『始点』 #368

ウォシュレットは最も弱い出力から始める。いまや家にもお店にも高速道路のサービスエリアのトイレにも、だいたい設置されているウォシュレットだけど、それぞれの便器(厳密に言えば、ウォシュレットは便器から出る機種より、ウォシュレット付き便座としてある方がまだ多いので厳密に言えば、便座、だ)によって強さの度合いも段階も違っていて三段階のもあれば五段階のもあるし、ある三段階の最弱の出力でもある五段階の強目の出力より大きいものもあるしで、とにかく出力にばらつきがあるから、おしりが弱めな私はうっかり強力な「おしり」にあたってしまうと顔が引きつるほど面食らう。だから、必ず出力最小にしてから使う。
ウォシュレットで千文字書きたいわけじゃなく、ウォシュレットの強さを始点に、始点の話をしたい。いうなれば程度の話。で、次に料理。なにか調理していて調味料を加えるとき、「調味料は入れてから足せても減らせないから少しずつ」というのが一般的なお約束があるから、確実に手慣れたものでなければ少しずつ加えていく。幼い頃に初めてチャーハンを作った時だったと思うけど、母に「どのくらい入れるの」とその時は塩だったか醤油だったかなんだったか覚えていないけれど、どのくらいの量を入れるのか尋ねたら「てきとう」と返ってきて、「わからないからきいてるんじゃん」と食い下がったら「だって決まっても無いし、てきとうだよ」と言われて泣きそうになるくらい困った記憶はくっきりと残っている。子どもにとって初めてなことは、ものすごくこわいもので、いったいどう、動いたらいいのかわからないもので、「ひとつまみから」とか「小さじ一杯から」とか、どこから始めればいいのかを手助けしてやることは初めてのことには大事だよな、だなんて今思う。はじめの一歩の踏み出し具合というか。ウォシュレットは最弱から、調味料は少な目から、お化粧は薄めから。
逆に、大きい方から始めるものってあるだろうか、そう考えているあいだは書けなくて、ひとつだけ思いついたから始めたのでして、それは、マニュアルの車を発進させる時に踏むアクセルの強さ、これは弱すぎるとクラッチを上げても力が足りなくてエンストしてしまうから、クラッチを上げて発進できるアクセルの踏み具合より少し強めに踏んでから調整する。慣れればアクセルを踏み込みながらクラッチを上げていくこともできるけれど、初めのうちは強めから始める。他に陸上競技のハードル走で、慣れるまではジャンプして飛び越えるように高く跳んで、速く滑らかにハードリングしていくためにはどんどん低くする。もう思いつかない。
難しいのが、初対面のひととの接し具合で、これは強めにスタートするのも弱めにスタートするのも、相手次第でもあるし自分の性格次第でもあるわけで、なんとも言えない。これ、やっぱり「程度」の話になってしまった。どうやら始点を間違えたんだけど、果たしてこれは強かったのか弱かったのか。どちらでもないか。

#始点 #210907

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?