見出し画像

「Like a Rolling Stone」~~台東区・富久の湯

廃業閉業ラッシュがやまぬ銭湯業界。
建物の老朽化,燃料価格の高騰など要因は数あれど,
根本原因は後継者難。
基本的に家業(ファミリービジネス)として成立している業界だけに,
子どもたちが引き継いでくれないと終わってしまう。

台東区千束(せんぞく)「富久の湯」

店先に大きな幟がはためく

そこには大きく「ド素人銭湯運営物語」の文字。

漫画チックな絵柄だし,どんな若者が経営しているんだろう。
と,フロントには若者ならぬ,ナイスミドル。あれ?

気を取り直して男湯へ。
実はここは珍しく午前6時開業の「朝風呂」をやっている。
ボクのバイブル『東京銭湯お遍路マップ』には記載がない。
ちょいと前に「東京 銭湯 朝風呂」で検索したらここがヒットしたので,初訪湯に及んだ次第(2022年10月の訪湯です)。

さて,入ってみると,
そこは「昭和レトロ」ならぬ「純昭和」
脱衣所の内装,調度のすべてが昔のまんま。
ばねの台秤に,天井を回る三枚ばねの巨大扇風機。
ぶらさがり健康器具。
吉原花魁道中の額入り写真は,色あせ方からして昭和の撮影。

いざ,浴室へ。おっ!広いぞ!
カランの数は25と中規模。それなのにこの開放感。
そうだ,背と背の間が広い。
カランは両脇と中央の三列だけど,四列にしても問題ない。
(あとで若旦那が「昔は四列だったけれど,客が減ったので,改装して三列にしたんです」と教えてくれた)。

そして,天井が高い。天窓も大きい。
白のペンキを基調に紺色のラインでひきしめているのだけれど,
よく見ればあちこちはがれている。
窓もひびが入っている。

25のカランには25のシャワーがついているけれど,これが4種類もある。
1つずつ壊れては付け替えてを繰り返してきた歴史が読み取れる。
でも,そんなことは,この広々とした空間にあっては些細な話

正面のタイル絵は日本の湖。
手前岸に松の木。
帆掛け船が浮かぶ景色は琵琶湖か霞ケ浦を連想させる。
女湯との仕切りにもタイル絵。こちらはヨーロッパの湖風。
湖畔にそびえる古城,水面を走るヨット。
細かなタイルで色鮮やかに組み上げられている。

浴槽は浅めが2つ,深めが1つ。湯温はどれも同じでぬるめ。
体感40度(なぜか湯温計は44度)
朝風呂だからね,まだ温まり切っていないのでしょう。
ジェットバスも弱めで,背中をやさしくなでてくれる。
の~~んびりと見渡す。
蛍光灯の明かりがオレンジがかっているのが珍しい。

張り紙がいろいろ。
「クリームソーダ始めました。風呂上がりにピッタリ」(そうなの?)
「土曜日の早朝マラソン」(いいねぇ)

「たまごかけご飯×…」近隣のゲストハウスとのコラボ企画。
朝飯からの朝風呂いいなぁ。湯上りビールセットも欲しい。

(張り紙は店の表に貼ってあったものです)
アイディア企画が満載。
ここらが「ド素人銭湯運営」の真骨頂ですね。

そうか!とひらめく。
この浴室の広さ!「ハコ」の大きさ!
カランの列の間隔の広さ,
どれをとってもイベント会場にぴったりじゃないか。
大勢の集客,音響効果,抜群だ。

さていつもの1時間で湯上り。
ロビーのソファが「昭和の洋館」めいて座らずにはいわれない。

可愛い❤

中庭もいい。さて,いきますか。
入店時にフロント脇にある「そいつ」。
目に留まってから,1時間。
片時も頭の片隅から離れずにいた…「ビアサーバー」

ボクがその日の皮切りで,ナイスミドルな若旦那が調製してくれる。

この泡立ち,この色合い,よく冷えたジョッキ。

若旦那,お見事!

いただきます。プハァ~~
そこから若旦那とよもやま話
実は「三代目」
建物は60年物。「傷んじゃってねぇ」。
ソファほかの調度品は「いただきもの」。
タイル絵も60年間同じ。
「今はもう描ける人がいない。なるべく持たせていきたい」。
新宿にはよく似た細かいタイル絵,ヨーロッパの湖風の絵柄があると教えたら驚いていた。同じ時代に同じ作者が描かれたのだろうなぁ。
それこそ「文化財」として保存できないものだろうか。

照明がいいと褒めたら,嬉しそうに話が盛り上がった。
すべて若旦那の試行錯誤。
オレンジの蛍光灯は,ふつうの蛍光灯にフィルムを貼ったのだそうだ。
「今はLEDでどんな色も出せるんですけれど,電球とかのボンヤリとした感じは出せないんですよね」納得です。

最近,照明の専門家と話をして
「ライトの当て方ひとつでこんなに見え方が変わるんだって驚いたんですよ」まだまだ工夫していきたいそうだ。
「照明とか,そこまで見てくださる方は少ないんで,言っていただけて嬉しいです」
いやいやこちらこそ,
ド素人の感想に喜んでいただけるとはもったいないくらい。

ハコの大きさがイベント向きですねと話す。
でも,いいことばかりではないそうだ。
「大きすぎて音が出過ぎるんです。若い人がイベントをやるとついつい盛り上がりすぎて,ご近所とねぇ…途中でやめてもらったことも何度かあるんですよ。難しいですねぇ…」
でも,これからもイベント開催は続けていくそうです。

「富久の湯」さん,ありがとうございます。いいお湯でした。

「生みの苦しみ」「試行錯誤」って大変ですよね。
でも,それが楽しみでもある。
若旦那,これからも,いつまでも,
「ド素人」の発想で,銭湯業界を盛り上げてくださいね。

「Like a Rolling Stone !」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?