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実写版ONE PIECEに於いてビビ役に"中東ルーツ"は必要か

昨年08月にNetflix上で配信が開始されると瞬く間に多くの視聴者を獲得した『ONE PIECE』Live Action

日本でも大きな話題となり『実写版ONE PIECE』や『Netflix版ONE PIECE』などの呼称が定着しました。

既にシーズン2の制作が決定し、エース役のオーディション情報やロビン役の情報など嘘か真か怪しげな噂が飛び交っています。

シーズン2はイーストブルーサーガで描かれていないローグタウン編からアラバスタサーガ全体程度が制作対象なのではないかというのが大方のファンの予想ですが、アラバスタ王国を語る際中心になるのが王女ネフェルタリ・ビビの存在です。

ONE PIECE 単行本23巻より引用

描き方によってはシーズン2に於ける主人公にもなり得る重要人物ですが、本記事では彼女の配役について、ファン間の議論を見ながら考えてみたいと思います。

因みに本記事に於けるONE PIECE物語区分は英語圏で浸透しているSaga/Arcに準拠しサーガ/編と変換し用いています。


古代エジプトに着想を得たアラバスタ設定

まず思い出さなければならないのは単行本17巻のSBSで語られている通り、ONE PIECEに於けるアラバスタ王国は現実世界の古代エジプトを主たるモデルに構築された世界であるという点です。

アラバスタ王国を統治する王家の姓『ネフェルタリ』は古代エジプトの王妃の名前からの引用ですし、風景・気候・建築物のほか動植物や住民が身に着ける衣服などが古代エジプト(そしてインド)から引用されており世界観形成に大きな影響を与えています。

ではそこで生活している人々とは?日本の漫画では多くの場合突き詰めて設定されない点ですが、実写化となれば当然直面する問題です。

レインベースや首都アルバーナを目指す最中で遭遇する王国住民の人種/民族を統一的に見せることは絵面としての説得力を向上させるでしょうし、制作チームもこの点は実写版制作に生かすのではないかと思います。

現代エジプトの住民はアラブ系が多くを占めますが古代エジプトのそれには論争があります。歴史研究から現在有力とされている説を採用するか現代に生きる我々が"砂漠の国"と結びつけやすい人種を起用するかは判断が分かれるところですが、どちらにしてもヨーロッパ系白人俳優を配置するよりアラバスタ王国の異国情緒を強調することが可能な筈です。

日本人はそういった点に無関心である方が多数派であるように感じますが、世界に目を向ければredditのスレッドやDiscordサーバーで白熱した議論が起こってしまう程にこの点に論理的整合性を求める方は多い様子です。

キャスティング・ディレクターは少なくともビビにミックス女優をキャスティングしないほど愚かだとは思わない。熱心なファンは気に入らないだろうがONE PIECEファンとして私たちはすでにビビがどのような外見なのか見当がついているし、それでいいと思っている。しかし、新しい視聴者はエジプトに多大な影響を受けている国を代表する完全な白人女性と、明らかに有色人種である父親を見ることをあまり喜ばないだろう。

もし第2シーズンがあれば、アラバスタの気候(暑さとまぶしい太陽)がはっきりわかるだろうし、白人ではなく有色人種を起用したことに人々が腹を立てるのはかなり愚かなことだろう。ビビが人生の大半をそこで過ごしたことを考えれば、アニメや漫画のように色白(文字通りナミより色白)であるのはとても奇妙に見えるだろう。

https://www.reddit.com/r/OnePieceLiveAction/comments/165fg32/comment/jydmomj/ より引用

ビビは中東系のはずだ。

ドレスローザに着いたら、レベッカとヴィオラはスペインの女優になるはずだ

https://www.reddit.com/r/OnePieceLiveAction/comments/165fg32/comment/jyevsrs/ より引用

商業として考えてもONE PIECEが対象としている市場の大きさを考えれば『重要なのは見た目がイラストに似ているか否か』という外見優先で作っていくのは得策ではないかもしれません。

アラバスタ王国住民の配役にアラブ系など中東ルーツの俳優を多く起用した場合、当然その地の出身であるビビもそれに準ずることが自然であると考えられます。

原作漫画のカラーイラストでは特に肌が白く描かれていたビビですが、中東ルーツの俳優の中から起用するとなればその人物が褐色肌である可能性が幾らか高くなるかもしれません。或いはアラブ系女性によく見られる外見的特徴がイラスト上のビビと異なることは外見最優先派の拒否反応を引き起こすかもしれません。

