見出し画像

「御法度落語 おなじはなし寄席」BS朝日 が面白い

先日、Blu-rayHDDレコーダーを買ったおかげで、番組の録画がスムーズになりました。それによって、落語の番組の検索もスムーズになったおかげで、今まで見つけられなかった番組を見つけられるようになりました。そんな中、見つけためちゃくちゃ面白い番組が「御法度落語 おなじはなし寄席」です。

BS朝日が放映で、司会は千原ジュニアさんです。二人の演者が同じネタをやり、トークをしながら解説をするというシンプルな構成ながら、とても面白く、興味深く見させて頂いております。この番組は、落語家が見ても勉強になるし、落語通のお客さんが見ても面白いと思います。

さらにさらに、意外とまだ落語をあまり聴いてないライトなお客さんから初心者の方まで、結構楽しめるんじゃないかと思いました。

何故なら、落語の魅力を訊かれた時に、いつも答える「同じネタをいろんな演者で何度聴いても面白いのが落語です。」というその言葉を体現してくれている番組だからです。今日はこの番組の魅力について書いてみたいと思います。


御法度落語とは

そもそもこの番組のタイトルになっている御法度落語。そう、落語にも御法度があるんです。それは、「一つの番組の中で同じネタはやらない」です。「やらない」としたのは、明確にルールブックがあるわけではなく、落語界では当たり前の暗黙のルールみたいなものだからです。落語に慣れたお客さんなら知っていると思いますが、初めての方はどういうことかと思うでしょう。

コース料理に例えると分かりやすいです。コース料理では全く同じ料理は出て来ません。フィレステーキが前半と後半に出て来たらびっくりしますよね?

もっと言うと、同じ素材もあまり出さないようにします。ペペロンチーノとカルボナーラは、コース内では一回だと思うんです。パスタですからね。落語で言うと、「登場人物が似たようなものは出さない」「同じテイストの噺はやらない」「噺の構造が一緒なものはやらない」と言った素材が似ているものは出さないというルールがあります。落語は同じキャラクターが色々な噺に出てきます。

与太郎、甚兵衛、泥棒、たいこ持ち、若旦那などその人が出て来るだけでそのネタの色が染まってしまうような濃いキャラクターは、続けて出ないようにします。

同じテイストの噺というのは、つまり人情噺、怪談噺、芝居噺などですね。これも一日に何度も出すものではありません。

噺の構造が似た噺もいっぱいあって、長屋のみんながわいわい出て来る噺とか、オウム返しと言われる主人公が何か教わってそれをやろうとして失敗する噺とか、知ったかぶりをして騒ぎになったりするものなど、展開が似ている噺も続けてはやりません。

こういったことを避けるために、その日やったネタを書いていくネタ帳というものがあるんです。

画像1

「ネタ帳」と言うと、落語家が持っている台本とか小咄を書いたメモみたいなものを想像される方がいますが、ネタ帳はその日の演目を書いたものになります。

ただ、ネタ帳に扇子を横に置いて端から端まで離れていると、同じ素材のネタも出して良いという譲歩ルールもあります。文字の太さで扇子一本に入るネタの数が違う気もしますけどw

そんな中でも、御法度なのが同じネタはやっちゃいけないということです。こればかりは扇子一本分離れていようと二本分離れていようとやっちゃいけません。寄席は昼夜通しでお客様は観られます。なので、その場合は昼から夜まで同じネタは出ません。昼と夜がお客様が入れ替え制になっている鈴本演芸場は、昼と夜はネタを気にせず同じネタをやります。

全てこれはお客さんのために、芸人が当たり前にやっていることなんですね。お客様には出来るだけバリエーション豊かにネタを楽しんでもらいたい訳です。

御法度落語の所以はこれで大体お分かり頂けたかと思います。ここからは、この番組が何故面白いかを三つにポイントでお話します。


①同じネタでも演者によってやり方が違う

そもそもこの番組のすごいところは、普段体験出来ない「同じネタを聴く」という行為を、あえてやってしまおうというところにあります。それが「御法度」という言葉に集約されているんですね。

同じネタを聴くためには普通は落語会や寄席に少し通わないと出来ません。殆どの会がネタ出しをしていないので、何をやるのかわかりません。だから同じネタに出くわすのは運次第なんです。

それがこの番組を観るだけで一発で叶ってしまうというのはとても贅沢なことです。

この番組では、基本的に江戸落語(東京)と上方落語(大阪)の落語家が出演して、その違いを堪能出来るようです。江戸同士の落語家が同じネタをやっても違うのに、江戸と上方となれば、もう言葉がそもそも違いますから、全然違うものになります。

