前世のひとつ
わたしはずっとずっとむかしに、
五重塔の5階の掃除を任されておりました。
わたしは、僧侶でした。
でも、ヒトが入れぬ五重塔の塔の五階の掃除を任されるのは、大変に名誉あることでした。
当時は左側の建物はなく、五重塔の周りには大きな建物はありませんでした。
当時の畳というものは、現在の畳よりも目が粗く、足で踏むと少し沈むくらいの弾力がありました。
でも五重塔の塔の五階は、もとからヒトが入れないように設計されていたため、周りに張ってある板をそろそろと使いながら、シュロ箒のようなもので畳の目に沿ってホコリを掻き出すのです。
その日、わたしは畳の一部が傷んでいることを発見しました。
はしごで降りて、そのことを伝えにいく途中で頭が痛くなりました。
椅子に座って休めばよいと思い、しばらく椅子に腰をかけていましたが、
わたしの命はそこで終わっていました。
白い粗末な法衣を着て、少し崩れた感じで椅子に座ったまま死んだのです。
でもわたしは、あの畳の痛みを報告できなかったことが、とても心残りでした。
誰か早く気づいてほしい、
そう思いながら上に昇っていったのを覚えています。
あなたはこれを信じますか?