しかし、ビビを中東ルーツの方が演じる合理性はもう一つあります。

ネフェルタリ・コブラの外見的特徴から考える『ビビ』

そう、ビビの父親であるアラバスタ国王ネフェルタリ・コブラの存在です。

ONE PIECE 155話より引用

彫りの深い顔に長くクッキリとした眉毛とファラオ絵画やツタンカーメンマスクを模した特殊な顎髭。何処かしらツッコみたくなる要素を設けることはONE PIECEキャラクターデザインの伝統ですが、コブラの外見的特徴の多くはアラブ系のそれに通じています。

こうした点からコブラの配役を考えた場合は中東ルーツを持つ俳優から起用する方が自然と言えます。

母親であるネフェルタリ・ティティの外見はビビと同じく中東ルーツには描かれていませんがアラバスタサーガ全体の整合性を重視するならば仮にコブラがアラブ系であればビビもアラブ系である方が説得力は増すでしょう。ただでさえ少しの間違いが"コスプレ劇化"を加速させ易いONE PIECEに於いて「この親からこの娘が生まれたの…?」という連続性への疑問を抱かせる配役は悪手であるように思います。

まさにそれが言いたいことだ、私がイライラしているのは人々がハリウッドで様々な民族グループの代表をすぐに要求するのに、私たちアラブ人が同様の懸念を表明するとしばしば沈黙させられたり無効にされたりする。

https://www.reddit.com/r/OnePieceLiveAction/comments/16heh2v/comment/k0dez3h/ より引用

エジプト人の肌色はさまざまで、簡単に肌の白いエジプト人を選ぶことが可能だ。ラミ・マレックはエジプト人だが、私は「白人」に見えるエジプト人をたくさん知っている。アラバスタは古代エジプトとアラブの影響が混ざったものだから、色白のエジプト系アラブ人が物議を醸す理由はない。また、他の国のアラブ人も色白であることがあり、シリア、パレスチナ、レバノンの人は超色白だ。コーカソイドや西洋人は、国や人種、地域に関係なく、世界の他の人々がサブサハラ・アフリカ系か何かに見えると思っているのではないかと思うことがある。

https://www.reddit.com/r/OnePieceLiveAction/comments/165fg32/comment/jye2jgb/ より引用

シーズン1の例からビビの髪色は現実世界には自然に存在しない青になることが確実視される中で人種的・民族的整合性議論に意味は無いという反論も可能ですが、例えば実写版でワノ国編を描くことになった場合(現実的にはそこまで辿り着くことは難しいとしても)、ホワイトウォッシングで登場人物の多くをヨーロッパ系白人に入れ替えたとしたらどうでしょう。その時最も怒るのは恐らく日本のONE PIECEファンであろうと思います。

反論として「ワノ国は架空の世界なのだからモデルが日本であってもそこに住む民族が日本人/日系外国人である必要はない」という言い分があったとします。しかし、ワノ国の景観や文化などから導き出す住民像が日本のONE PIECEファンの間に明確に存在する以上多くの人は納得しないでしょう。

ONE PIECE 単行本19巻より引用

アラバスタ王国も同じでエジプトのONE PIECEファンはアラバスタが適切に描かれることを切望しています。また、そうでない人達も自らのことに置き換えモデルとされた国家・文化への敬意の示し方は慎重に考えるべきです。

勿論、最終的には『原作者の意向』『ファンの支持を得られるか』が選択基準になるでしょうが、ビビの場合はファン界隈の議論で中東ルーツの配役を求める声が数多くあることが後押しとなるのかもしれません。

最後に

ロロノア・ゾロを新田真剣佑が演じていることはゾロのルーツが日本をモデルに描かれたワノ国にあることが分かっている2024年現在のONE PIECE事情に於いて大きな意味を持っています。

外見的に似ている点だけでなく、背景的要素に気を配るというのは熱心なファンの評価を高めるだけでなく多様な種族/民族の共存と衝突を描いてきたONE PIECEという物語を表現する上で非常に意義深い判断です。

シーズン2にてアラバスタ王国に生命を吹き込むには景観の再現だけでなくその地で生まれ育った人々の配役に説得力をもたらすことが大切になるのではないでしょうか。

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