奈良原一高、長い物語を読んだ後のような自問自答を呼び覚ます写真展

2014年11月30日

奈良原一高の写真展「王国」と「人間の土地」両方を東京都国立近代美術館で見る機会に恵まれた。

20代の奈良原がインスピレーションを得て、社会から隔離された場所を1950年代に映しとったものである。「王国」で映し出されたのは、北海道当別のトラピスト寺院。全て神とともにあり、心の中にもプライベートがない。靴でさえ、自分の足型で木を削りだしてつくる自給自足。足音と聖書をめくる音と祈りの世界。しかし、心は神の世界にむかって開かれており自由である。規則正しい日課の中でただ一つの選択肢をその自由な心で主体的に選び取っている。若い奈良原は「屈折した心理の時間と空間を求めて」と書いているが、ファインダーの彼の視線を感じつつも、写真そのものの力によって修道僧たちのいくつものストーリーが湧き上がる。

「人間の土地」では長崎市沖の炭鉱採掘の人工島、軍艦島を切り取っている。「軍艦島」の名前の由来は、煙をはいている遠景の姿からの連想だけでなく、限られた空間の中で全てがそろい、閉鎖空間で働き、生計と生死を共にする強い共同体の姿でもあることが写真から伝わってくる。高台の神社からも意識を共有するため、そこに立ち上がった様々な営みが想像される。

振り返って、我々は多様な選択肢から選べる自由をもっているはずなのにどれだけ主体的に選び取っているだろうか。奈良原の写真は長い物語を読んだ後のように自問自答を呼び覚ます。

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