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〔小説〕朝起きたらアザラシになっていた

朝に目を覚ますが体を起こせない。どうあがいても頭から体を起こすことができない。体を左右に転がして布団から脱出。

スマホに手を伸ばすが手は届かない。毛だらけのヒレが伸びる。ヒレでスマートフォンを掴む。

画面に表示される日付と時間は土曜の朝だ。今朝は撮影で早く出かける予定があるからと昨晩は早寝した。が、その間に自身に異常事態が起こっている。まずは俺自身の異常を確かめなければ。

スマホのミラー機能で俺を見て(・ω・っ)З(アザラシ)であることに気づく。

アザラシ005


しながわ水族館で見た顔だ。白目のない真っ黒な瞳。モッサモサの体毛。ピンと張った針金のようなヒゲ。人間だった俺の面影はない。
「カフカの『変身』かよ!」
思わず俺自身に突っ込みを入れる。

夢をまだ見ているのだろう。でも、どうしても行かなくてはならない用事があるので財布とスマートフォンを毛だらけのヒレで掴んで、お腹のたるみをポケット代わりに仕舞う。
俺のヒレは未来から来たネコ型ロボットの手よろしく万能らしい。

アザラシ007

(・ω・っ)Зだから這って移動する。こんな経験はうつ病で這って用を足しに行った時以来だ。(・ω・っ)Зなので左右側面の視野が広い。床を這っているので床にこぼしたままの調味料が気になる。後で使い残したキッチン用クイックルワイパーを使って掃除しよう。
尿意がある。ユニットバスのドアノブは頭上のはるか上だ。しかし、昨晩の入浴後、室内を早く乾燥させようとドアを半開きにしたのが不幸中の幸いだった。洋式便器にまたがることができないので床に尿を垂れ流す。水で流したかったが蛇口もシャワーヘッドも届かない。

この理不尽な展開は夢だ。さもなくば人為的、自然的に幻覚を体感しているに違いない。
カフカの原作よろしく人が起こしに来る。隣人が来た。

隣人が来たので声を発してからドアへ向かう。チェーンロックにヒレが届かないので玄関わきに立てかけてある脚立をヒレで組み立ててから乗って外す。

隣人は俺の姿を見るなり
「また食っちゃ寝を繰り返してるといつかトドみたいになるよ」
などと失礼なことをいう。…というか、俺の姿に違和感を抱いていない。

隣人を家に上げたあと姿見に映る俺を見て(・ω・っ)Зであることをより強く再認識。

インド製ジェネリック薬品の恐るべき実態 - ワールド - 最新記事 - ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト_ - www.newsweekjapan.jp

原因は寝る前に飲んだドデカミンか?ほかの飲食物のせいなのか?変な薬物のせい?処方されたジェネリック医薬品を服用しているのだが、ジェネリック医薬品の生産国では異物混入ニュースも多々あってそのせいか?特に原因は思い当たらない。

(・ω・っ)Зとして外出。地を這うので部屋が1階で良かった。自転車を運転できないので起こしに来た隣人にお願いして自転車後方の荷台に乗せてもらう。落ちるといけないのでフック付きロープを使い自分で体を荷台に固定する。

最寄り駅に到着した。目的地へ向かうべく駅から自動改札にICカードを当てる。…が届かない。隣人の手助けを借り自動改札を抜けてからエレベータに乗ってホームへ移動。
朝7時半の山手線はコロナのせいで前より空いているといえども窮屈で立つ場所もないから座席で寝る。

アザラシが網棚03

(・ω・っ)Зだから立つことができない。
(・ω・っ)Зだから横に場所をとって迷惑がられる
(・ω・っ)Зだから乗客が神輿をワッショイ持ち上げるように俺を網棚へ

網棚で横になって寝る山手線はなかなか快適だが、降りるときにまた人に頼んで下ろしてもらうのが申し訳なく感じる。

ここまで隣人も他人も違和感なく(・ω・っ)Зな俺に接している。
違法薬物の幻覚作用のせいか?それとも白昼夢なのか?
違法薬物は脳へのダメージが大きいから後者であることを願う。
電車に揺られながら幻覚かどうか判別する方法を考える。

俺自身をスマホで撮影して、その写真で判別しよう。とは思ったものの、昔から自分を撮るのが嫌いだ。
不細工でもないしコンプレックスもこれといって意識しない。でも、写真は幼少期から嫌い。未だにその理由はわからない。多分、感覚的なものであって理由はないのだろう。
俺自身を撮影するのはやめた。

