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お正月のお獅子

今年のお正月は真打になって初めてのお正月でした。僕のお正月は二つ目になってから数年してお獅子のお正月になっています。二つ目はお正月に寄席の出番がなく、かと言って売れっ子の師匠のようなホテルなどに呼ばれて新春寄席といった会の仕事もありません。

そこで僕なりに暇な正月をなんとか埋めようと考えたのがお獅子のお手伝いです。太神楽の芸人の皆様はお正月は主に浅草近辺のお店やお寺などを廻ってお獅子によるお祓いをしています。いわゆる軒付けというやつで、昔はお獅子に限らずこういった軒下で何か芸事やお祓いをするってのがあったんですね。

そもそも太神楽の本分はこの神事、お祓いですから、ある意味これが本業の方でしょうね。寄席では正月以外は曲芸しかやらないので、お客様は曲芸師としか認識してないかもしれませんが、あくまでも太神楽曲芸師です。

そんな前置きは別として、このお獅子のお祓いは正月の数日間と節分に行われますが、僕はその内3、4日参加しています。

僕がやるのは太鼓で、肩に掛けた大太鼓と小太鼓をずーっと叩いています。寒い日も暖かい日も雪の日も。ずーっと叩いています。このお獅子の良いところは明確に二つあって、一つはお客様の反応を間近で感じられること。落語はお客様との対話とは言いますが、慣れてくると一人喋りになっちゃいます。それをもう一度、原点に戻らせてくれるのがこのお獅子周りです。今年はお客様の反応がかなり良かったです。

コロナや不景気はどこ吹く風って感じの良いお客様でした。

そしてもう一つこのお獅子周りで良いことが、人間の根本である「働いてお金を得る」という感覚を取り戻してくれるところです。

落語って体力を使いません。頭は使いますけど。

精神的には疲れますが、肉体的な労働力ってのはあまり必要じゃないんですね。それでいて、一席喋るといっぱいお金を貰えたりすることもある。だけどそんな時にふと立ち止まるんです。「たった15分喋ってこんなにもらって良いのかなあ」って。

ところがこのお獅子を手伝うと本当に身体が辛くて、疲れるんですけど、その結果お金を頂いた時になんとも形容し難いくらいに嬉しいんですよね。

そんな経験を一年の初めにしておくと、その年にどんな困難な仕事が舞い込んで来ても、驚かない身体ができあがります。どんな過酷な現場(例えばお客様が全然笑ってくれない)に出会しても「内町(お獅子)より寒くないしな、お客さんも酔ってないしな」なんて思って乗り越えることが出来るのです。

38歳になった今、達成感と疲労感がせめぎ合う年齢になりましたが、やっぱりこのお獅子は欠かせない存在となっています。というわけで、来年も参加したいと思います。

とは言え、落語家でこの行事に参加してくれる後輩がもっと増えると良いですね。

落語について、また過去の思い出等を書かせて頂いて、落語の世界に少しでも興味を持ってもらえるような記事を目指しております。もしよろしければサポートお願いいたします。