ワタリウム

ワタリウム美術館 アートクーリエ塾

見た目がどんなに変テコなものでもガーッっと飲み込んで消化しまう強力な胃袋をもつ和多利浩一さんと、理知的な和多利恵津子さん(それぞれが、1972年から現代アートをここで発信してきた和多利志津子さんのいいところを受け継いでおられる。)、このお二人とキュレーターの森さんを中心に、アートクーリエ塾が進められる。1日目(2015年6月13日)は主な展示の説明から。

【ヨーゼフ・ボイス】1921—1986。ドイツ。第2次世界大戦に従軍。1943年に乗っていた爆撃機が撃墜され、クリミア地方に落下したとき、原住民が身体に油を塗ってくれ、フェルトで包んで保温し、命を救った。その経験からボイスは、脂肪やフェルト、そして東にも原点を持っている。社会全体をマネジメントしていく社会彫刻を提唱し、82年、ドクメンタ7(ドイツのカッセルで5年に一度開催される国際現代アート展)では、7000本の樫の木を植える壮大なプロジェクトを始めた。7000本目は、87年、ドクメンタ8の幕開けのとき、ボイス夫人によって植えられた。

展示されているボイスのフェルトのスーツについて。          1972年、ドクメンタ5のとき、フェルトのスーツをマルチプルとして100着つくった。ボイスにとってはフェルトは温度、音、モノとものを遮断するものだった。ドクメンタ6で「ハニーポンプ」をインスタレーションとして発表。そのときも、このスーツでパフォーマンスしている。82年ワタリウムで「第1回ボイス展」を開催するとき「自分はいけないから代わりに」といって、和多利恵美子にプレゼントしてくれたのが、このスーツ。3tエディションの写真もある。ゴム3tをつかって版画をつくり展示したもの。

【ナム・ジュン・パイク】1932—2006。韓国。56年東大美術史学科卒業。ミュンヘンで音楽修業。ワタリウムとのつきあいは、77年ドクメンタ6の「TVガーデン」から。ヨーゼフ・ボイス、ジョン・ケージなどともつなげてくれた。恵美子さんは、東洋のミステリアスや考え方、伝統などを欧米につなげた功績についても言及された。時代と世界をつなぐ人だった。TVガーデンは、真っ暗な闇の会場を手探りしながら進んでいくと、その足下の草木の間から、何百台もテレビが顔をだしている。そこから一斉に映像と音楽がながれ、夢のシンフォニーだった、と和多利志津子が記述している。

展示されているパイクのビデオ・インスタレーションについて。      パイクの作品は早送りしながら、限りなくたくさんの画像をいれて飽きさせない。いつも「ビデオアートはなんてつまらないんだ。」といっていた。10台程度の画像と全体のしつらえは、東から西に向かう3つの道—シルクロード、山の道、海の道で手に入れたもの。延々とつづくシルクロードの画像から、終わりのない乾いた土地で、群れて生活し生産する人々の姿が立ち上がってくる。

【キース・ヘリング】1958—1990。アメリカ。若くしてエイズで亡くなる。ニューヨークの地下鉄の広告スペースは広告がないときは、黒い紙がでていた。それにキースが落書きする。2連で空いていれば2連で。警備員に捕まらないように素早く描く。83年キースが24才のときワタリウムで個展を開く。もちろん日本初、キースにとっても初めての海外。彼の人気が爆発する直前のタイミングだった。

キースはサイズ感がすごい。ワタリウムの向かいの建物の壁画は、何も下書きをせず、2日間で一気に書き上げた。石膏デッサン用の頭部や人体に蛍光塗料を塗って描いた作品は、初期のものとして貴重で、首の長い蛇など様々なモチーフが見える。

中国の作家たち【ワン・ジン】中国では石に力が宿るとされる。作品は拾ってきた石と観客の持っているものの「物々交換」。展示してある石は、当時浩一さんの3才の娘がオモチャと交換した石。【リン・ティアンミャオ】身の回りの日用品が糸でグルグル巻きにされた作品。当時現代アーティストは政治犯の一歩手前のようにマークされていた。言いたいことが言えない、押し込められている中国の状況を表現したもの。(本人はそういわなかったが)【ジャン・ホアン】若い時は、とにかくこれ以上できないところまで、ブッ飛んでみろ、といっているようなアーティスト。現在は中国で大成功して、各地寺院で採取した灰で10m×25mのコンクリート板に描いた絵が、体育館のような大きな建物内でブリッジの上からみるように展示されている。【ホアン・ヨン・ピン】初め、ワタリウムの両サイドの小さな吹き抜け部分に中国包丁で梯子段をつくり、4階展示スペースでつなぎたい、と構想した。吹き抜けは美術館入り口の真上にあるため、危険すぎた。4階で30m超の包丁の階段を展示した。

一日目の説明はこのあたりまで。2日めは、10数名の参加者の興味があるアーティストを中心に話しが進む。私が挙げたアーティストは、一番はジョン・ケージ、2番目は、ルドルフ・シュタイナー、バックミンスター・フラー、クリスト、3番目は、南方熊楠、ダライ・ラマ。次からの5回が楽しみである。





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