同じネタなのに、出てくる登場人物が違うこともあれば、展開が違うこともあるし、オチだって違うこともある。

初めて落語を聴く方にはここをまず楽しんで貰いたいですね。同じネタなのに、全く違うものになっているのは落語の一番の魅力です。

②落語は何度聴いても面白い

古典落語の演目は、実際に口演されるものは東西合わせて五〇〇くらいだと思います。これだけ聴くと多いと思われるかもしれませんが、これは珍しいネタも含んでいますので、実際にとても良く出るネタというとこの三分の一くらいになると思います。

寄席に行けば一日で十五席くらいは聴けます。一回行くだけでこれだけ聴けるわけですから、十回通えば百五十席聴けるわけです。百五十席聴いて、ネタが被らないことはまずないでしょう。そんなことが有れば奇跡です。その人について行きたいです。大体三日目くらいでもう二度目のネタに出くわすと思います。

同じ人で同じネタに出くわす場合も有れば、同じネタだけど人は違う場合もあるでしょう。

だけど、それで「あー、同じかあ。もう良いや。」とはならないのが落語の魅力です。同じネタでも、同じ状況はあり得ません。お客さんも違うし、やる側からすると持ち時間が違ったりするので、どこかを縮めたり、単純に話し方を変えたり、同じには聴こえないはずです。

また、何度も聴いているとそのネタを段々覚えて来ます。流れがわかるんですね。ここでこうなってああなって、この人がこう言ってとか、それが次第に心地よくなってくるんですね。わかっているのに面白い。

そういったことをこの番組は叶えてくれるんですね。

③同じ台詞であっても違う面白さ

少し踏み込んだことですが、落語は同じ台詞でも人が変わると全然違うんです。

落語において工夫するというのは、台詞自体を変えることだけでなく、それ以上に言い方を変えることも大事です。昔、欽ちゃんも同じことを言ってました。

「最近の若手は笑わせたいと思った時に台詞を変えようとしちゃう。同じ台詞をどう面白く言うかの方が大事なのに。」

同じ台詞をどう活かすかが落語家の真骨頂です。

同じネタをやるということは、後にやる方は前のを聴いているので、台詞とかくすぐり(ギャグ)が被らないようにと配慮すると思うんですが、それでもやっぱり同じ部分は出てくる訳です。

この番組の中でも実際そういう場面があります。だけど、違う落語家のフィルターを通しているので、全然違うように聴こえるし、どういう風にその台詞を捉えて喋っているかがわかって僕らも勉強になります。

またまた料理に例えるとわかりやすいです。同じ材料で同じメニューを作っても、料理人の調理の仕方で味が変わりますよね。あれと同じです。

落語も同じ台詞、同じくすぐりでも落語家の喋り方一つで違うものになる。

上記三つのことが落語の面白さを語る上でとても重要なことなんですが、それを堪能してみようというのが、この「御法度落語 おなじはなし寄席」だと思います。YouTubeで自分で同じ噺を探して聴くのも良いですが、それだと選択肢が多くてわからないと思います。なのでこの番組はとても便利です。

ネタ選びとキャスティング

ネタ選びも結構重要だと思います。変化が見せやすい演目を選ぶことと、それを誰にやって頂くか、とても考えられているように思います。

一人は正統派で、一人は中身をかなり変えているというのが多いみたいですが、その師匠方のことを良く知っている我々としては、どのように演じるか楽しみで仕方がありません。

ただ、やる方は大変でしょうね。想像しただけでも怖いですw

特に後にやる方は嫌でしょうねえ。同じ台詞やくすぐり、聴いている方は全然構わなくてもやる方は絶対に気にしますから。「あっ、あのくすぐり出てきたからあそこは抜いて喋ろう。」って思うはずです。実際に後のトークでそういうことをおっしゃる方が多いので。

司会のジュニアさん

ジュニアさんが司会をやっておられますが、これも良いです。まずジュニアさんは落語が好きな方なので、それが伝わってきます。自分でもライブで落語を披露される方なので、トークの時に師匠方へ質問する内容が、こっちが訊いて欲しいことを訊いてくれるんですよね。

「この噺はどういうことを伝えようとされていますか?」

って質問がかなり演者目線!だけどここが良いんです。これによって、どういう風にそのネタを捉えていて、どこを大事に喋っているかが聴けるので、僕らとしては勉強になります。ああ、やっぱりそうかと再確認したり、自分とは違う視点で捉えていることもあったりして面白いです。

で、それが良い具合にネタの解説になっているので、多分落語を聞き慣れない方にもわかりやすい内容になってるのではないかと思います。

それと演芸番組で、やった方が後からネタの解説をするってあんまり無いんですよね。それに落語家はあまりネタの解説はベラベラ喋る人もおりません(僕は好きですけど)ので、普段はやらないこともジュニアさんの質問が的確なので、結構楽しそうにおしゃべりされておりますね。


とにかく、色々な方におすすめの番組ですのでぜひ一度ご覧になってみて下さい^_^



落語について、また過去の思い出等を書かせて頂いて、落語の世界に少しでも興味を持ってもらえるような記事を目指しております。もしよろしければサポートお願いいたします。