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工業製品基準と量販店基準に異を唱えてみた楽器。

シライキートというドラムセットについて、発売した時くらいしか、この楽器の話をしていなかった気がする。
オリジナルキートの販売期間があと1ヶ月なので、最後にちゃんと話をしようと思う。

「現在、主流とされるマルチマイクを前提としたドラムを「エレアコ」とした場合、アコースティックなドラムセットとは?というコンセプトで開発されたドラムセット。」

そういう書き出しのドラムセットを発表、発売した。

僕は、愛知県で楽器屋をしている。名古屋より浜松の方が近い位置にある豊橋市という場所だ。

豊橋駅前にはかなりの税金が投入され、なかなか上向きな雰囲気だが、私の店はそこからローカル線「豊橋鉄道渥美線」で7分くらい「南栄(みなみさかえ)」にある。「まわりに何も無い」と言われることもあるので、近所のおもしろいお店をピックアップしたりして「何もない事も無いし、ちょっと楽しいよ。」っていうのを紹介したりしながら、楽器店をしている。
が、同じ市内の人からしたら何も無いという認識の地域であろう。

実店舗では、ギターが主な商品だが、ドラムに特化したインターネット展開、SNSへの取り組みを早く行っていた事、そして、ドラマーが楽しめるイベント企画告知などSNSでたくさんしてきた結果、インターネットが大好きな全国のドラマーと仲良くなることが出来た。スマホの普及でインターネットが一般化してだれでもYouTubeを見ることになり、知名度はありがたいことに上がった。出会った人やSNSが広がった時期など本当にラッキーだった。

地方の楽器店でプロミュージシャンとの交流を持つのは、なかなか難しいのが現実だと思うが、幸運にも人を繋げるハブのような能力に長けた友人がいて。プロのミュージシャンや、ローディー、エンジニアの方と話をする機会が増え現場を見せてもらえた。

プロ現場で行われていることの中から、アマチュアでも活用できることを探し出して、オリジナル商品を作り、SNSで宣伝をする。そういう流れもできて来た中で「これはもうドラムセットも作れるんじゃないか?」という所まで来た。

「こんなドラムセットが作れたらいいな」という考えもあった。

それがタイトルの「工業製品基準と量販店基準に異を唱える」だ。
ドラムシェルという木の筒が真円に近いほど良いという「技術力のマーケティング」で、歪みやすい「薄くて柔らかい筒」の存在が許されなくなった。

販売基準が量販店基準になると、専門家が販売するわけでもないので、ユーザーの言うことしか聞けなくなる。専門家として「これはそういう楽器です。」と言い切れなくなる。

日本製のドラムは、響きがソリッドで頑丈なスタイルで、ヘヴィーメタルにはもってこいだったし、大ホールのショウにも向いていて、世界中で評価された。日本には「練習スタジオ」という防音ルーム+楽器レンタルシステムがありラリーカーの様に酷使される現場でドラムの耐久性は上がっていった。

使い方を誤って壊しても保証があると買い手は安心だ。しかし、そのためのコストを考えるほど楽器業界の利益率は高くなく、丈夫に作る事が必要になる。

ドラムを使った教育的にもロックが初心者の基準であり、ドラム=音が大きいというイメージを持っている人も多い。

繊細なドラムのサウンドが隅に追いやられた時期があるのだ。

しかし、世の中では「薄くて柔らかい筒」で出来たドラムは求められている。それを持っている古い楽器の人気も出てきた。ユーザーのニーズがあるのに、作れない。一度、頑丈にした楽器を柔らかくする事はとても難しい。

アコースティックギターの上に乗る人はいないと思う。しかし、バスドラムに脚をかける人は多いのだ。それで大丈夫というイメージが出来てしまった。一度頑丈にした結果、弱い方向に戻れなくなったのだ。

シライキートは、ふわふわの筒をドラムの皮の金枠とそれを止める金枠で留める。演奏上は問題ない強度だが、今主流のドラムと比べるととても弱い。バスドラムに脚をかけると割れる。
しかし、そこから得られる楽器の特性から「アコースティックドラム」と名乗る事、また華奢であると明言する事で、今の時代に求められる、華奢な作りによる軽さや独特のアコースティックを感じさせるサウンドキャラクターを得ることができた。小さな音からコントロールできるので、様々な会場にドラムセットを持っていく人に支持された。
よくドラムセットを買っても家で叩けないという人もいるが、家でコンサートするわけでもなく、ドラムセットを買っている人は家の外で使ってるのだ。
ロックのライブではライブハウスが持ち込みを嫌がるケースもあるが、アコースティックサウンド寄りの人は自分でドラムセットを持ち込むカフェなどで演奏するから、日本ではそちらの方にニーズがある。

でも、メーカーは作れなかったし、きっと、これからも作れない。

通常の流通では、今までのドラムと同じ感覚で知らずに買ってしまう人がいるとクレームに繋がることから、専門店や専門スタッフが居るお店に限った流通にさせていただいた。

極端な仕様と極端に絞った流通、楽器メーカーでは今までのしがらみがありすぎて作れなかっただろうドラム。

原材料の都合で、2017年の2月末で受注が終わる。
この楽器が存在できたことが、奇跡だと思う。

このドラムを作る時に相談させてもらった人、買ってくれた人たちに本当に感謝しています。

どれだけ、Shirai Keet Acoustic Drums が攻めた楽器だったのか知ってもらえると嬉しい。
楽器の販売が終わっても、楽器は残るので、これからどんな音楽が生まれるのかとても楽しみ。

さて、Original Keet の販売は終了しましたが、様々なアイデアを投入した新シリーズShirai Keet "Nue"が発売しましたよ。
https://shiraimusic.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=1804062&sort=n

http://www.keetgakki.com

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