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【人怖】裏ページ

〈第十八話〉

私が中学2年生の時のお話です。

当時はまだ、パソコンが一般家庭にやっと普及したばかりで、インターネットも電話回線で繋ぐダイヤルアップ接続でした。

お若い方は、イメージが湧きにくいお話かもしれませんが……できるだけ詳しく書いていきたいと思います。

中学2年生の私は、いわゆる厨二病にかかっていました。インターネットにどっぷりとハマり、色んな情報を仕入れては悦に入っていたものです。

パソコンができる自分に酔いしれて、無駄にチャットをしたり、お絵かき掲示板(しぃお絵かき掲示板わかる人いるかなぁ。)で絵を描いたり。
タイピングの技術はその頃に磨かれて、今では周りから喋るより早いと驚かれるほどです。

そして、当時は個人ホームページが流行した時分でした。
流行に乗ってホームページを作る同級生に憧れ、自分でも今で言うブログ的なものを作ったりしていました。

あの時代のホームページは、今までに訪れた人の人数がカウントされるアクセスカウンターがあって、このページに訪れた〇〇人目ですっていうのがわかったんですよね。延べ人数ですけれど。

〇〇人目が、100とか1000とかキリの良い人数だと〈キリ番〉と言って、踏んだ人はサイト管理人に掲示板(BBS)で報告するのが暗黙の了解でした。
〈キリ番踏み逃げ禁止!〉の意味がわかる方は同世代かもしれません。
〈キリ番〉を掲示板に報告すると、サイト管理人から自作のイラストや小説をもらえたりして、嬉しかったなぁ……懐かしいです。

さて、本題に入ります。

当時私には、お気に入りのホームページがいくつかありました。その中の一つに、読んだ本の感想文と共にグロいイラストを載せているものがあり、私はそのホームページの更新をとても楽しみにしていました。

なにぶん絶賛厨二病だったもので、ダークなイメージに惹かれる傾向がありました。本の感想文に添えられる禍々しいグロイラストが大好きだったのです。

釘があたまに刺さった男の子のイラストや、血まみれで俯く女の子のイラスト……1番覚えているのは、自分の生首を大事そうに抱えて佇む首なしの男の子です。

読み応えある本の感想文と共に添えられるそのイラストには、描かれた人物の名前もついていました。「泣き虫あきお」「性悪ひなこ」など、ネガティブなものが多かったと思います。確か生首の男の子は、「失踪りょうた」だったはずです。

ある日、同じく厨二病の友人から「裏ページの探し方」を教えてもらいました。

個人ホームページには隠しリンクがあるものも多く、18禁のものなどは「裏ページを探してください。ヒント:タイトルのどこか。」など書かれていました。好きなサイトで裏ページがあるとわかると、血眼になって隠しリンクを探したものです。

そんな裏ページが、Tabキーを押すことによって簡単に見つけられると教えられた私は大興奮でした。色んなホームページで裏ページを探しては、悦に入ってニヤニヤしていました。

そして、あのお気に入りのホームページでも、裏ページを見つけてしまったのです。

(裏ページがあるってどこにも書いてなかったけど、ヤッター!隠しリンク発見!)

ホームページの目立たないところに「.(ピリオド)」が打たれていて、そこに裏ページのリンクが貼られていたのです。

私は、大興奮でそのピリオドをクリックしましました。

(きっと、グロ過ぎて載せられなかったイラスト集でもあるのだろう。)そう思っていた私の目に飛び込んできたのは。 

「何これ……?アクセス、カウンター?」

真っ赤な背景のど真ん中に、それはありました。

【あなたは21番目の素材です。】

そう、小さく書かれているのを見て、心臓がバクバクしました。

酷く嫌な予感がしましたが、(なるほど。裏ページを見た人の人数をカウントしてるのか。)と、納得する方向に思考を転換した時です。

急に画面が切り替わり、簡素なチャットページに飛ばされました。慌てて消そうとしましたが、どういうことか全く消えません。
(まずい!バグった……Shift、Alt、Delete長押しで強制終了!!)
混乱しながらも、必死で消しにかかりました。

『質問に答えたら戻します。』

チャットページに突然そう書かれたのを見て、私は目を見開きました。

『お名前は?』

淡々と問う文字には、迫力がありました。
どういう仕組みかわかりませんが、どうやらこれは全てホームページの管理人の仕業であると理解しました。
答えないと何をされるかわからないと思わせる怖さを感じて、私は返事を書き込むことにしました。

『好きな本のタイトルは?』

『その本のあらすじは?』

『あなたの特徴を教えて』

『好きなこと、嫌いなことを教えて』

次々と問われる項目に答えていきますが、頭をフル稼働させて、全て嘘をつきました。

特に好きな本については、タイトル含め、本当にそんな話があると思わせるようなよくできた嘘をつきました。

段々と緊張がほぐれて怖さが和らいできた時。

突然、



『お前は気に入ったから焼き殺すね。』

赤文字で書き込まれて、チャットから追い出されました。
あまりの迫力に涙が出そうになったのを覚えています。

それ以降、裏ページを見るのがすっかり怖くなり、厨二病も終わりを迎え始め……。しばらく経ってから、そういえばあのお気に入りだったホームページは、どうなったかなと急に気になってアクセスしました。

変わらないトップページが目に入り、読書感想のページへ。

そこでようやく、鈍い私は気が付きました。

「これ、私だ……。」

焼き焦げた眼鏡の女の子のイラストに付けられた名前は、「嘘吐きみおこ」。紹介されている本は、私があの時チャットで答えた架空の本でした。

ということは、これらの読書感想文は全部……。


【あなたは21番目の素材です】

脳裏に浮かんだのは、あの真っ赤な背景と、アクセスカウンターでした。

それにしても、あのホームページの管理人は、何がしたかったのでしょうか。
今になって思うのは「泣き虫あきお」「性悪ひなこ」は、まだわかる気がするのですけれど、「失踪りょうた」って、あれ、どういう意味だったのかな……。

自分の生首を持って佇む少年。もし心当たりがあったら、連絡をください。素材にされた者同士、あの時の思い出でも語り合いましょう。

これは私の実話です。

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