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【あなたの知らない落語の世界】第1回「落語って何?」

授業で落語

落語を知らない方のために、新しく落語関連について考える場を設けました。私は某大学で年に14回ほどの「落語」の授業を持っています。落語について14回の授業で語るのはなかなか大変で、ともすれば2時間くらいで終わってしまうことを14回に分けて事細かに話しています。落語自体のこと、落語の成立と歴史、そして実演と。実演の中にもテーマを設けて、江戸の時間・お金とか吉原の話とか、怪談噺とか、14回にするために色々と工夫うしています。

そんな中で、私自身も役立っているのが学生さんのリアクションペーパーです。普段のお客様とも違う若い人ならではの素朴な疑問が散りばめられていて、いつしか「これらを集めて答えていったら、それ自体が落語入門になるんじゃないか」と思うようになりました。

そんなところから【あなたの知らない落語の世界】と銘打って、少しずつですが落語をまだ聞いた事ない人や、聞き始めた人に向けて、書き綴ってみようと思います。あくまで私個人が考えることで、自分の頭の整理のようなものも含んでおります。

落語の定義は三つ

第1回は「落語」そのものを定義してみます。たぶん人によってどれを大事にするかで変わると思いますが、私はシンプルに三つに絞りました。この三つの要素どれが欠けても、落語ではなくなると思います。

その三つの要素は

①一人
②座る
③着物

です。ではこの三つの要素を、それぞれ考えていきましょう。

①一人で喋る

まず大前提として、落語は一人でやるものです。一人の演者が数人の登場人物を操って喋るところに魅力があります。二人になると、役の分配をしちゃうので、お芝居に寄ってしまう。やっぱり落語は一人です。一人で二役演じるのに開発されたのが、右を向いたり左を向いたりする「上下(かみしも)を切る」という動作です。これについてもいつかお話します。

②座布団に座ってやる

座布団に座ってやるのも重要な要素です。座ってやるのは「下半身」を省略するためです。省略したら見えないじゃんと思われるかもしれませんが、見えないことがいいのです、見えたら見えた通りにお客さんは受け取ります。立ってやれば、立っているように見える。だけど座った状態で、膝立ちになると、「立った」表現が可能になります。

それと歩いたり走ったりする動作。これも体を前後に揺らしたり上下に揺らすことで可能になります。足が見えていないからこそ想像出来るんです。

座布団は領域を小さくするためにあります。わざとそこにコートを作るんですね。まずは座布団という小さいコートで喋っていて、ふとはみ出したりすると、表現の広がりが出てくる。これが、最初から座布団もなしに座っちゃうと、コートがないからいきなり無限のコートで表現しなくちゃいけません。狭いところから広くする表現は出来ても、元々広いところからさらに広い表現をするのは大変です。

なのでやっぱり座布団に座っているのが大事なんですね。

③着物を着ている

三つ目は迷いましたが、どう考えても着物が大事です。古典落語を主体にする人はもちろん、新作・創作落語を作る人でも必ず着物を着ています。古典の場合は、そもそも着物を着ている時代の話をしているので当たり前なのですが、新作は違う場合もあります。現代を語っている場合は、その世界の中の人は洋服です。でも、新作をやる噺家はみんな着物です。あえて、企画ものの会で洋服でやるなどの場合を除いて、普通はどの噺家も着物で落語をやります。

これは②の要素が優先して働いているからだと私は思います。「座布団に座る」という行為が先立っているのでどうしても着物がしっくりくるんです。②の要素がなくて、落語が例えば、立ちでやるものだった場合は、洋服に変化したかもしれない。だけど、あくまで座りなんです。

もし着物で立ちでやったら「落語」ではなく「漫談」になると思います。

定義は人それぞれあって良い

ここまで落語の定義を考えて来ましたが、たぶん噺家十人いたら十人違うことを言うんじゃないかと思います。

落語はとても柔軟な芸で、高座で歌ったり、漫談と言って落語の本題に入らずにひたすら面白い話をする場合もあります。究極を言えば、高座に座って無言で動きだけやって頭下げて帰って来ても、それは「落語」と言われます。それぐらいに自由な幅の広い芸です。

ですが、上記のことはそういう自由さを引いても、落語における要素としておそらくみんな残しているであろうことを挙げてみました。

あくまで私の見解です。

今日は「落語」を定義してみました。

【あなたの知らない落語の世界】第1回「落語って何?」

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