のば

人気の福祉事業所での1日ボランティア、言葉によらないコミュニケーション

通所してくる人が、一日中自由に生活できる人気の障害福祉サービス事業所arsnova(アルス・ノヴァ)が浜松にある。NPO法人クリエイティブサポートレッツが開設している。アルス・ノヴァの短いお盆休みの前日、気軽においでくださいという代表の久保田翠さんの言葉に甘えて、8月12日の9時~17時まで、1日だけのボランティアをさせていただいた。この時のことを書いておきたい。

理念「障害や国境、性差、年齢などあらゆる「ちがい」を乗り越えて、全ての人々が互いに理解し分かち合い共生できる寛容性のある社会づくりを行う。」について、「こういうことか・・・」と自分の中に実感の起点をもてたように思った。

初めにレッツのNさんが、アルス・ノヴァ全体を説明してくれた。「障害者をもった家族が社会にどうアプローチするか、その実験を久保田さんが始めたのが2000年、この拠点は2010年からで5年目。制度にのると制約が大きいとの反対の声もあったが、固定のスタッフ約20人(正社員半分)をもてたことは大きく(それまで3~4人)、申請登録され、ここに通ってこられる方約70名となっている。制度上は障害福祉サービス事業所だが、中身はたくさんの人たちにとって汎用性のある場所を目指している。重度の心身障害をもつたけし君が、一人でいられる場所、どんな人でも否定されないでつながっていける場所として「たけし文化センター」を2009年に町なかにつくった流れは、そのままアルス・ノヴァに引き継がれている。」

午前中はこどもクラスで、3階と屋上プール(一人用タブ7つと2人用パレット2つにホースの水を出しっぱなしでプールをつくる)、午後おとなクラスと「のヴぁ公民館」とスケジューリングをしていただいた。

【午前こどもクラス】小学生から高校生まで10人ほど、話せるこどものほうが少ない。体重は20kgから100kg。上下を貸してもらいプールに備える。

O君。小学校5~6年生ぐらい。こちらの手を引っ張って3階の部屋の壁際まで何度も往復しながら案内してくれる。話はできないが、そうしているうちに、こちらがどんな人なのか、チラッ、チラッと見るようになる。着替え、準備体操をして屋上へ。屋上でも太陽に焼けた床を手を引っ張ってくれ、長手方向に5~6回フェンス際まで連れて行ってくれる。壁に向って手をたたくゼスチャーは神様がいるよう。その内グルッと回れるようになってきた。

タブの中にはいって手と足をつかって水しぶきを上げ、太陽にキラキラと光る水の一粒一粒を目を見開いてみていた。ふいに昨日東京都現代美術館の常設展でみたガラスだまを天空にはりめぐらせた作品を思い出した。屋上の水たまりでバシャバシャすると緑の藻がとれで小さな円を描く。O君はそれも丁寧に見ている。ここでは、話ができなくても、水をかけ合いながら、あらゆるコミュニケーションをする。O君と広い空間で絵の具で遊びたいとおもった。

【午後おとなクラス】カラオケがすきなRさん。彼の仕事の補助を彼自身から頼まれた。RさんはA4の表裏いっぱいに文字を書き付ける。1日50ページ以上はかくだろう。その「翻訳」を頼まれる。「からおけ、あか、やきそばぱん。あんぱんまんまーち。ふたりはぷりきゅあ。」と復唱しながら紙をうめていく。これがRさんの仕事であることはすぐにわかった。私はフリガナをふり、そして仕事が完了したとう大きなマルを書いた。無駄なことばは一切ない。介助というのは、本来こういうものかもしれない。

2時ぐらいから2階で始まった音楽セッションに参加する。こどももおとなもいて、障害の重さ、年齢も全て異なり、気にならない。

あっという間にスタッフのドラムとダウンの子のエレクトーンで(彼女はレパートリーが10曲近くあると思う。)爆発する。ことばをまったく発することができないが、機嫌のいいアイコンタクトで迎えてくれる女の子(大学生ぐらい?)もマイクをにぎって、音にはならない声を発する。太鼓を叩いていた私に、小さな楽器をとどけてくれた。だれもが、もちろん重度心身障害のたけしが、全体のリズムに合わせて体を動かし、歌詞のないカラオケをし、毛布をひっぱりあって、ただただそこに寝そべり、ただただ小さなトランポリンに大仏のように座わり・・、年齢も性別も障害の程度も超えて、そしてスタッフであることも超えた何かが、立ち上げる。

