「QADAPについて」に対するコメント

QADAP(差別と権力に立ち向かうクィア有志)のホームページにある記事「QADAPについて」(http://qadap.org/)に対するコメント。

『典型的な日本在住者であれば、以下のわずかな質問で、多くのひとが差別者に振り分けられるでしょう。
• 基地のある街に住んでいますか?
• 原発のある街に住んでいますか?
• 黒人の知人は何人いますか?
差別者の大多数に、差別する意思はありません。基地や原発を押しつけたつもりもなければ、黒人を避けたつもりもありません。
では、次の質問はどうでしょうか。
• 性的マイノリティの知人はいますか?
この文章を読む多くの仲間は、この質問の意味がわかると思います。
「いないんじゃない。言わない、言えないだけだ」』

 差別する意思がなくとも差別である(差別は成立する)、という点は同意する。しかし、「黒人の知人は何人いますか?」という質問がこの文章の中で適切に機能しているかどうかには疑問がある。
 基地・原発の例は分かる。差別する意思がなくとも、受苦圏を特定の一地域に押し付けて受益圏(それ以外の地域)で生活する、ということは差別(不平等)構造への荷担と呼べるだろう。性的マイノリティの例も分かる。現在正確な統計データは取れていまいが、性的マイノリティは日本のあらゆるところに生きていると想定でき、性的マイノリティの知人がいないということは知人の誰からもカミングアウトされていないということであり、(そのことが直ちにその人が差別者であるということを論理的に意味するわけではないが、)その人が普段から性的マイノリティへの理解ある振る舞いをしている(差別荷担を避けよう・差別を解体しようとしている)とは考えにくい。ゆえに、その人の(自らの)「差別者性」を考える質問としては適当である。
 しかしながら、黒人は、性的マイノリティと異なり、日本のどの地域にも均等に在住しているわけではない。(黒人の日本在住地域分布データにアクセスできる人がもしいたら、正確な情報を提供していただければ有難い。)したがって、差別とは無関係な理由で、「暮らしてゆく中で黒人の知人が一人もいない」という人々はいる。*1「差別とは無関係な理由で、性的マイノリティの知人が一人もいない」という人よりも多いだろう。この場合、その人々が質問に答えたところで、黒人に対する差別者/非差別者に振り分けることはできない。*2このような人も「典型的な日本在住者」に含まれるとするならば、この質問によって「典型的な日本在住者」のうち「多くのひとが差別者に振り分けられる」と考える根拠は何なのか?あるいは、このような人は「典型的な日本在住者」ではない、と考えるのだろうか。だとすれば、「典型的な日本在住者」と見なされる人々はいったい日本人口のどれくらいの割合になるのか?(=それは「典型的な日本在住者」と言えるか?)その「典型的な日本在住者」とは、(黒人も比較的多く在住しているであろう)都市の在住者に偏ってはいないか?
 はたまた、「差別」の定義が私とカダップ(あるいは当該記事執筆者)とで異なるということも考えられる。それにより以上の私の記述にカダップから異議があれば、そこからまた考えることができる。

 また、私たちは自分の権力を①「適切に使う」べきなのか、②「手放す」べきなのか、あるいは、③手放すべき権力と手放さなくても良いが(手放せないが)適切に使うべき権力とがあるのか、という点が不明である。「権力」概念も「差別」概念と同様、定義が難しいし人によって採用する定義がまちまちであるが、カダップが「権力」概念をどう理解しているのか、というのは興味がある。というか、権力への「立ち向かい方」をどう考えているのかは、今後の活動にとって重要だろう。

*註1) あるいは、「(忌避とは無関係に)ただ暮らしてゆく中で黒人と知り合えない」ということに差別(構造)が無関係ではないのだ、とするのならば、その差別(構造)がどういうものなのかを示していただきたい。例えば、身体障碍者と街中で出会えないのは、その人のほうの忌避(だけ)ではなく、街の設計がバリアフリーになっていないために障碍者のほうが出かけない(出かけられない)ということも関係している可能性がある。そのように、制度や社会状況として黒人と出会えない(出会いにくい)ような差別(構造)が存在している、という論を立てることは(理論上は)可能である。

*註2) 黒人が自身の生活圏の地域に居なくても、SNS利用を通じて黒人と知りあうという経路があるにはあるが、日本のSNS利用率・利用状況などを考慮するに、そのような可能性を実行しなかったことと差別との関連性はかなり低いと考えて良いだろう。逆に、「黒人と友達になりたい」と考え、SNSで探し求めることは、動機によっては差別的と言える。

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