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クラシックのオーケストラ音楽において主旋律以外の音はどうなっているのか 第一号

 オーケストラの作曲をするなかで、主旋律を作曲はしたがその裏で何をどのように音を重ねればいいのであろうか、という悩みを持つことも少なくない。そのような疑問を解決するには、やはり過去の大作曲家がどのようにオーケストラという様々な楽器を用いた形式と対峙し音楽を作ってきたのか、それらに触れよく観察をし分析することが、何かの糸口を得るきっかけになるのではないかと考えた。

 今回はチャイコフスキー作曲のバレエ「白鳥の湖」より、「情景」を音源と総譜を元に、筆者の主観で観察した上に言語化し、主旋律の裏でどのような音が扱われているのかをテーマに分析していく。

 使用する音源はこちらにリンクを貼ったものである。こちらを実際に聴きながら読むとより理解が進むであろう。
 なお、パブリックドメインの総譜をインターネット上から手に入れ、それをも見ながらであれば、いくらか理解が容易になるであろう。



冒頭からのオーボエによる主旋律部

 冒頭、主旋律はオーボエのソロから始まる。早速この文章のテーマである主旋律の裏の音に注目して行く。

3つの弦楽器によるトレモロ奏法の和音

 まずこの曲が始まるに従い目立って聴こえてくるのはストリングスのトレモロ奏法であり、最初の頭の音でスフォルツァンドのアクセントを添えられデクレッシェンドをもって強弱記号におけるピアノの強さまで落とし、オーボエの主旋律の裏の音として続く。詳細には第一、第二ヴァイオリン、ヴィオラによるトレモロ奏法が、オーボエによる主旋律から4本のホルンのユニゾンによる主旋律の壮大な場面に移り、その後に主旋律が第一、第二ヴァイオリン、ヴィオラに渡されるまでの間に続いており、音楽にトレモロ奏法による一定の統一感を感じさせ続ける。
 話をオーボエソロの主旋律の部分にフォーカスする。オーボエのソロを主旋律とする場合、一本の楽器の音量は自然の摂理に従い、音量は小さい。したがって、その裏で演奏される音も小さくなくては、主旋律が聴こえにくい事態になってしまう。1本のオーボエがピアノの指示を与えられ、3つの弦楽器はそれぞれピアノの指示である。オーボエがクレッシェンドなどの指示で強くなれば、3つの弦楽器も同様の記号にて強くなっている。主旋律に対して裏の伴奏が同じ強さで動いていることを伺える。
 3つの弦楽器により具体的に何が演奏されているかというと、3つの楽器がそれぞれ違う音でトレモロ奏法をし、和音を演奏しているのである。つまりこれらの楽器はハーモニーの役割を持っている。 

 ここまで3つの弦楽器を観察し学んだことをオーケストラの主旋律の裏である伴奏の作曲に応用するのであれば、以下の点に注目してみたい。

  • ある特定の目立った奏法を続ければその間に音楽的な統一感を演出し続ける事が可能である。

  • 主旋律の音量に対して、主旋律が聴こえる様にしたい場合は、伴奏の音量に気を付ける必要がある。

  • 主旋律への強弱記号やクレッシェンドなどの指示により抑揚が付けられた場合、伴奏もそれに従い同じ大きさで動くことにより、主旋律の抑揚、全体的な音楽の抑揚をより際立たせることが可能である。

