石田尚志、どこまでも描き続けたいという遊びのような衝動が生む希有な作品

2015年5月4日

画家で映像作家の石田尚志の初めての大規模な個展「渦まく光」が横浜美術館で開催されている。身体の中から音楽のように湧き出る「フレームを超えてどこまでも描き続けたい、という欲望」が、絵をスピードをもって描き進めながらコマ単位で撮影する「ドローイング・アニメーション」という手法を生み出した。

10,000枚の絵をコマ撮りして19分間の作品をつくるのに数年間かかったという映像作品「フーガの技法」をみた。音楽が自分の頭の中で映像化された、という印象がのこる。J.S.バッハのフーガの技法がら3曲選び、「音楽をスケッチするようにひたすら作画し、たくさんのパターンをつくった上で、多重な構造をもつフーガを、初見で演奏するように即興で動画を重ね合わせ、撮影していった。ある意味ドキュメンタリーのようなものかも知れません。」とインタビューに応えている。また石田尚志を動かしているのは、極めてプリミティブな衝動であることが、次の記述からわかる。「音楽を忠実に映像に変換するためというより、自分の欲望に直結する何か、形をもつ以前の、遊びのような衝動、できたものを自分自身が見て踊り、踊ることでできる自分の手の影の軌跡がつくる絵をみたいという衝動」が原動力と表現している。

私が一番好きな作品は、イギリスの港町のギャラリーからメールでよばれて制作したREFLECTION2009。1ヶ月のレジデンシーでは無理だろう、1年近くかかるかもしれない、と思ったけど行くことにした、というノンビリさも、さることながら、大きな窓や壁や床に映し出される陽射しをみて「その不安は消えた。すでにその部屋は美しい光によって描かれている最中だったからだ。僕はそれをなぞっていった。そしてアパートから海岸を歩いてギャラリーに通う、その時の音を最後に添えて作品にした。」

何の計算もない。子どものように移ろいをなぞり、数日間に渡って描き連ねたイメージの、いきている美しさ。

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