【のヴぁ公民館】山森さんがEさんと、これから立ち上げる「のヴァTV」について打ち合わせ中だった。Eさんは、就労移行支援・就労継続支援B型で申請された利用者で、ほとんど社会復帰が可能な人だと山森さんからうかがった。山森さんがプロデューサー、Eさんと同じ利用者3人計4人が、身内に障害者を持たない人たちに向ってアウス・ノヴァを情報発信する番組を制作する。山森さんは、アルス・ノヴァで日常的にある笑いを撮りたい、と考えている。その笑いとは、単純なおかしさではなく、受容でもなく、もちろん警告や軽蔑ではない。山森さんたちが撮ろうとする笑いは、障害をみずから引き受けていく過程で、懸命に生きる姿に共感する笑いであろう。できる限界が直ぐきてしまう、できないことを飛ばしてしまうからツジツマがあわなくなる、彼だけの回路があって周りにはわからない、逆に表面に出ている回路が一つだけで、こだわっている様にみえる、そのとき自分が一番居心地がいいようにするので回りがびっくりするなど、誰でもが、隠し持っていて、理屈で説明できない、周りからみれば、ヘンテコに見えるかもしれないところに共感する笑いだ。それを引きこもりから復帰する人たちと一緒に撮影して発信することに、とてもワクワクした。

スタッフから感想を聞かれ、こども達が可愛くて・・といったが、内心は、知的障害者に対して「先入観をもっていることへの違和感」が、先入観も違和感も両方とも溶解して流れ出しているような感覚、自分のヘンテコなところをもっと良くみようという気持ち、ことばによるコミュニケーションをする私たちも全体からみれば、実は特殊な存在であるという、今までにない感覚が私の中に残っていた。

そしてラーメン部、という若手スタッフ6人ささやかな打ち上げに参加させていただき、レッツのゲストハウス(一泊1000円です。)に泊めて頂き、翌朝7時6分浜松発東海道線で岐阜に向った。岐阜市中央図書館ぎふメディアコスモスみんなのホールで開催している、アーティスト日比野克彦さんが企画監修する、障害者のアートを中心とする「みんなのアート・それぞれのらしさ」展を見るためである。.

正面の船の立体、竹で編んだ「みんなのアート」が目を引く。日比野さんは『アートの特性は「同じじゃない」という価値観をもっているところ。ひとつの答えを追い求めるのではなく、それぞれに魅力があるという思考がアートの基本理念と考えています』と打ち出している。

私は、「それぞれのらしさ」ということばに、何か足したいと思った。

障害とつきあいながら、自分のパートナーにしていく地道な努力の積み上げと、制約の中での集中力とそこでおこる創造は、それぞれのらしさを支える強い人間力、人間の底力を感じた。・・・「それぞれのらしさ、それを支える人間力、底力」と足してみる。

みずのき絵画教室の、小笹逸男さん、福村惣太夫さん、吉川敏明さんの群をぬいた表現力!。小笹さんの猫は日比野さんの解説どおり、猫のニオイや体温を感じ、福村さんの明るいグリーンと朱色の風景は、あたたかでそこでピクニックしたくなったし、吉川さんの強い炭で描かれた画面から、こちらに対峙して離さない強い視線を感じる。しょうぶ園のふたり、高田幸恵さんのドレス(着物)は、それで踊っている人が見えたし、濱田幹雄さんの絵は、ジャスバー・ジョーンズの迫力があった。

障害福祉サービス事業所arsnova(アルス・ノヴァ)のこどもたちもおとなも、「らしさ」というやさしい言葉を超えて誰もが強い個性を放っていた。音楽にのって、自らのなかにある強い制約を振り切ろうとしたとき、重度心身障害のたけしにも、きらめきがあった。「それぞれのらしさ」ということばに「それぞれのらしさ、きらめき」と加えたい。

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