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賃貸の退去時クリーニング費用は無料にできる?→国交省ガイドラインを引用して解説

最近、SNSで「賃貸の退去時クリーニング費用は無料にできる!国交省のガイドラインに書いてある!」という動画を目にしたので、本当に書いてあるのかきちんと読んだ上で、自分なりの解釈をまとめてみました。

※ガイドラインには一人ひとりの解釈があると思いますので、一概にこれが正しい!と言うつもりはありません。


国交省のガイドラインとは

正式名称は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。ガイドライン作成の背景については、国交省のHPに以下のように記載されていました。

民間賃貸住宅における賃貸借契約は、いわゆる契約自由の原則により、貸す側と借りる側の双方の合意に基づいて行われるものですが、退去時において、貸した側と借りた側のどちらの負担で原状回復を行うことが妥当なのかについてトラブルが発生することがあります。

こうした退去時における原状回復をめぐるトラブルの未然防止のため、賃貸住宅標準契約書の考え方、裁判例及び取引の実務等を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方について、妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとして平成10年3月に取りまとめたもの

国土交通省HP

要約すると ↓

契約内容は当事者が自由に決められるし、国は干渉しないのが原則だよ!とはいえ原状回復をめぐるトラブルが起こりがちだから、判例や実務の一般的な解釈をまとめといたよ!これを双方の共通認識とした上で契約すればトラブル未然防止になるよ!

ということですね。過去の判例による一般的な解釈をまとめたものだと説明されています。大前提として、ガイドラインはルールではない事がわかります。(重要)


クリーニング費用は家賃に含まれるべき?

クリーニング費用を特約で定めている契約が多いですが、「クリーニング費用はすでに家賃に含まれているから払わなくていい!」と、SNSでよく耳にします。
おそらく国交省HPの以下の文章を指していると思います。

原状回復とは

原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義し、その費用は賃借人負担としました。そして、いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとしました。

国土交通省HP

↓要約すると

「原状回復」とは、
故意・過失、②通常使用を超える使用による損耗 を復旧すること。
その費用は賃借人負担。

「原状回復義務を超えた修繕」とは、
経年変化、④通常使用による損耗 を復旧すること。
その費用は賃料に含まれる。

その中で、建物の価値減少の要因として以下4つが挙げられています。

①故意・過失
②通常使用を超える使用による損耗
③経年変化
④通常使用による損耗

ガイドラインで言及される「原状回復」が①〜④どれの復旧を指すのか曖昧にならないように、原状回復とは何かを定義した文章だったんですね。
まだ本題に入る前なので、ここで「クリーニング費用は家賃に含まれる!」と結論付けるのは少し早すぎるかも…!

また、ここで注意しておきたいのは、「原状回復義務を超えた修繕費用を借主に負担させてはならない。」とは書いてありません

更に、ガイドラインにはこのような記載もあります。https://www.mlit.go.jp/common/001016469.pdf ←ガイドラインへのリンク

特約について

賃貸借契約については、強行法規に反しないものであれば、特約を設けることは契約自由の原則から認められるものであり、一般的な原状回復義務を超えた一定の修繕等の義務を賃借人に負わせることも可能である。しかし、判例等においては、一定範囲の修繕(小修繕)を賃借人負担とする旨の特約は、単に賃貸人の修繕義務を免除する意味しか有しないとされており、経年変化や通常損耗に対する修繕業務等を賃借人に負担させる特約は、賃借人に法律上、社会通念上の義務とは別個の新たな義務を課すことになるため、次の要件を満たしていなければ効力を争われることに十分留意すべきである。

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

このように、「原状回復義務を超えた修繕費用を負担させる特約も認められる。」と、ガイドラインでも説明しています。ただし、判例によると一定の要件を満たさなければ、その特約は無効になる(と裁判で判断される)ケースもあるそうです。その要件が以下3つとのこと。

ガイドラインから引用

クリーニング特約は「原状回復義務を超える修繕」ですから、特約が認められるには3つの要件を満たす必要ありそうです。


クリーニング特約が認められるための要件3つ


①特約の必要性があり、合理的理由が存在すること

クリーニング特約の合理的理由とは何でしょうか?
大家さん目線で、家賃の値付けから考えてみると理解しやすいかもしれません。

【問題】
家賃収入を120,000円/月としたいとき、更にいくらかのクリーニング費用をあらかじめ上乗せし、妥当な家賃を求めよ。

条件1)クリーニング費用を48,000円とする。
条件2)4年間(48ヶ月)入居するものとする。

48,000円 ÷ 48ヶ月
=1,000円/月(上乗せするクリーニング費用)

120,000円/月 + 1,000円/月
=121,000円(クリーニング費用含む)

妥当っぽい家賃121,000円が求められました。やったね!

