ロイス_ワインバーガー

ロイス・ワインバーガーが表現する植物力

ワタリウム美術館(~2019年10月20日)「見える自然/見えない自然 ロイス・ワインバーガー展」から外にでると、道端の草の生命力が立ち、手入れされた緑よりも輝いて見えた。ワインバーガーのアートに触れて、雑草という区分が私の中からなくなり、生き生きとしたそしてダイナミックな植物の世界を見ることができた。ワインバーガーの植物アートを5つのキーワードでとらえてみた。

【リアルな多様性が育つ庭】1947年オーストリア、チロル地方の山間部で生まれたワインバーガーがつくる庭は、排他ではなく「日本の植物と、東ヨーロッパ、あるいは南ヨーロッパ、中央ヨーロッパの植物と共存するような存在に」なるように発展していく。漠然と「多様性」と呼ぶ何かに、生きて育っていくリアルな多様性の形を与えてくれる。【植物の越えていく力/移民の移住】1997年のドクメンタX(ドイツ、カッセル)では、カッセル中央駅の古い鉄道線路100mにヨーロッパ南部・南東部からの外来種を植えた。「現代に移民の移住過程の比喩と考えたのです・・・他者、領地、ナショナリズムとの取り組みが、私の政策にはつねに含まれています。」作品のタイトルは「植物を越えるものは植物と一体である」。植物から越えていく力を感じるとき、自然の一部になれるという意味だろうか。【撒かれている除草剤を取り除く】雑草駆除のためにまかれた除草剤を丁寧に取り除き、荒地植物を植え付けて庭にかえたプロジェクト。「我々の社会が撒き続けている除草剤の正体は何だろう?」と考えさせられる。例えば日本の入社試験。会社の土壌になじみ会社のコンセプトを活かせる人材を採用するため、同じカラーの人が集まる。【雑草という区別を揺るがす】リボーンアート・フェスティバル2019(宮城県石巻市網地島エリア | キュレーター:和多利恵津子・和多利浩一)では、詩を展示した。この詩では英語の人称代名詞「私・あなた・彼・彼女・それ・わたしたち・あなたたち・彼ら」に、英語で「雑草」を意味する「weed」がそれぞれ対応しています。「weed」を別の意味にも取れるようですし、「私/あなた/彼……は雑草である」というようにも読めます、と解説にある。雑草という区分に人間の傲慢さを感じる。【荒地植物】ワインバーガーの「見えない自然」はここにある。「人間が作り上げた枠組みを脅かすもの、誰も見向きをしない存在」から、アスファルトの隙間を拡げ、境界を越え、人間の干渉を入れずに生育する高い生命力を私たちに提示する。

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