見出し画像

ゲイが恋したい話

今日も一段と目が疲れた。朝からスマホのマッチングアプリを幾度となくスクロールしたからだ。

僕はゲイ。都会のはずれに住んでいて、出会いがあるような、ないような何とも言えないエリアだ。人付き合いは嫌いではないが、集団が苦手でゲイコミュニティにはなかなか入っていくことができない。

僕は焦っている。30半ば。ゲイ界隈では歳下からも歳上からも声が掛かる、一番脂の乗った楽しいはずのこの時期に恋人がいない。恋をしていない。

去年の夏、僕は数年付き合った彼氏と別れた。喧嘩したわけでもない、大きな決定打があったわけでもない。ただただ片道1〜2時間かかる互いの家の往復に疲れたのだ。

たかがそれだけかと思われるかもしれない。だが、結婚もない、親族の理解もない僕らの関係性は、今後これ以上に物理的距離を縮めるのは難しい。一生このままなんて嫌だ。僕はそう思って別れを決めた。

別れてからもうすぐ一年になる。あれからマッチングアプリを再登録し出会いを求めた。気になった人にアプローチし、片っ端から会った。

何度誰と会ってもピンと来なかった。よほど元彼のことが好きだったのか、何かが違うと感じ次へ進めなかった。数人は友達として今も付き合いを続けている。

人が好きであることは間違いない。1人は寂しい。それに反して、人が怖いと思うことも増えた。

仲良くなればなるほど、失うのが怖いのだ。相手の期待を裏切るのが怖いのだ。深入りできない。相手の生活の邪魔にはなりたくない。

歳をとったと思った。底なしのエネルギーでがむしゃらに走り続けた20代。そして30代。コロナ禍で体調を崩したこともあり、昔ほど無理が効かなくなった。そこそこでいい。失敗はしたくない。だんだん後がなくなってきた。

そんなことを思うようになってから、人付き合いも少なくなってきた。とにかく家に帰りたい。静かで自由気ままな自分の時間が恋しくなってきた。独り身の典型かもしれない。

心の中には、まだまだ恋をしたいという思いはある。どんなときも相手のことが頭から離れない感じ。週末のデートプランに心躍らす日々。特別な日でもないのに、何をプレゼントしようか思いを巡らす夜。

そんな日がまた訪れるのか。いい歳して舞い上がって、結果空回りしてフラれるのではないか。怖くて仕方がない。

今日のお昼ご飯に、とある中華チェーン店に入った。あいにくカウンター席が満席でテーブル席に案内された。

近くに座っている4人は家族だろうか。僕と同い年くらいの夫婦とどちらかの両親といったところだ。当たり前に見る、よくある光景。

僕にはきっとない。これからパートナーができても、両親を紹介して一緒に食事だなんてできっこない。こういう場面が僕は辛いのだ。自分の両親から見れば僕は一生独り身なのだ。

隣のテーブル席に40代くらいの夫婦が座った。昼から餃子を注文している。この後キスする予定もないのだろう。長く連れ添った落ち着いた関係。これも羨ましい限りだ。

帰り道、車を走らせていると子連れの家族がいた。お父さんが子供を抱き抱え、お母さんが微笑んでいる。そんな光景を見ると、僕は自分をお父さんに重ねることがある。

子供も育てたかった。当たり前のように女性と肩を並べ、無邪気な子供を見ては笑みを浮かべる。そんな暮らしは、今でも想像しては消しての繰り返しだ。

時間を戻すことはできない。過去の言動を消し去ることもできない。過去に戻れないからこそ、人生で一番若いのは今なんだ。

歳を重ねたからといって、自分から夢を諦めるなんて愚かではある。歳を重ねたからといって、恋愛から遠のくなんてこともない。失敗だってしてもいい。相手を傷つけてしまうことだってあるかもしれない。でも、人生で一番若い今、やりたいことをやらないでどうする。

僕は焦っている。

今すぐにでもパートナーを見つけ、自分は幸せだと言いたがっている。インスタントラーメンでもあるまいし。

だが、今日のお昼ご飯に見た、両親と食事する夫婦や、昼から餃子を食べる40代の夫婦、子連れの家族は、生き急いでできたものではないことは確かだ。きっと何度もデートを重ねて、デート以上に喧嘩をして、喧嘩以上に理解し合った結果なんだと思う。

今日は目が疲れた。出会いの頼みの綱、マッチングアプリのスクロール。何人かとイイネを送り合って、メッセージをした。なんとなく雰囲気がいいと恋に発展するのではと淡い期待を抱いてしまう。

でもいい。少し生き急ぐかもしれない。空回りするかもしれない。相手に引かれて嫌われるかもしれない。それでも、そうやって傷ついて、理解して、また一つ何か得られるものがあるかもしれない。

お互いのそんな思いがピタッとはまったら付き合えるかもしれない。それが何年後かに、昼間っから餃子を食べているかもしれない。ひょんなことから相手の両親には会えるかもしれない。

ゲイってのはちょっと異様かもしれない。出会いの形、世間体、家族の在り方。普通ではないかもしれない。でも僕はそんな生きづらさを生きていく。

恋がしたい。

フラれてもめげない。

ブルゾンちえみの言う「35億♡」が心の処方箋だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?