  • トレモロ奏法を3つの弦楽器にそれぞれ違う音名の音で演奏させ和音の役割を持たせる事が可能である。

チェロとコントラバスによる低音

 ここまで、オーボエの主旋律の裏側で3つの弦楽器、すなわち第一、第二ヴァイオリン、ヴィオラについてはトレモロ奏法で和音が伴奏されている事が分かった。では他の弦楽器、チェロとコントラバスは何をしているのかを観察して行く。
 これらの2つの弦楽器が最初に音を出す部分はオーボエの主旋律が始まる第一音と同時で、主旋律が始まる小節の頭である。チェロとコントラバスはオクターブで同じ音を演奏する事がしばしばあるが、この場合も同様である。双方ともピッチカートによりオクターブで低音部の役割を担っている。オーボエの主旋律が4小節で1フレーズとなっているが、冒頭、チェロとコントラバスの低音は1小節目の1拍目と4小節目の1拍目の2音のみとなっている。次の4小節でも同様なオーボエのフレーズが続くが、2つの弦楽器による低音がどうなっているかというと、今度は1小節目が何もなく、2と3の小節ではチェロが他の3つの弦楽器のトレモロ奏法に参加し、最後の4小節目でチェロとコントラバスのオクターブによる低音が1拍目と3拍目に置かれている。音楽が単調にならないよう、繰り返しの1回目のフレーズとは違うものが伴奏に置かれている事になる。この後オーボエから4本のホルンへ主旋律が渡るまでの間はややチェロとコントラバスの音数が増え、主に1拍目と3拍目に低音のピッチカートを置くようになる。

 チェロとコントラバスにおいて学んだ事を筆者の主観で纏めると以下のようになる。

  • 冒頭の低音の音数を少なくする事により音楽的な進行感を穏やかにし、主旋律をシンプルに強調する効果。

  • 主旋律の繰り返し部分では伴奏で違うアプローチをする事により音楽が単調にならない様に演出。

  • チェロとコントラバスをオクターブで同じものを演奏させ、低音部の役割を与える。

ハープによる装飾的な和音のアルペジオと低音

 ここまで主旋律のオーボエと3つの弦楽器、2つの弦楽器がそれぞれ大きく分けて、主旋律、和音、低音の役割を与えられている事が分かった。
 ではこのオーボエが主旋律を担っている場面において他の楽器は存在するかというと、ハープが存在するのである。このハープは白鳥の湖の他の音楽においても使われてる楽器であり、白鳥の湖の全体を通しても、作品に統一感を与える重要な楽器であると筆者は考える。
 ではこのオーボエの主旋律の部分においてハープはどんな音を出しているのかを見ていく。
 まずハープは曲の冒頭の1拍目から音を出している。3連で和音のアルペジオを演奏しているのである。3つの弦楽器による和音よりも音数が多くなり、リズムをより演出していると言える。
 ハープの役割は和音のアルペジオによる装飾的な演出に留まらない。アルペジオと聞いて想像できる事の一つに、始まりの音は低音から始まり高音へ向かう、またその逆も想像しやすい。つまりハープはアルペジオの第一音によって低音の役割さえも担っているのである。これは先ほどのチェロとコントラバスの冒頭の音数が少なくても済む理由にもなると考えることができる。そしてハープの音色はチェロとコントラバスのピッチカートの音色と近い。つまりハープは和音によるアルペジオを担いながら、低音もチェロとコントラバスのピッチカートに添えるように役割を与えられているのである。オーボエが主旋律の部分の後半では、2つの弦楽器と全く同じ音でユニゾンしている。これは明らかに似ている音色の楽器を混ぜている意図を伺える。
 そしてハープのアルペジオは時折、音数を増やし速いパッセージで音楽に装飾的な彩りを与えている。役割は多岐に渡っているのである。

 ハープにおいての役割や効果を主観的に纏める

  • ハープに和音のアルペジオを与える事で音楽にハーモニーと同時に装飾的な音を与え、音数により隙間を埋めるような効果をもたらす。

  • ハープの低音域の音により全体の低音部を担う事もあれば、他の低音部を担う楽器にユニゾンやオクターブで参加し音色や音量を補うことが可能である。特にチェロとコントラバスのピッチカートの音に、ハープの低音部の音は似ており、混ぜる上でそれが効果的となる。

