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寄席と持ち時間

寄席には持ち時間があります。大体15分前後。寄席に入る芸人は大体この15分の腹時計を持っています。腹というか口時計ですね。

仲入り(休憩)前に上がる人で20分くらい。で、トリが30分。皆これに合わせて喋っています。

僕としてはこの時間通りに出来るかどうかが本職のと素人の違いの一つだと思います。素人でも落語をやる方はいますけど、多分時間調整はあまり出来ないと思います。というか普段そんなこと意識しないと思います。

だけど噺家は、時間調整が自由自在です。5分でも10分でも、一時間でも。

ただ、そうは言ってももちろん落語はなまものです。毎日違うお客さんの前でやるわけです。同じ噺をやっても、ウケ方が違います。よくあるのが、とてもウケちゃった場合は長くなるということ。笑いが多いとどうしてもそれを待つ間が入るので長くなるんですね。なので、次の人が持ち時間15分のところを13分にして調整していきます。

一時間に四人上がるところが、一人事情で来られなくなったという時は、立て前座の裁量でみんなに少しずつ負担してもらって時間を戻していきます。

それと正月時間ってのがあります。正月の寄席は顔見せなのでたくさん芸人が出る関係上、持ち時間が少ないんです。短いと本当に5、6分。そんな高座を毎日つとめると身体がそういう風になっちゃうんですね。

いざ普通に戻って15分の持ち時間が与えられても、13分くらいで降りて来ちゃって「短くなっちゃった。」なんて光景を正月興行明けの1月下席あたりでよく見ます。

落語を長くしたり短くしたりする術ってのは、稽古して云々というより経験だと思います。いかにそういう作業を日々やっているかという事だと思います。

寄席の舞台に日々上がって、磨かれて行くものです。

ほぼ毎日寄席に出ているとある師匠がいまして。ある日15分で「短命」をやったんです。で、次の日は持ち時間が7分くらいだったんです。時間がかなり押してたんですね。で、何をやるのかなあと思ったら前の日と同じ「短命」をおやりになった。前の日は15分でやっていた短命を7分に出来るのかなあと思っていたらぴったり7分になっていた。

またすごいのはどこを端折ったのか、つまんだのかがわからない。昨日と同じように喋っているんです。多分、大幅に場面をカットしているんではなくて、少しずつセリフをつまんで喋って、時間を縮めたんだと思います。寄席の至芸を見た瞬間でした。

落語について、また過去の思い出等を書かせて頂いて、落語の世界に少しでも興味を持ってもらえるような記事を目指しております。もしよろしければサポートお願いいたします。