…はい、これは合理的ではありません。
49ヶ月以上暮らし続けた場合、入居者は余計な1,000円を延々と払い続けることになってしまいます。
実際の入居期間が事前にわからない以上、こうした不合理を防ぐためにクリーニング費用は賃料と別けるのが合理的とされているようです。

■これから契約する人へ
「クリーニング特約を外してほしいから、家賃を値付けし直してくれ」と打診することも”理論上は”可能でしょう。ただし、大家さんとしては取りっぱぐれを防ぐために、家賃を余計に上げざるを得ないことに注意です!
(結果的に不利益になりますし、取り次いでくれる仲介業者を見つけるのは現実的ではなさそうです。)



②賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること

クリーニング特約が合理的であることは分かりました。
では、2つ目の要件「原状回復義務を超えた修繕(経年変化・通常使用による損耗等の修繕)を負担することを認識」とは、具体的にはどのようなケースでしょうか?

↓ガイドラインにはこのように書かれていました。

最高裁判例では、「(中略) 通常損耗及び経年変化についての原状回復義務を負わせるのは、(中略)賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗及び経年変化の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、(中略)口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の通常損耗補修特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である」との判断が示されている。

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

以上が最高裁の判断とのこと。
経年変化・通常使用による損耗の修繕費用を負担させるには、その"範囲"が具体的に明記(あるいは口頭説明)・明確に合意されている必要があるそうです。

範囲ってなんでしょう?これは人によって解釈が分かれそうですね。更に判例を見てみましょう!

裁判で認められたケース

「契約終了時に、本件貸室の汚損の有無及び程度を問わず 専門業者による清掃を実施し、その費用として2万5000円(消費税別)を負担する」旨の特約 が明確に合意されていると判断されたもの

(東京地方裁判所判決平成21年9月18日)

裁判で認められなかったケース

ルームクリーニングに要する費用は賃借人が負担する」旨の特約は、一般的な原状回復義務について定めたものであり、通常損耗等についてまで賃借人に原状回復義務を認める特約を定めたものとは言えないと判断したもの

(東京地方裁判所判決平成21年1月16日)

それぞれの判例には、↓以下の相違点が見つかります。

「専門業者による清掃」・・・賃借人が負担すべき内容がわかる
「汚損の有無及び程度を問わず」・・・経年変化・通常使用による損耗分まで負担させる事がわかる
「2万5000円」・・・金額が明記されており、費用として妥当である

これらの点などから総合的に判断されているようです。少なくとも、この3点を具体的に明記した特約であれば、裁判でも認められると言えそうですね。



③特約による義務負担の意思表示をしていること

3つめの「特約による義務負担の意思表示」は、要件②が記載された契約書へのサインで要件を満たすと言えそうです。



クリーニング特約の結論

以上から、クリーニング特約が有効とされる場合があることが分かりました。実際には個々の契約ごとに判断が別れると思いますので、ご自身の契約書をよく確認してもらうと良さそうです。

結論1.
特約があれば特約に従いましょう。

家賃にクリーニング費用が含まれるべき、と一般的に解釈されるのは、特約がない場合です。
経年変化や通常使用による損耗分まで負担することや、その負担内容、妥当な金額が明記されていれば、その特約は有効と解されます。


結論2.
特約が無いのにも関わらず、経年変化、通常使用による損耗分までクリーニング費用を請求されたときは、基本的には払わないスタンスで問題ないと思います。

ちなみに、一般の居住用賃貸でクリーニング特約を定めていない契約は見たことがありません…。もし特約の記載がない場合は危険度MAXです。かなりいい加減な管理会社なのかもしれません。すべてのやり取りをメールで文字に残すなど、慎重に手続きを進めた方が良いです。


結論3.
特約はあるが、書き方があいまい
なときは、ガイドラインを参考にしながら話し合いましょう。

明確な結論を導きたかったところですが、このような結論になりました。ガイドラインに法的効力はありませんし、すでに締結されている契約が有効なものとも考えられます。
ただし、ガイドラインで知識武装すれば手強い人と思わせる程度の効果は期待できるかもしれません。



まとめ

ガイドラインに法的効力は有りませんが、きちんと理解して役立てられるといいですね!

もちろん、ボッタクリには断固反対でOKです。
特約に定めていないのに経年変化や通常損耗分まで請求されても負担する必要はありませんし、ご自身の過失による原状回復であっても不当に高額な請求であれば、強気の姿勢でいいと思います!

これから契約する人、これから退去する人、どなたかの参考になれば幸いです。

以上、「賃貸の退去時クリーニング費用は無料にできる?→国交省ガイドラインを引用して解説」でした。


追記

今更ながら自己紹介です。
都内でお部屋を借りる手続きサポートをしていて、COST/ (コストスラッシュ)というセルフ仲介型の不動産サービスを運営しています!
このnoteを見てくれた方のお役に立てれば嬉しいです。



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