特に注意すべき内容は、次のとおりです。


イ)保管状態の確認
運転免許証や保険証などの保管状態を確認します。
たとえば、著しく汚れていたり、破損していたりしたら要注意です。これは、重要な書類に対してずさんな管理をしている状況をあらわしています。


ロ)運転免許証の再交付回数の確認
運転免許証を「遺失・盗難・汚損・破損」した場合、所定の申請手続きを行うことによって、再交付(再発行)が可能です。
この再交付の回数を確認する方法があります。たとえば、運転免許証番号の末尾の数字が1 になっていた場合は、再交付を1 回したことがわかります。
また運転免許証番号の末尾の数字が2 になっていた場合は、再交付を2 回したことがわかります。つまり、運転免許証番号の末尾の数字は再交付回数の更新履歴になっているわけです。
実は、ノンバンクでの貸し倒れ顧客の特徴で運転免許証の再交付回数が著しく多い(4 回以上)というものがあります。

※運転免許証を見せてもらいましょう
・汚れたり壊れたりしていないか
・再交付の回数をチェック

②筆跡のチェックポイント
本人確認書類の提示要請と併せて、新規取引先の筆跡をチェックします。
取引申込書に直筆の氏名を書いてもらいます。このときに、丁寧で几帳面な筆跡であれば問題ありません。

非常に乱雑で著しく癖のある筆跡の場合は要注意です。これは、字が上手いか下手かは関係ありません。
丁寧に書いているか否かが重要です。実は、ノンバンクでの貸し倒れ顧客の特徴にも筆跡が乱雑だ、というものがあります。


③氏名変更の確認
新規取引先との面談時に氏名変更履歴の確認をします。
たとえば、現在の氏名の前に名字が変更した履歴がないかを確認します。実は、ノンバンクの貸し倒れ顧客の特徴に氏名変更が多いというものがあります。
これは、氏名を変更することで借金を繰り返すからです。たとえば、「田中太郎」という人がノンバンク5 社から借金をしたとします。
これ以上借金ができなくなると資金繰りに困ります。そうすると、今度は「鈴木太郎」という氏名に変更して借金をします。
そして、「鈴木太郎」で借金ができなくなると、今度は「中村太郎」という氏名に変更して借金をします。
このように氏名変更をすることで借金を繰り返すわけです。世の中には、お金を出すと戸籍を貸してくれる人がいるらしく、偽装結婚や養子縁組によって氏名変更が実現できてしまうようです。


④時間に正確かの確認
約束した時間に正確か否かの確認も重要です。
たとえば、正当な理由もなく約束の時間に遅刻してきたりするのは論外です。実は、ノンバンクの貸し倒れ顧客の特徴も時間にルーズというものがあります。
私がノンバンクの債権回収担当時代にも経験しましたが、延滞顧客の特徴として約束の時間を守らないというものがありました。

ここまで見て来たように、「危ない人物」の特徴は約束の時間を守らず、重要書類の管理がずさんで、筆跡が乱雑であり、目的のためには氏名変更までもします。


つまり、几帳面ではなく、律儀でない人です。このような人物に甘い与信をするのは大変リスクが高いということになりますから、できるだけ避けるべきです。

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