アザラシ006 朝定食

朝食を食ってないので牛丼屋へ寄って腹ごしらえをする。
(・ω・っ)Зなので嗅覚は少し敏感になっている。そのせいで余計に腹がすく。
納豆定食を食べるが全身に生える体毛のせいで口の周りが納豆まみれ。歯磨きしていないことにも気づき、これからはどうやって歯を磨こうか思索しながら朝食を済ます。

(・ω・っ)ЗとはいえUの字カウンターのテーブルに体を載せてからの犬食いはお行費が悪いので他にいい食べ方がないかも思案しつつも箸を使って食べる。
(・ω・っ)Зなのに箸が使える不思議さと動物がねぎや調味料を口にしても大丈夫なのかと不安を抱くも空腹に耐えかねて、ねぎも調味料もお箸で口に運んで食べ終わると会計を済ませた。

Tカード

(・ω・っ)Зだけどポイントカードは忘れない。クーポンも忘れずもらってゆく。

腹が満たされたおかげで考える余裕もできた。まずはネタを仕入れた、もしくは聞いたとき使用する録音機のICレコーダーで録音した音声を聞けば声が(・ω・っ)Зか人間かの判別はできるだろう。

人間が動物と違うのは二足歩行したときに肺から口への気道がL字型になったことにより言語を操るようになった事だ。(・ω・っ)Зの構造から人語を操るのは無理に等しい。

いま体感している、この現状をICレコーダーはないのでスマートフォンの録音アプリを起動させて語る。
録音を終えて再生する音声はいつもの舌っ足らずな俺の声。

俺だけでなく第三者の客観的な意見が欲しい。いまそばにいる隣人は第三者とは言いづらいが聞かせる。感想を聞くと「マイクテスト?」と逆に尋ねられ、俺の声と認識しているのは理解できた。

参ったな俺は死ぬまで(・ω・っ)Зとして生活するのか。

ニーチェ

ニーチェの思想に「永劫回帰(えいごうかいき)」と「超人」がある。
俺なりに解釈すると今生きている世界に意味も目的もない。しかし、これも人生だと受け入れてその現状や運命を前向きに生きる人が「超人」だとされている。

俺はニーチェの言う「超人」ではないけれど(・ω・っ)Зとしての現状を受け入れて肯定的に生きると決意した。

(・ω・っ)Зなので「超人」ではない「超アザラシ」なのだ。

ここまでは前振りということにして、これからの(・ω・っ)Зライフを本編にしよう。
俺の中でタイトルコールするならば

「転生したら(・ω・っ)Зだった件」
…パクりだし、その前に異世界じゃない。新海誠のアニメでおなじみの新宿近辺だ。

「俺は海豹、海のパンサー」
アイヌ人に棒で叩かれて鍋にされる展開なのでやめよう。

「野獣先輩」
本物の野獣だけど、このタイトルは嫌だ。

古典文学へのリスペクトも込めて
「アタックオブ蟹光線 北海道危機一髪!」
気に入ってはいるけど俺は蟹じゃない。今の俺に小林多喜二要素はない。

タイトルは後にして(・ω・っ)Зライフをどう送っていくか考えながらヒレでスマートフォンを操作して動画アプリを起動する。

話の出だしは昔のライトノベルではお約束の
「俺はどこにでもいるごく普通の高校生だ」
で始めよう。

違う。
「俺はどこにでもいるごく普通の中年男だ」

もとい
「俺はどこにでもいるごく普通のアザラシだ」
よし、訂正できた。

どこにでもいる(・ω・っ)Зな俺は動画サイトに再生されるシャンプーの広告を見て、俺はシャンプーとボディーシャンプーとコンディショナーをどう使い分けるべきか、(・ω・っ)Зはどこまでが髪の毛か考える。

体毛という言葉もあるので全身を体毛と定義してその都度、使い分けることにする。

地面を這って歩くのが面倒だから家電量販店によってキックスケーターを購入。尾びれで地面を蹴ってスケーターを走らせる。少しマシになった。

ヨドバシ カード

(・ω・っ)Зだけどポイントカードは忘れない。保証書にもなるのでレシートも忘れずもらってゆく。

しまった!大事なことを忘れていた!マスクを着けていない!!

つづく。


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