『前髪』#282

切った。長くなれば切る、爪も、髭も、前髪も。不思議なもので、自分の輪郭を大きくする、大きくしてしまうものに対しては人間、切って縮めるように意識が働くらしい。
自分のあずかり知らぬ領域を抱えるわけにはいかないわけであるから、それは誠に正当な、自己防衛の手立てのひとつ。と、そんなこととは関わりなく、前髪が伸びてくると分け目がパックリと割れやすいのと目の上で邪魔っけなのと、顔の肌の見えがかりが横長になってしまってデブっぽく見えてしまうのが嫌なのとで、すぐ切る。自分で切ると、毛先をちょっと整える、とかそんなもんでなく、5ミリとか1センチでもなく、眉毛と生え際の中間地点くらいまでざっと切る。切った上で縦にハサミを入れて梳く。だいたいにおいて、ザクザクっとした前髪の感じになる。バブリーな、シャギーの、雑な感じ。前髪のライン、というものがない感じに、切り崩す。私の前髪の輪郭は線では表現しきれないのかもしれない、というか、滑らかなラインでは表現しきれないそのことが、目的になってすらいるような、意図的なザクザク。
そんな、わたしの前髪の作り方の話から、前髪を作るってことで、別のところで気になる話、女性が髪型を変えた時に「前髪作った」と言うことがある、そう、聞くことがあって、それがいつも面白いなと思ってた。その言葉を聞くたびにわたしは「前髪は作ろうが作るまいが何はともあれ、生えてるじゃん、あるじゃんいつでも」と思う。「何を、いままで前髪無かったかのように言ってるんだね、あるじゃんいつでも」と。どうやらそういうことではないらしい。言っている人に、“前髪作り”の意味を確認したわけじゃないから推測でしかないけれどおよそ間違ってないと思うので書くと、ある程度の長さがある髪の人で前髪含め顔周りの髪が他と同じ長さに(ワンレングス、でいいのかね)揃っていて、額のあたりで前髪を分けていたり流していたり、まぁとにかくトップもサイドも前髪も、長くキープされているとき、「前髪がない・前髪を作っていない」状態らしい。その状態から、カットなどしておでこから目もとあたりに前髪がかかる長さ、サイドやトップと違っておでこの近辺に毛先がくる長さにカットしてあると、「前髪がある・前髪を作った」状態となるらしい。これがいつも面白い。頭の前側に生えてれば全部前髪、サイドとの境目は特に決まってなくて曖昧ではあるけれど、前髪とは毛穴のポジションで決まってるもんだと思ってて、そうではなく前髪は目周りとかおでことか顔にかかる長さに、サイドやトップと差別化された長さになっているものを前髪という、その視点は新鮮だった。
視点も何も、自分の目から前髪なんて見えないんだけどさ。

#前髪 #180926

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