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助手席ののおと(391文字)ショートショートnote杯

助手席には、僕の未来が浮き出るのおとがある。お爺ちゃんの遺品の中にあった魔法のようなノート。

表紙に自分の名前を書き込むと、毎年元旦にその年、自分に起きる出来事が日記のように浮き出るのだ。

ただし、わずか一日だけ表示され次の日には白紙になる。

僕は車で急ぐ。彼女のアパートに。だって、書いてあったんだ。1月2日、彼女から恋人という関係はやめようのメッセージがスマホに届いたって。

もう間に合わないかもしれない。別れを決断するのならおそらく何日も、何カ月も悩んでのことだから。

助手席を見る。そこにはいつも君の笑顔があった。
今は、別れを伝えるのおとがあるだけ。

別れのメッセージは明日。

なら、もう決断しているはず。もう望みはないのかもしれない。それでも、僕は運命に抗いたい。

彼女の部屋についた。

彼女は言った。

「一年の計は元旦にありって言うでしょ。もう決めたの。結婚しよ」

僕たちは、婚約者になった。

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ショートショートnote杯開催時に、田丸先生に講師になっていただき、オンラインイベントがありました。
これはその時にきっちり7分はかって書いたもので田丸先生に読んでいただき褒めていただいたものです。twitterで、田丸先生が、「助手席にある未来が浮き出るノート」と言っておられるのはこの作品です。


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