  • ハープが可能である速いパッセージの音数の多い音は音楽の要所で装飾的なアクセントを持たせる事が可能である。

4本のホルンのユニゾンによる壮大な主旋律部

 1本のオーボエによる主旋律から、4本のホルンのユニゾンへと主旋律が渡され壮大な音楽となる。この部分の主旋律以外の音は一体どうなっているのか見て行く。

トレモロ奏法の3つの弦楽器の変化とそれに参加する1つの弦楽器

 まず聴いてみて一番耳に入ってきやすい伴奏の音、すなわち主旋律の裏の音は何かと考えると、やはりここでも続いているストリングスのトレモロ奏法であろう。特殊奏法というものはやはり目立ちやすく、音楽全体の印象に統一感を与え易いのであろう。
 ここでは4本のホルンによるユニゾンが主旋律となり強弱記号もフォルテが指定されており、全体の音も壮大なものとなる。3つの弦楽器のトレモロ奏法もそれに従ってフォルテと指定されている。
 ここでの3つの弦楽器によるトレモロ奏法はこれまでとは異なったものとなっている。それぞれ第一、第二ヴァイオリン、ヴィオラでディヴィジとするように音符が示されているのである。ディヴィジとは、例えば第一ヴァイオリンの場合であると、ヴァイオリンを持つ複数人の内、半分の人員では低い方の音を弾き、もう半分の人員では高い方の音を弾くという具合に、2つの音を第一ヴァイオリンの中で分割し演奏する手法である。
 これによりこれまでのトレモロ奏法部の和音よりも広い音域に至る和音を演出している。オーボエが主旋律であった場合は広くて短7度程度であったが、ここでは2オクターブ辺りまでに渡って3つの弦楽器によるディヴィジを用いた和音の展開により音が分散されている。
 ただ、3つをそれぞれ2つに分割しているからと言って6種の音を使った和音であるという事ではなく、例えばここの第一小節の頭ではファ#、シ、レ レ、シ、レと3つの音で和音を構成している。ディヴィジの効果としては和音の音域を広げるという効果がこの部分においては言えるであろう。
 それに加えさらに第3小節からはチェロもトレモロ奏法に参加している。これまででもこの手法は使われていたが、ここでも登場し、さらなる低音部への音域の拡張をしている。

 3つの弦楽器の音域の広がった和音に加えチェロが参加したトレモロ奏法について主観的に纏める

  • 音楽が展開しても継続した特殊奏法などにより音楽全体の統一感を保つ。

  • 主旋律と同等の強さを指示する強弱記号が伴奏にも適用される。

  • ストリングスをそれぞれディヴィジにすることにより、より広範囲に渡った音域で和音を展開する事が可能である。

  • チェロは低音部を担うことだけでなく、臨機応変に第一、第二ヴァイオリン、ヴィオラに参加させることが可能である。

コントラバスとティンパニのトレモロによる低音

 続いて低音部を見て行く。低音部は後述するチューバにも役割を与えられているが、金管楽器は別のリズムを持って和音としており、チューバをその最低音であると解釈することも可能であるので、そこで後述する。ここでは弦楽器のコントラバスと、ティンパニのトレモロについて観察する。
 ここではコントラバスは全音符で永久的にずっと「シ」を通常の奏法で演奏している。強さはフォルテである。3つ弦楽器とチェロが和音を進行しているのに対し、コントラバスはずっと同じ「シ」を演奏している。
 それに加え同じ「シ」の音で同様に全音符で主旋律が4本のホルンの間中、ティンパニのトレモロ(ロール)が演奏される。これによりより壮大で重々しい印象をコントラバスと共に低音の役割として与えていると筆者は考える。ここで断りを入れておくと、ティンパニは打楽器であるが音程を持つ楽器である。ティンパニと他の音程を持つ低音の楽器で同じ音程の低音を担うことが可能なのである。
 しかしながらティンパニは一度に沢山のティンパニを置くことが難しい楽器であるので、使える音程は一般的に2~5台までで使用される。この音楽では「シ」と「ファ#」のティンパニが使われる。
 ここでふと思いを巡らせてみると、何故コントラバスが1つの音のみの音程で低音を担っているのかという謎に答えが出てくるのである。それはティンパニが「シ」だけをトレモロで演奏することが都合が良いからなのではないかと筆者は考える。つまりここはティンパニのトレモロが前提として演出したかったゆえに、低音を同じ音で続ける作曲となったのではないか。しかもそれが荘厳で重々しい雰囲気を演出するのにさらなる効果をもたらすことになっている。オーケストレーションにはしばしばこのような辻褄のあう組み合わせを持って、パズルのように楽器を創意工夫をもって組み合わせることが行われているのが分かってくるのである。

