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あたしはコンクリートに叩き付けられてチョコレートパフェみたいにぐちゃぐちゃになったひとの言葉を信じる

僕は外食する時にそのお店にチョコレートパフェがあれば必ず注文しなければいけないという掟がある。これは絶対だ。しかもサンデーやパルフェといった似たような奴も含む。

大学入りたての頃はファミレスでよく夕飯を食べていたが毎回チョコパフェを食べるのがキツすぎて自炊を始めた。今はチョコパフェをコントロールしながら食べているのでちゃんと美味しいと思いながら食べている。良かった良かった。

僕は高校2年生の時に「トランストランスフォーエバー」という本を読んだ。著者は櫻井まゆさん。この方は18歳で自ら命を取り去ることを選んだ。生前pcに残していた11話の短編小説を家族が自費出版することによってこの本は出たようだ。

衝撃的だった。内容がどうというよりかは登場人物の行動や話すことから櫻井さんの思想や生きることへの思いがひしひしと伝わってきて、そこに痺れた。この人は命を削りながら文章を書いていると思った。

ある1つの話でこんなのがあった。カップルが喫茶店でショートケーキを食べているシーンで彼氏が

「苺から食べなきゃダメだ三秒後のことは誰にも分からない。トラックが突っ込んでくるかもしれない」みたいなことを言っていた。彼女はその時は気にとめてなかったけど、彼氏が亡くなってからは彼氏の言葉は正しかったと思うようになった。

『ショートケーキで一番先に食べるのは、苺。フルーツポンチなら、白玉→フルーツ→寒天→みつ豆。チョコレートパフェは全部好きだからスプーンでぐちゃぐちゃに混ぜてから一気に食べる。それが一番ただしい食べ方ということを、この国で一体何人が知っているというのだろう。教えてくれたのは、ヒロくん。昔の恋人。さらさらの黒い髪と茶色い綺麗な瞳がとても似合っていたひと。』

『完璧にただしいことを言うのはヒロくんだけだ。ヒロくんの言葉はすべてただしかった。そのことに気付いたのは、ずいぶんあとになってからだけど。どんな本に書いてあることよりも、わたしはコンクリートに叩き付けられてチョコレートパフェみたいにぐちゃぐちゃになったひとの言葉を信じる。そういう言葉じゃないと信じられない。おまえもいっぺんパフェになってから言ってみろ!偽善ぶって自分の意見を押し付けてくるやつには、そう言ってやることにしている。』

僕も亡くなった人やもう離ればなれになっちゃった人たちの言葉は何気ないことでもたまに思い出したり大切にしている。僕は忘れっぽいから定期的に思い出さないと忘れてしまう。
人との思い出を忘れるのは怖い。楽しかったことも嫌なことされたことも全部なかったことみたいになる。だんだんとその人たちのことがどうでもよくなってしまう。忘れるのは怖い。忘れてしまう自分を薄情な奴だと思う。そう思ってても忘れてしまう。忘れることは悪いことではない、新しいことを始めるには忘れることも必要だと思う。でも忘れるのは怖い。そんな感じだ。

僕は櫻井さんの言葉が書くことにしがみついて生きていたようなあの小説を忘れるのが怖いし、この世の中から忘れ去られていくのはすごく残念だ。だから、僕はチョコパフェをぐちゃぐちゃにして食べる。自分自身が忘れないように、他の人が見てキモい食べ方するねって言われたときに櫻井さんのことが言えるように。さすがにしょぼい喫茶店ではぐちゃぐちゃにしなかったけど。

小説に出てきた女の子みたいに僕はヒロくんの考えを正しいとは思えないけど、その女の子みたいに僕は櫻井さんのことを忘れずにこれからもチョコパフェを食べていきたい。

けど、毎度毎度好きになった女の子にトランストランスフォーエバーをプレゼントしたりオススメするのはダサいからもうやめようと思う。画像は感想とととも描いてもらった絵

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