 コントラバスとティンパニの組み合わせについての主観的な纏めである

  • ティンパニはトレモロ奏法により低音と同じ音を演奏しより荘厳で重々しい印象を与える事が可能である。この場合ティンパニは台数に制限があり音の選択肢が少ないのでそれに合わせて他の低音の音を作曲する必要がある。

金管楽器の和音による低音域から中音域での重々しいリズム

 ここで初めて主旋律の4本のホルンと共に他の金管楽器も登場する。役割としては低音域部から中音域までの間でハーモニーのあるリズムを担っている。2本のテナートロンボーンとバストロンボーンとチューバにより、毎小節の頭の1拍目に4分音符で低音に寄った和音で重々しいリズムを刻んでいるのである。これにより音楽により重々しい印象を与え、加えてリズムを持たせていると筆者は感じるのである。
 これらの組み合わせによる役割は重々しさを与える事が一つの仕事のように思うが、その理由として、シ、ファ、シ、レという音を最後まで同じ音でリズムを刻んでおり、音程的な意味では、前述したコントラバスとティンパニと同様の動きの少ないものになっている。低音部でこのような一定の音程で継続して進行することは、重々しさを演出する上で効果的なのが伺える。
 さらに重々しさにおいて注目するべきことはチューバの音がコントラバスのオクターブ上であり、さらにそこにバストロンボーンにより5度上の音が置かれている。このオクターブによる効果と5度の響きも重々しさを演出する上で重要であると筆者は考える。

 テナートロンボーン、バストロンボーンとチューバによる金管楽器での和音の効果についての纏めである

  • コントラバスなどの低音部と統一感を持たせる動きにより、重々しさをより補い演出する事が可能である。

  • 金管楽器はしばしばリズムを刻むような演出に効果的である。

  • 低音でのオクターブや、低音~中音域での5度の響きは重々しさを演出する上で効果的である。

木管楽器による弦楽器のトレモロ奏法による和音への補い

 ここでは新しく木管楽器も登場する。オーボエがソロで主旋律を奏でていたが、今回は主旋律の裏で伴奏として演奏される。
 ここでの木管楽器の役割は、3つの弦楽器とチェロによるトレモロ奏法にユニゾンなどで補うことであると筆者は考える。2本のフルート、2本のオーボエ、2本のクラリネット、2本のファゴットにより、ほとんどが弦楽器のユニゾンなどにより同じ音を演奏しているのである。大きく分けて考えてみるとそれは和音の役割を担っていると言えるであろう。
  内訳としては、フルートは2本でユニゾンし弦楽器群の最高音と同じ音を担っている。他の木管楽器は弦楽器のディヴィジの音をユニゾンなどで補っているように伺える。
 これらにより、弦楽器でのトレモロ奏法の和音を音量的にも音色的にも響き的にも豊かにしているのである。木管楽器はやや聴こえづらく感じるが、確かにその音は聴こえており、音楽に影響を与えているのである。
 他に注目すべき点の一つとして、他がすべてフォルテな中で、強弱記号がフォルティッシモが与えられている。木管楽器は一つ一つの音が他の楽器、すなわち金管楽器などと比べると音が小さいのである。弦楽器は音が小さいが複数人数で演奏してあるので、ここでもまた木管楽器は音が小さいと言える。特に多くの楽器が同時に演奏されて壮大な場面では木管楽器の音は認識しずらくなるのである。

 木管楽器の弦楽器と共に演奏される和音についての主観的な纏めである

  • 木管楽器は本数が多く、和音を担うことが可能であり、他の楽器の和音にユニゾンで加わることにより音の響きや音量や音色を補うことが可能である。

  • フルートは最高音を担うのに適しており、和音が進行する上で和音の最高音を強調することが可能である

  • 弦楽器のディヴィジに対し、木管楽器の本数はユニゾンするのに適した数である。

  • 木管楽器は音が小さく、他の楽器よりも強い強弱記号が指示される場合もしばしばある。

 読んでいただきありがとうございました。2:40の音楽の1:15辺りまでの考察が完了しました。続きはまたこの記事に書き更新します。

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